東山崎町交差点の危険性

1. 県内屈指の事故多発地点「東山崎町交差点」

高松市を拠点に、交通事故の被害に遭われた方の代理人としてお話を伺い続けてきた弁護士です。
ご相談を重ねるなかで強く感じてきたことがあります。
それは、痛ましい事故は決して偶然の産物ではなく、起きやすい場所で繰り返し起きている、という事実です。
今回は、地元の方であれば誰もが一度は耳にしたことがあるであろう、高松市の東山崎町交差点を取り上げます。

香川県警察や交通安全協会が毎年公表する人身事故多発交差点のワーストランキングにおいて、この交差点は長年にわたり上位に名を連ね続けています。
県内でも屈指の危険地点として、地元では広く知られた場所です。
もっとも、ここで起きる事故には、運転手がぼんやりしていたから、という単純な話では片付けられない、ある共通の特徴があります。
それは、歩行者・自転車・バイクといった交通弱者を、ドライバーの視界から物理的に隠してしまう構造的な要因が潜んでいる、ということです。

青信号だから安全、横断歩道を渡っているから優先、と信じて疑わない方こそ、最後まで目を通していただきたい記事です。
毎日通る道だからこそ知っておくべき本当の危険性と、ご自身の命を守るための具体的な方法を、丁寧にお伝えします。

2. 道路の形が生む「橋脚の森」という巨大な死角

東山崎町交差点を一度でも通行されたことのある方なら、その特異な景観に気づいておられるはずです。
高松自動車道の高架、JR高徳線の鉄道橋、歩行者用の歩道橋――複数の巨大な構造物が交差点の周囲に立ち並んでいます。
まるで「橋脚の森」とでも呼ぶべき光景が広がっており、これがこの交差点を県内屈指の危険地帯たらしめている最大の要因です。

ドライバーの視点に立って想像してみてください。
右折や左折をしようとハンドルを切るその瞬間、視線の先には太いコンクリートの柱がいくつも存在しています。
柱の太さは決して無視できるサイズではなく、ちょうど大人ひとりがすっぽり隠れてしまう幅があります。
横断歩道を渡ろうとしている歩行者、すり抜けて進んでくる自転車、車高の低いバイクが、ドライバーから見て橋脚の真裏に入ってしまう瞬間が必ず存在するのです。
これは運転手の注意力の問題ではなく、物理的に「見えない」状態が発生してしまう、場所そのものの特異性といえます。

さらに留意したいのは、歩行者の側がこの事実をほとんど認識していない、という点です。
歩行者からすればドライバーの顔は見えていますし、自分も相手から見えているはずだ、と思い込みやすいものです。
しかしドライバーの視界には、あなたではなくコンクリートの柱しか映っていない――そんな数秒間が確実に存在しています。

青信号で渡っていたのだから自分は悪くない、というのは法律上はそのとおりです。
しかし、見えていない相手は止まることができません。
事故が起きたあとに正しさを主張しても、失われた健康や命は戻ってこないのです。

3. 繰り返し見られる事故とヒヤリハットの場面

交通事故案件を多く扱う立場から、東山崎町交差点のような死角の多い交差点で繰り返し見られる場面を整理しておきます。
これは自分のことかもしれない、と感じていただける場面がきっとあるはずです。

場面1:右折車と直進自転車との接触

朝の通勤時間帯、青信号で右折しようとした車が、対向車線を直進してきた自転車と接触してしまうケースです。
ドライバーは対向の四輪車に注意を集中していますが、橋脚の陰から現れる自転車にまで意識が届いていません。
自転車の利用者は、自分は車道の端を走っているから見えているはずだ、と思いがちです。
しかし実際には、橋脚と対向車の陰に重なって、ドライバーの視界から完全に消えてしまっています。
気づいたときには横断歩道の上で間一髪、急ブレーキ、というヒヤリハットを経験された方も少なくないでしょう。

場面2:左折時の巻き込みによる歩行者・自転車事故

左折時の巻き込みも繰り返し発生しています。
ドライバーがミラーや目視で左後方を確認したつもりでも、ちょうど橋脚や歩道橋の柱と重なる位置に歩行者や自転車がいると、視認することができません。
特に怖いのは、左後方は確認した、と思い込んでいるケースです。
一度確認したのち視線を前方に戻し、ハンドルを切り始めた瞬間に、橋脚の陰から自転車が横断歩道へ進入してくる――このタイミングのずれが大きな事故を生みます。

