後遺障害1級の賠償で弁護士が果たす役割|将来介護費はなぜ数千万円変わるのか

交通事故で、ご家族が後遺障害1級と診断された。
あるいは、これから1級に該当するかもしれないと言われている。
この記事は、そうした状況にあるご家族に向けて書いています。
後遺障害1級は、後遺障害の中で最も重い等級です。
寝たきりの状態、重い意識障害、両手足の麻痺など、常に介護が必要になる状態が多くを占めます。
このとき、賠償の問題は、ご本人の損害だけでは終わりません。
これから何十年も続く介護の費用と、ご家族の生活そのものが、賠償の対象になります。
この記事では、1級の事案で弁護士がどんな役割を果たすのか。
そして、弁護士が関与することで賠償額がどう変わるのか。
その仕組みを、順番に説明します。
1.後遺障害1級とは、どんな状態か
後遺障害等級は、1級から14級まであります。
1級は、その中で最も重い等級です。
代表的なのは、次のような状態です。
遷延性意識障害。
いわゆる植物状態と呼ばれる、重い意識障害です。
最重度の高次脳機能障害。
脳の損傷により、常に誰かの見守りや介護が必要な状態です。
脊髄損傷による四肢麻痺。
両目の失明や、両手足を失った場合なども、1級に含まれます。
共通するのは、生きていくために、常時または随時の介護が必要になる、という点です。
だからこそ、1級の賠償は、他の等級と考え方が根本的に違ってきます。
重い脳の損傷により、意識のない状態が長く続くことです。
自力での移動や食事、意思の疎通ができない状態が3か月以上続いた場合をいいます。
2.1級の賠償で、最も大きな項目は介護費です
2-1.賠償金の構成が、他の等級と違います
通常の後遺障害では、賠償金の中心は慰謝料と逸失利益です。
1級では、これに加えて、将来介護費という項目が加わります。
そして多くの事案で、この将来介護費が、賠償金の中で最大の項目になります。
将来介護費とは、これから先の一生分の介護にかかる費用です。
ご本人の年齢が若ければ、介護の期間は50年、60年に及びます。
1日あたりの介護費用に、その年数分を掛け合わせるのですから、金額は数千万円から1億円を超える規模になります。
2-2.職業介護か、家族介護か──ここが最大の争点です
将来介護費の計算では、介護を誰が担う前提にするかで、金額が大きく変わります。
職業付添人、つまりプロの介護を前提にすれば、実費相当額が認められます。
1日あたり1万5000円から2万円以上になることもあります。
家族の介護を前提にすれば、裁判所基準の目安は1日あたり8000円程度です。
保険会社は、家族介護を前提とした低い日額で提示してくることがほとんどです。
しかし、考えてみてください。
ご家族も年を取ります。
今は介護できても、20年後、30年後も同じように介護できるとは限りません。
裁判例には、一定の年齢まではご家族の介護、その後は職業介護へ切り替わる前提で計算した例が多くあります。
将来の切り替えを計算に入れるかどうかだけで、賠償額は数千万円単位で変わります。
ここが、1級の事案における最大の争点の一つです。
将来介護費の交渉で大事なのは、今の介護の実態を記録に残すことです。
1日のうち、何時に何の介助をしているか。
夜中に何回起きて、体位を変えているか。
ご家族がつけた介護日誌は、介護の必要性を裏づける最も説得力のある証拠になります。
交渉が始まってから振り返って作るのではなく、今日からの記録が力になります。
2-3.介護費以外にも、見落とされやすい項目があります
1級の事案では、介護費のほかにも、将来にわたる費用が発生します。
自宅の改造費。
車いすで生活できるよう、玄関・廊下・浴室・トイレを改修する費用です。
数百万円規模になることも、めずらしくありません。
介護用の車両の購入費や改造費。
将来の器具・装具の買い替え費用。
車いす、介護ベッド、吸引器などは、数年ごとに買い替えが必要です。
おむつなどの消耗品費も、一生分を計算すれば大きな金額になります。
保険会社の提示では、こうした項目が抜けていたり、一回分しか計上されていなかったりすることがあります。
