香川県に多い「ため池」が原因の交通事故

はじめに:この記事で分かること

丸亀市にお住まいの皆さま、そして毎日のように農道を走られている皆さまへ。
讃岐うどんのふるさとであり、美しい田園風景が広がる、丸亀市。
そのお馴染みの景色の中に、ドライバーを脅かす、見えない罠がひそんでいることをご存じでしょうか。
この記事は、丸亀市の交通事故の要因を調べた資料をもとに、地元の人ほど見落としがちな危険を見つめ直すためのものです。
読み終えるころには、次のことが分かるようになっています。
・なぜ、讃岐平野のため池や農道が、構造として危ないのか。
・季節によって、その危険がどう変わるのか。
・転落や転覆という、取り返しのつかない事故を防ぐには、どうすればよいのか。
・もし事故に遭ってしまったとき、被害者として知っておきたいこと。
私たちは高松市で、交通事故の被害者の側に立って活動している弁護士です。
丸亀市の方からのご相談も、これまで数多くお受けしてきました。
その経験から見えてきたことを、できるだけやさしい言葉でお伝えします。

1. なぜ危ないのか:ため池と農道にひそむ構造的なリスク

まず知っていただきたいのは、この危険が、ドライバーの不注意だけの問題ではない、ということです。
道そのものの形、つまりインフラの構造が、事故を呼び込んでいるのです。

無数のため池と、野池という存在

香川県は、雨が少なく、川も短い土地です。
そのため、農業に使う水を、ため池にたよってきました。
香川県内には、登録されているだけで、およそ1万4,600ものため池があります。
農業用水の半分以上、52%を、これらのため池に依存しています。
平野部には、野池、または皿池と呼ばれるものが多く分布しています。
平らな土地の四方に堤防を築き上げて作った、浅く広いため池のことです。

【用語解説】野池・皿池(のいけ・さらいけ)
平らな土地のまわりに堤防を作って、水をためたため池のことです。
お皿のように浅く広い形をしているため、こう呼ばれます。
讃岐平野には、この野池がたくさんあります。

一段高い、空中の道路

こうした地形の特徴から、ため池に沿った道や農道、用水路は、周りの水田や民家、そしてため池の水面よりも、一段高い場所に作られていることが多いのです。
いわば、空中に浮いたような道です。
ふだんは気づきませんが、道の脇は、すとんと低くなっています。
その先には、水田や、用水路や、ため池の水面が待っています。

走りやすくなったことが、かえって危険を生む

農業を近代化するため、土地を整える事業が進みました。
これによって、農道は広く、舗装されて、トラックも走りやすくなりました。
ところが、これがかえって、車のスピードを上げる原因になっています。
まっすぐで、走りやすい。
その安心感が、アクセルを踏ませてしまうのです。
そして、最も大きな問題が、ガードレールのなさです。
直線で走りやすい一方で、安全設備が十分でない農道が、数多くあります。
ひとたびスピードの出しすぎや、ハンドルの操作ミスが起きると、車はそのまま、ため池や水田、用水路へと転落、転覆してしまいます。
この構造的な特徴が、車一台だけの事故、つまり単独事故での死亡率を、高くしているのです。

【用語解説】単独事故(たんどくじこ)
ほかの車や人とぶつからず、一台だけで起こす事故のことです。
道路から外れて落ちたり、電柱やガードレールにぶつかったりする事故が含まれます。
落ちた先が水のある場所だと、命に関わる危険が高まります。

2. 季節で変わるリスク:農繁期の油断とシニア層の体調

ため池や農道の危険は、季節によっても姿を変えます。
特に、農作業がいそがしくなる時期には、注意が必要です。

初夏のユル抜きと、農繁期の始まり

毎年6月の中ごろから7月にかけて、ため池の栓、いわゆるユルが抜かれます。
すると、いっせいに田んぼへ水が送られ、田植えが始まります。
このユル抜きをきっかけに、地域は一気に農繁期へと突入します。
道には、農作業の機械や、運搬の車が増えていきます。

春から急増する、農業機械の事故

農作業に関わる事故は、4月から急に増え、5月にピークを迎えます。
死亡事故のおよそ4割は、乗用型のトラクターによるものです。
そして、その多くが、公道や農道、田畑からの転倒、転落なのです。
機械は重く、いったんバランスをくずすと、人の力では支えきれません。

真夏の熱中症という、見えない魔物

7月から8月の猛暑のなかでは、農作業中の熱中症の危険が、とても高くなります。
熱中症で亡くなる方の、およそ9割は、70代以上の高齢の方です。
ここに、見過ごせない事故の連鎖があります。
高齢の農業従事者が、暑さで意識がもうろうとしたまま、トラクターなどを運転してしまう。
そして、地盤のやわらかい農道の路肩から、転落してしまうのです。
体調の悪さと、危険な道の構造が重なったとき、取り返しのつかない事故が起きます。