場面3:薄暮時に起きる歩行者との接触

夕方17時から19時頃にかけて発生しやすいのが、横断中の歩行者に直進車が衝突してしまうケースです。
橋脚の影で路面が暗くなっている部分があり、黒っぽい服装の歩行者は驚くほど見えません。
ドライバー側からすれば、突然目の前に人が現れた、という感覚なのです。
歩行者側はずっと横断歩道を歩いていた、という認識ですから、両者の感覚にはこれほどの落差があります。
だからこそ、この交差点では一瞬の油断が取り返しのつかない結果を招きうるのです。

4. 朝夕のラッシュという「魔の時間帯」

この交差点の危険性を語るうえで見逃せないのが、時間帯という要素です。
周辺には学校や事業所が多く、朝夕の通勤・通学時間帯には歩行者と自転車の通行量が一気に跳ね上がります。
ただでさえ橋脚という物理的な死角がある中で、その死角の向こう側から次々と人や自転車が現れる――ドライバーの脳は処理能力の限界に近づき、いわゆる見落としが起きやすい状態に陥ります。
心理学の領域では、これを不注意性盲目という現象として説明しています。

【用語解説】不注意性盲目(ふちゅういせいもうもく)
ある対象に注意を集中しているあいだ、視野の中に確かに映っているはずの別の対象を、脳がまったく認識できなくなってしまう現象のことです。
人間の注意の容量には限界があり、複数の対象を同時にとらえることは想像以上に難しい、という心理学の知見にもとづいています。

通勤途中のドライバーは時間的なプレッシャーも抱えています。
信号が変わる前に右折したい、対向車が途切れた一瞬で曲がりたい、そんな焦りが判断を雑にし、本来確認すべき横断歩道への視線を奪っていきます。
対向車のヘッドライト、後続車のプレッシャー、ナビの案内音声、ドライバーが処理しなければならない情報は膨大です。

朝夕の東山崎町交差点では、全員が急いでいる、という共通項があります。
歩行者も自転車も早く渡りたい、ドライバーも早く曲がりたい――この心理状態が重なったとき、橋脚の死角と相まって、極めて危険な瞬間が生まれるのです。
特に夕方から夜にかけては、薄暮時間帯特有の見えにくさも加わります。
日没前後はドライバーの目が明るさの変化に追いつかず、黒っぽい服装の歩行者や無灯火の自転車は驚くほど見えなくなるのです。

5. 子どもや高齢のご家族を守るための視点

東山崎町交差点を語るうえで、ぜひ触れておきたいのが、子どもと高齢者という、交通弱者の中でも特にリスクの高い方々の存在です。
ご家族にこのような方がおられる場合は、ぜひ今夜の食卓で共有していただきたい内容です。

お子さんが危険な理由とご家族にできること

子どもの身長は、大人にくらべてはるかに低いものです。
小学校低学年のお子さんの目線の高さは、ドライバーから見ると橋脚の陰に完全に隠れてしまう位置にあります。
大人なら頭の一部が見える状況でも、子どもは全身がすっぽりと柱の影に入ってしまうのです。
さらに、子どもの視野は大人の3分の2程度しかないといわれており、左右の確認が不十分になりがちです。
近づいてくる車の速度を正確に見積もる能力も発達途上で、まだ遠いから渡れる、と判断して飛び出してしまうケースが後を絶ちません。

ご家族にできることは明確です。
通学路として使う場合は可能なかぎり保護者が同伴し、橋脚の死角を実際に指差しで教えてあげてください。
ランドセルや通学カバンには反射材を必ず取り付け、明るい色の傘や帽子を選ばせること。
そして、ドライバーと目が合うまで渡らない、というルールを徹底することです。

高齢の方が危険な理由とご本人・ご家族にできること

高齢の方の事故は、子どもとはまた別の理由で深刻です。
加齢にともなって視野が狭くなり、左右の確認に時間がかかるようになります。
聴力も衰えるため、接近する車のエンジン音にも気づきにくくなります。
そして何より、横断歩道を渡り切る時間が長くなる、という点が大きな問題です。
青信号のあいだに渡り切れず、信号が点滅しはじめた頃に橋脚の陰に入ってしまう――そのタイミングで右折車が突入してくる、というのが典型的な事故の構図です。