将来の買い替え回数まで含めて計算し直すのは、専門的な作業です。
3.慰謝料と逸失利益──基準の違いによる差
3-1.後遺障害慰謝料の差
1級の後遺障害慰謝料は、基準によって次のように違います。
自賠責基準では、常時介護が必要な1級で1650万円です。
裁判所基準では、2800万円が目安です。
この時点で、1000万円以上の差があります。
さらに、1級のような重い後遺障害では、ご家族にも固有の慰謝料が認められます。
死亡事故に比べられるほどの精神的苦痛を受けた、と評価されるからです。
裁判例では、ご家族分として数百万円が加算された例が多くあります。
保険会社の提示に、この家族分が含まれていないことは、よくあります。
被害者本人とは別に、ご家族自身の精神的苦痛に対して認められる慰謝料です。
死亡事故のほか、1級のような重い後遺障害でも認められています。
3-2.逸失利益は、労働能力100パーセント喪失で計算します
1級では、労働能力を100パーセント失ったものとして、逸失利益を計算します。
事故前の収入をもとに、67歳まで働けたはずの年数分を計算するのが原則です。
争いになりやすいのは、次のような点です。
若い方や学生の場合、基礎とする収入をどうみるか。
平均賃金を用いて、将来の昇給の可能性まで考慮した裁判例もあります。
生活費を差し引くかどうか。
死亡事故と違い、後遺障害の逸失利益では、生活費は原則として差し引きません。
ご本人は生きて、生活を続けていくからです。
この違いだけでも、死亡事故より逸失利益が大きくなることがあります。
4.一括払いか、定期金か──1級だからこそある選択肢
賠償金は、一括で受け取るのが原則です。
しかし1級の事案では、定期金賠償という方法を選べる場合があります。
将来介護費や逸失利益を、毎月・毎年、分割で受け取り続ける方法です。
一括払いには、まとまった資金をすぐに使えるという利点があります。
自宅の改造や、当面の介護体制づくりには、まとまったお金が必要だからです。
一方、定期金には別の利点があります。
一括払いでは、将来分を先に受け取るため、中間利息という調整で金額が差し引かれます。
定期金なら、この差し引きがありません。
また、介護が続く限り受け取り続けられるため、長生きした場合の資金不足という不安に備えられます。
どちらが適しているかは、ご本人の状態、ご家族の生活設計、資金の必要時期によって変わります。
この選択自体が、専門的な検討を要する論点です。
将来受け取るはずのお金を今まとめて受け取ると、その間の運用益の分だけ有利になります。
そこで、その分をあらかじめ差し引く調整をします。
現在は年3パーセントの利率で計算されます。
5.金額以外で、弁護士が役に立つ場面
5-1.等級認定の段階から、関与する意味があります
1級の事案でも、等級認定は自動的に決まるわけではありません。
特に高次脳機能障害では、画像所見だけでなく、事故前後でご本人がどう変わったかという生活面の情報が、認定を左右します。
ご本人は、自分の障害を自覚できないことがあります。
これを失認といい、高次脳機能障害の特徴の一つです。
だからこそ、日々接しているご家族の観察が、最も重要な証拠になります。
怒りっぽくなった、同じことを何度も聞く、手順のある作業ができなくなった。
そうした変化を記録し、日常生活状況報告という書類に反映させる。
この作業を、認定申請の前から弁護士と一緒に進めることで、実態に合った等級に近づきます。
5-2.成年後見の手続が必要になることがあります
意識障害や重い高次脳機能障害で、ご本人が契約や判断をできない場合、示談をするためには成年後見人を選ぶ手続が必要になります。
家庭裁判所への申立てが必要で、書類の準備には手間がかかります。
弁護士は、この手続もあわせて進めることができます。
賠償の交渉と後見の手続を、一つの窓口で扱えることは、ご家族の負担を大きく減らします。
判断能力が十分でない方に代わって、契約などの法律行為を行う人です。
家庭裁判所が選任します。
ご本人に代わって示談をするために、選任が必要になる場合があります。