3. 「まさか」の転落を防ぐ、4つの防衛術

ここからは、明日から実践できる、四つの心がけをお伝えします。
どれも、特別な技術はいりません。

鉄則1:舗装されていても、スピードは徹底的に落とす

まっすぐで走りやすく見えても、農道はサーキットではありません。
道の脇に高低差があることを、いつも頭に置いてください。
そして、いつでも止まれる速度を保ちましょう。
走りやすさは、安全とは別のものです。

鉄則2:路肩を過信せず、寄りすぎない

農道の路肩は、地盤がやわらかく、崩れやすい場所があります。
見た目はしっかりしていても、車の重みで崩れることがあります。
対向車とすれ違うときも、無理に端へ寄りすぎないようにしましょう。
ゆずり合えないときは、安全な場所で一度止まって待つ。
それが、いちばん確実です。

鉄則3:夜間・薄暮時の走行は、特に警戒する

街灯のない暗い農道では、道路と、その周りのため池や水田との高低差が、目で見えにくくなります。
どこまでが道で、どこからが落ち込みなのか、分からなくなるのです。
ライトを上手に使い、路面と路肩の状況を、しっかり確かめましょう。
少しでも見えにくいと感じたら、速度を落とすことが大切です。

【用語解説】薄暮(はくぼ)時
日が沈む前後の、空がうす暗くなる時間帯のことです。
昼でも夜でもない明るさのため、道路と周りの段差が見えにくくなります。
農道では、早めのライト点灯が、特に大切になります。

鉄則4:体調が悪いときは、運転しない・させない

最後の鉄則は、ドライバー本人だけのものではありません。
ご家族の目配りが、命を守ります。
特に夏場は、高齢のご家族が、無理をして農作業や運転をしていないか、気にかけてあげてください。
少し休んだら、と声をかける。
今日は暑いから、私が運転するよ、と申し出る。
その一言が、熱中症や意識の低下によるミスを、未然に防ぎます。
家族でかけ合う声は、どんな安全装置よりも、頼りになります。

4. もし事故に遭ってしまったら:被害者として知っておきたいこと

ここで少しだけ、私たち被害者側の弁護士の立場から、お伝えしたいことがあります。
ため池や農道での事故は、一台だけの単独事故が多い、という特徴があります。
このとき、多くの方が、相手がいないのだから、自分のせいだ、とあきらめてしまいます。
しかし、その前に、考えていただきたいことがあります。
ガードレールがなかった。
路肩が崩れやすかった。
危険を知らせる表示がなかった。
こうした道の構造そのものに問題があった場合、道路を管理する側の責任が問われることもあります。

【用語解説】営造物責任(えいぞうぶつせきにん)
道路や橋などの施設に、安全上の欠陥があったために事故が起きた場合、その施設を管理する国や自治体が負う責任のことです。
たとえば、必要なガードレールがなかった、といった事情が関わることがあります。
すべての事故で認められるわけではなく、専門的な判断が必要です。

もちろん、すべての単独事故で、こうした責任が認められるわけではありません。
けれども、最初から自分一人の責任だと決めつけてしまうと、本来受けられたはずの補償の道を、自ら閉ざしてしまうことがあります。
だからこそ、事故の状況を記録しておくことが大切です。
現場の写真、道の状態、そして、いつ、どのように事故が起きたのか。
それらが、後で大切な手がかりになります。
保険会社の論理と、被害者が置かれた現実との間には、しばしば大きな隔たりがあります。
私たちは高松市で、その隔たりを埋めるために、被害者の側に立ち続けてきました。
丸亀の道を誰よりもよく知る皆さんと一緒に、この問題を考えていきたいと思っています。

5. のどかな風景に、一呼吸のゆとりを

見慣れた、のどかな風景。
その裏には、インフラの構造がもたらす、危険な落とし穴が隠されています。
ため池の水面は、いつもと変わらず、静かにそこにあります。
だからこそ、私たちは、その危険を忘れてしまいがちです。
いつも通っているから大丈夫。
その過信を、いったん横に置いてみてください。
ため池沿いや農道を走るときは、一呼吸おいて、丁寧な運転を心がける。
それだけで、防げる事故が、たくさんあります。
この美しい讃岐の田園風景を、これからも安心して走れる場所にしていく。
それは、ここで暮らす一人ひとりの、小さな心がけから始まります。
最後に、もし交通事故に巻き込まれ、どうすればよいか分からず不安なときは、一人で抱え込まないでください。
信頼できる人や、交通事故にくわしい専門家に、早めに相談することができます。
この記事が、丸亀市で暮らす皆さまの、安全な毎日の助けになれば幸いです。

被害者に役立つ情報

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