香川県ワースト5位「峰山口交差点」で何が起きているのか
香川県高松市で日々、交通事故の被害に遭われた方々の声に耳を傾けている弁護士です。
事故の現場検証や警察記録を読み込む中で、ある一つの真実に何度もぶつかります。
それは、事故は決して、うっかり、だけで起こるのではなく、その場所が持つ固有の構造が、人間の能力を超えた状況をつくり出している、ということです。
今回は、地元の皆さまにとって身近でありながら、構造上の難しさを抱える高松市の峰山口交差点について、安全に通行していただくための情報をお届けします。
1. 香川県ワースト5位「峰山口交差点」で何が起きているのか
香川県警察が毎年公表する人身事故多発交差点のワーストランキングに、高松市の峰山口交差点は2021年から2023年まで3年連続で掲載され続けています。
県内有数の事故多発地点として、警察も注視している場所です。
2023年だけで人身事故が4件発生し、そのうち1件は重傷事故という深刻な結果になりました。
県内全体で見るとワースト第5位にランクインしており、発生する事故は追突、右折、出会い頭と多岐にわたります。
ドライバーだけでなく、歩行者・自転車・バイクといった交通弱者にとっても、決して油断のできない場所です。
数多くの交通事故案件に向き合ってきた経験から申し上げると、この交差点で起こる事故は、単純な不注意だけで説明できるものではありません。
地形と構造物が組み合わさった、物理的に見えなくなる空間が存在しているのです。
だからこそ、毎年同じような事故が繰り返されてしまうのだと考えられます。
毎日この交差点を通る歩行者・自転車利用の皆さまに、知っておいていただきたい危険の正体と、ご自身の命を守るための具体的な行動を、これからお伝えしていきます。
2. 危険の正体は「橋脚」と「高低差」のダブル死角
峰山口交差点は、国道11号と県道172号線が直角に交わる四差路交差点です。
高松市中心部からやや郊外に位置し、東西南北の幹線道路が集中するため、終日にわたって交通量が非常に多い場所となっています。
この交差点が県内屈指の危険地帯となっている要因は、大きく二つあります。
一つ目は、国道11号の上空に併設されている高松自動車道の存在です。
高速道路が国道の真上を走っているため、その重量を支える巨大な橋脚が、国道の中央分離帯部分にどっしりと立っています。
コンクリートの太い柱が、交差点のど真ん中にそびえ立っているのです。
この橋脚がどれほど深刻な視界障害を生むか、想像してみてください。
右折しようとするドライバーから見ると、対向車線の状況、横断歩道、反対側の歩行者、これらが橋脚の陰に隠れる瞬間が、必ず発生します。
歩行者からはドライバーが見えていても、ドライバーからは橋脚しか見えていないという、非対称な状況が生まれてしまうのです。
二つ目は、南北の道路に存在する高低差です。
北側の県道が盛り上がる地形になっているため、南側から進入してくる車にとって、北側の状況は極めて見えにくい構造になっています。
さらに、この交差点には歩道橋が設置されていないため、歩行者・自転車は必ず平面の横断歩道を渡らなければなりません。
橋脚という縦方向の死角と、高低差による横方向の死角。
この二つが組み合わさったダブル死角こそが、峰山口交差点の最大の特徴なのです。
3. ドライバーは何を見ているのか?認知能力の限界という罠
歩行者・自転車利用の方に、ぜひ知っておいていただきたい事実があります。
それは、ドライバーは、あなたが思っているほどあなたを見ていない、ということです。
峰山口交差点に進入するドライバーの脳内では、何が起きているでしょうか。
右折しようとする場合、まず最も気にするのは対向直進車の存在です。
しかしこの対向車は、橋脚の死角と南北の高低差によって視認が難しい状態にあります。
ドライバーは認知能力の大部分を、対向車がいないかという確認作業に費やすことになります。
人間の脳の処理能力には限界があります。
ある対象に注意を集中すると、他の対象への注意は相対的に薄くなります。
これは心理学で「不注意性盲目」と呼ばれる現象です。
ある一点に注意を集中していると、視野に入っている他のものが見えていても、脳がそれを認識できなくなる現象のことです。
たとえばスポーツの試合中継に集中していると、画面の前を横切った人物に気づかない、というような現象が日常的に起こります。
運転中も同様で、対向車の確認に意識を奪われると、すぐ近くを歩く歩行者が認識から抜け落ちることがあります。
ドライバーが悪意で見落とすのではなく、人間の脳の仕組み上、誰にでも起こり得る現象です。
対向車の確認に脳のリソースを奪われたドライバーは、横断歩道の歩行者や自転車に対する注意が、著しく低下してしまいます。
警察の事故統計でも、この交差点で発生する事故の多くは安全不確認が原因とされています。
これはドライバーが意図的に見落としたわけではありません。
見ようとしたが処理が追いつかなかったという、人間の認知能力の限界が引き起こしている事故なのです。
つまり、あなたが青信号で堂々と横断歩道を渡っていたとしても、ドライバーの目にはただの背景としてしか映っていない可能性がある、ということになります。
これは少し怖い事実ですが、ご自身の身を守るためには、知っておいていただきたい現実です。
4. 実際に起きやすい事故・ヒヤリハットの典型パターン
これまで数多くの交通事故案件に接してきた中で見えてきた、峰山口交差点のような死角の多い交差点で繰り返し発生しがちな事故パターンを、具体的にご紹介します。
パターン1:右折車による横断歩道事故
国道11号を右折する車が、横断歩道を渡っている歩行者・自転車と接触するパターンです。