5-3.社会保障制度との橋渡し
1級の事案では、賠償金のほかにも、使える制度があります。
障害年金。
介護保険や障害福祉サービス。
自治体の重度障害者向けの支援制度。
これらと賠償金との関係は複雑で、受け取る順番や調整の仕組みがあります。
弁護士は、こうした制度全体を見渡して、ご家族の生活設計に沿った受け取り方を一緒に考えることができます。
5-4.長い手続の間、窓口を引き受けます
1級の事案は、解決までに時間がかかります。
症状固定の見極めに1年以上かかることもあり、そこから認定、交渉、場合によっては訴訟と続きます。
その間、ご家族は介護という現実を抱えています。
保険会社とのやり取りをすべて弁護士に任せられることは、金額に表れない、しかし確かな価値です。
介護に集中できる時間を作ること自体が、弁護士の役割の一つだと考えています。
6.実際、どれくらい変わるのか──構造で理解する
1級の事案で弁護士が関与すると、賠償額はなぜ、どれくらい変わるのか。
仕組みとして整理します。
第一に、慰謝料の基準が変わります。
本人分だけで1000万円以上、家族分を含めればさらに数百万円の差です。
第二に、将来介護費の前提が変わります。
家族介護のみの前提から、将来の職業介護への切り替えを含む前提へ。
日額と期間の見直しで、数千万円単位の差が生まれ得ます。
第三に、漏れていた項目が加わります。
自宅改造費、器具の買い替え、消耗品、家族の付添交通費。
一つひとつは小さくても、一生分の積み上げは大きな金額になります。
第四に、訴訟という選択肢が現実になります。
判決では、事故日からの遅延損害金(2020年4月1日以降の事故なら年3パーセント)と、認容額の1割程度の弁護士費用相当額が上乗せされます。
賠償総額が億単位になり得る1級では、この上乗せだけで数百万円から数千万円になります。
これらを合計した結果、当初提示から数千万円の増額に至る事案は、1級ではめずらしくありません。
ただし、増額幅は、ご本人の年齢・収入・介護の必要性・過失割合によって大きく異なります。
だからこそ、ご自身の事案での見通しを、個別に確認していただく必要があります。
7.費用の心配について
賠償額が大きい分、弁護士費用も心配になると思います。
まず、弁護士費用特約を確認してください。
ご本人やご家族の自動車保険についていれば、費用の負担なく、または少ない負担で依頼できます。
特約がなくても、1級の事案では、増額の見込みが費用を大きく上回るのが通常です。
また、自賠責保険への被害者請求を先に行うことで、示談を待たずにまとまった金額を受け取れます。
1級の自賠責保険金は、常時介護を要する場合で4000万円が上限です。
このお金を当面の介護費用や自宅改造に充てながら、残りの交渉を進める。
そうした資金繰りの設計も、弁護士が一緒に考えます。
被害者側から、加害者の自賠責保険会社に直接支払いを請求する手続です。
示談の成立を待たずに、自賠責の限度額まで先に受け取ることができます。
8.まとめ──介護の記録が、ご家族を守ります
お伝えしたいことを、三つにまとめます。
一つめ。
1級の賠償の中心は、将来介護費です。
誰が、いつまで、どんな介護をする前提で計算するか。
そこに数千万円単位の差が潜んでいます。
二つめ。
弁護士の役割は、交渉だけではありません。
等級認定の準備、成年後見、社会保障制度との調整、被害者請求による当面の資金確保。
長い道のりの全体を設計することが、本当の仕事です。
三つめ。
今日からできることは、記録です。
介護日誌をつけてください。
何時に何の介助をしたか、夜間に何回起きたか、ご本人がどう変わったか。
その記録が、将来の交渉で、ご家族の言葉を証拠に変えてくれます。
そして、示談書にサインをする前に、必ず一度、提示内容を専門家に見せてください。
1級の示談は、ご家族の何十年分の生活を決める契約です。
弁護士費用特約の有無を確認することから、始めていただければと思います。
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