ご本人にお願いしたいのは、信号が点滅しはじめたら絶対に渡り始めない、焦って小走りにならない、という二点です。
転倒事故も大きなリスクですから、無理は禁物です。
ご家族の方は、可能であれば一緒に歩いて危険箇所を確認していただき、ここは橋脚があって車から見えにくいから信号が変わってすぐに渡り始めようね、と具体的にアドバイスしてあげてください。
夜間の外出時には反射材付きのベストや靴を着用することも強くおすすめします。
ご家族からプレゼントとして贈るのも、よい方法でしょう。

6. 命を守るための具体的な自己防衛行動

ここからは、この交差点を安全に通過するための具体的な行動指針をお伝えします。
法律上の権利を主張することは大切ですが、事故に遭ってからでは遅いのです。

歩行者優先を過信しない

道路交通法上、横断歩道では歩行者が絶対的に優先されます。
ドライバーには横断歩道手前での減速義務があり、歩行者がいれば停止しなければなりません。
しかし、繰り返しになりますが、見えていない相手は止まれません。
横断歩道を渡る前には、必ず接近してくる車のドライバーとアイコンタクトを取ってください。
相手が自分の存在を認識し、確実に減速・停止したことを目視で確認してから一歩を踏み出す――この一手間が、あなたの命を救う可能性があります。

橋脚の陰から出るときは必ず一旦停止

東山崎町交差点に特有の防衛策として、最も意識していただきたいのが、橋脚の陰から出る瞬間です。
あなたが橋脚の裏側にいるあいだ、ドライバーからあなたの姿は見えていません。
一歩前に出た瞬間に、突然目の前に現れた存在、として認識されることになります。
自転車で進入する際はとくに注意が必要で、スピードに乗ったまま橋脚の陰から出れば、ドライバーが反応する時間はほぼゼロです。
橋脚の手前で一度速度を落とし、左右の安全を確認してから進む――この基本動作を徹底してください。

自転車・バイクは「見えていない」を前提に

2023年4月から自転車利用者のヘルメット着用が努力義務化されました。
万が一の接触事故において頭部を守れるかどうかは、生死を分ける重大な要素です。
また、ながらスマホ、片手運転、イヤホン使用は控えてください。
周囲の車のエンジン音やクラクションが聞こえない状態は、感覚をひとつ奪われたまま道路を渡るに等しい危険な状態です。
バイクの方も、四輪車から見落とされやすい存在であることを前提に、すり抜け走行は控え、交差点進入時には十分に速度を落としてください。
昼間でもヘッドライトを点灯し、明るい色のウェアやリフレクター付きヘルメットを身につけるなど、見られる工夫を積極的に行ってください。

7. 慣れを捨てて「自分は見えていない」と意識する習慣を

道路の構造そのものを変えるには長い年月と多大な予算が必要です。
しかし、私たちひとりひとりの意識と行動は、今日この瞬間から変えることができます。

東山崎町交差点で大切なのは、ここは橋脚で見えにくい交差点なのだ、自分はドライバーから見えていないかもしれない、と知っておくこと、ただそれだけです。
この認識があるかないかで、行動は驚くほど慎重になり、危険な瞬間を回避できる可能性が格段に高まります。
毎日通る通勤・通学路だからこそ、慣れというもっとも恐ろしい敵が忍び寄ります。
いつも大丈夫だから今日も大丈夫、というその油断こそが事故の温床となるのです。

ドライバーとのアイコンタクト。
橋脚の陰での一旦停止。
ヘルメットと反射材の活用。
スマホやイヤホンから手と耳を離す勇気。
子どもや高齢のご家族への声かけ。
これらは決して大げさな対策ではなく、あなたとあなたの大切な方の人生を守るための、最低限の備えです。

交通事故は、運が悪かった、では片付けられない、人生を一変させる出来事です。
事故に遭わないこと――それこそが、何よりも確かな「対策」です。
今日からの行動を、ほんの少しだけ変えてみませんか。

被害者に役立つ情報

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