ドライバーは対向車の途切れ目を狙って一気にハンドルを切りますが、その瞬間、橋脚の陰から現れた歩行者を認識できないことがあります。
対向車が来ないことを確認した安心感から加速していることが多く、衝突時の速度が高くなりがちで、重傷化しやすい類型です。
パターン2:追突事故と巻き込まれる歩行者
橋脚や高低差で前方の状況が見えにくいため、前を走る車が交差点で急停止した際に追突する事故も発生しています。
問題は、追突された車が衝撃で横断歩道側に押し出され、渡っていた歩行者を巻き込むケースがあることです。
歩行者からすれば、自分は何もしていないのに巻き込まれた、という大変理不尽な被害となってしまいます。
パターン3:出会い頭事故と自転車のすり抜け
高低差のある県道側から国道に出てくる車両と、国道を直進する車両との出会い頭事故も発生しています。
さらに怖いのは、交差点を渡ろうとした自転車が、この出会い頭事故に巻き込まれるパターンです。
自動車同士の衝撃は自転車の比ではなく、はじき飛ばされた車両の進路に自転車がいれば、大きな被害につながりかねません。
5. 子ども・高齢者は要警戒!家族で共有すべき安全ポイント
峰山口交差点の難しさは、特に子どもと高齢者にとって深刻です。
ご家族にこれらの方がいる場合は、ぜひ今日にでも共有してください。
子どもが特に注意したい理由
子どもの身長は大人の半分以下です。
橋脚の陰に入ったとき、大人なら頭が少し見えていても、子どもは全身がすっぽりと柱に隠れてしまいます。
さらに小学校低学年では視野が大人の3分の2程度しかなく、車の接近速度を正確に判断する能力も発達途上にあります。
保護者の方にお願いしたいのは、第一にこの交差点を通学路として使う場合は、同伴して橋脚の死角を実際に指で示しながら教えること。
第二に、ランドセルや傘に反射材を取り付けること。
第三に、ドライバーと目が合うまで一歩も出ない、というルールを徹底することです。
高齢者が特に注意したい理由
加齢に伴って視野が狭くなり、左右の確認に時間がかかるようになります。
聴力の低下で、接近する車の音にも気づきにくくなります。
何より、峰山口交差点には歩道橋がないため、すべての横断は平面の横断歩道を歩いて渡るしかありません。
横断距離が長いうえに、高齢者は歩行速度が遅くなりがちで、青信号の間に渡り切れないリスクが高まります。
信号が点滅し始めた頃にちょうど橋脚の陰に入り、そこへ右折車が進入してくる、これは典型的な高齢者事故の構図です。
ご本人には、信号が点滅したら絶対に渡り始めない、焦って小走りしない、ということを徹底していただきたいですし、ご家族は反射材付きベストや明るい色の上着を贈るなど、見える化のサポートをぜひお願いします。
6. 自分の命を自分で守る!峰山口交差点の自己防衛術
ここからは、この特殊な交差点を安全に通過するための、具体的なアクションプランです。
法律上の権利を主張する以前に、まず事故に遭わないことが、何よりも重要です。
橋脚の死角を抜けるときは必ず一旦停止
横断歩道の真ん中、つまり橋脚の陰から抜け出る瞬間が、最大の注意ポイントです。
青信号であっても、橋脚を通過する前に必ず歩みを止めてください。
そして首を左右に振り、右左折車両が接近していないかを目視で確認してから一歩を踏み出す。
この数秒の習慣が、あなたの命を守ります。
ドライバーの「顔」と「目線」を直接確認する
接近してくる右左折車両に対しては、運転手の顔をしっかり見てください。
サングラスをしていても、相手が自分を見ているかどうかは、姿勢や首の向きである程度分かります。
確実にアイコンタクトが取れた、自分が視認されたと判断できるまで、車両の進行ラインに踏み出してはいけません。
「タイヤの向き」と「速度変化」を最後まで監視する
横断中も、スマートフォンから完全に目を離してください。
注目すべきは接近車両のタイヤの向きと、速度の変化です。
タイヤが自分の方向に向いていれば曲がってきます。
減速していなければ、止まる気配がないということになります。
車体全体ではなく、足元のタイヤと速度感に集中するのが、危険察知のコツです。
自転車は徐行と一時停止を絶対に守る
自転車利用の方は、橋脚の陰から横断歩道に進入する際、必ず徐行または一時停止してください。
スピードに乗ったまま死角から進入すれば、ドライバーが反応する時間はほとんどなくなります。
ヘルメット着用と、夜間の無灯火走行を避けることも、改めて徹底していただきたいポイントです。
7. まとめ:慣れこそが最大の敵
峰山口交差点は、橋脚と高低差という二重の死角を抱えた、構造的に注意の必要な交差点です。
道路の構造を変えることは簡単ではありませんが、私たちの行動は今日から変えられます。
ここは橋脚で見えにくい、自分はドライバーから見えていないかもしれない、この認識を持つだけで、行動は驚くほど慎重になります。
毎日通る道だからこそ、慣れという最も静かな敵が、忍び寄ります。
いつも大丈夫だから今日も大丈夫、という油断こそが、事故の温床になりかねません。
ドライバーとのアイコンタクト、橋脚前での一旦停止、タイヤと速度の監視、そして家族への声かけ。
これらは決して大げさな対策ではなく、あなたとあなたの大切なご家族の人生を守るための、最低限の備えです。
多くの被害者の方と接してきた経験から、心からお伝えしたいことがあります。
事故に遭わないことが、何よりも最高の対策です。
峰山口交差点を通るときは、ぜひ今日からの一歩を、少しだけ変えてみてください。
あなたの慎重な一歩が、ご自身の、そしてご家族の未来を、確かに守ってくれるはずです。
