手指の後遺障害について

神経の障害による手指の痛み・しびれ 日常生活への影響 手指

1. 交通事故で手指を受傷しやすい理由

歩行者が交通事故により受傷した場合、足や腰など自動車が直接接触した部位のほかに、手首より先の手指部分を受傷することが多くあります。

人はとっさに物が飛んできた場合、避けるか受け止めようとします。
どちらも間に合わないと判断すると、自然に防御態勢を取ります。

特に頭部を手で守る動作は本能によるものであるため、どうしても腕や手を受傷しやすくなるのです。

また、衝突した後にとっさに受け身を取る際にも、手を先に地面に着こうとします。
そのため手を骨折するというのは、交通事故に限らず、高齢者の転倒事故などでもよく見られます。

つまり手指のけがは、身体の中で最も重要な頭部を守った代償として生じることが多い、ということです。
事故の状況を説明する際に、なぜ手を怪我したのかと問われることがありますが、防御反応として自然な受傷経過であることは知っておいてよいでしょう。

2. 手指のけがの種類

手指の障害で一番重いものは欠損、つまり切断や壊死などで手指そのものが失われることです。

一昔前に比べて外科・神経科・整形外科の技術は格段に進歩しています。
鋭利に切断された場合には、接合手術でもとに近い状態まで戻せることもありますが、神経の接合が難しいケースもあります。

切断された指の接合には時間の制約があり、切断からの経過時間が短いほど成功率が上がるとされています。
事故現場で切断された指が見つかった場合には、適切に保存して医療機関に持参することが、接合の可能性を左右します。

骨折しやすい構造

人間の骨は乳児期にはおよそ300本ありますが、成長の過程で癒合し、成人ではおおよそ206本前後になります。
このうち片手だけで27本の骨が集まっており、手指は細い骨が密集して形成されているため、ある意味で最も骨折しやすい部位と言えます。

そのため、軽い接触事故でも指を骨折したり、ひびが入っていたりすることがあります。
指のひびは痛みが軽いこともあり、突き指程度と自己判断して受診が遅れると、変形したまま癒合してしまうこともあるため注意が必要です。

腱の損傷

欠損や骨折はレントゲンや目視で確認できますが、厄介なのが筋肉や神経系の障害です。

指を曲げる際には、屈筋と呼ばれる筋肉が腕から指の先まで腱でつながって働いています。
この腱が断裂したり損傷したりすると、指が曲げられなくなったり、曲げられてもしびれが生じたりします。

指を曲げる筋肉には、指ごとに深指屈筋と浅指屈筋があります。
深指屈筋だけが損傷した場合には、指を握ることはできますが、指の第一関節を曲げることができません。
深指屈筋と浅指屈筋の両方が損傷した場合には、握ることも指を曲げることもできなくなります。

そのため、交通事故でサイドミラーが腕にぶつかって怪我をしたが中指だけが動かなくなった、ということも起こりえます。

交通事故直後であれば腱を接合する手術が行われます。
しかし、切断部分が挫滅していたり、切断から時間が経っていたりする場合には、他の部位から腱を持ってくる腱移植手術が行われるのが一般的です。
腱移植の場合、移植した腱が周囲と癒着しやすく、術後のリハビリの成否が可動域の回復を大きく左右します。

【用語解説】深指屈筋と浅指屈筋
指を曲げるための代表的な筋肉です。
深指屈筋は指先に近い第一関節を、浅指屈筋は第二関節を曲げる働きを担っています。
どちらが損傷したかによって、曲げられなくなる関節が異なります。

3. 神経の障害による手指の痛み・しびれ

手指の障害で一番多いのが、神経系による障害です。

神経系に障害があると、指先のしびれや麻痺といった、末端の症状が現れやすくなります。

これは、神経が脳から脊髄を通ってそれぞれの器官に伸びているためです。
脊髄に近い神経に障害が生じると、その神経を使っている器官全体に障害が出ます。

例えば、右脇の神経損傷が起きた場合には右腕全体に障害が出ますが、右手首の神経損傷であれば、右の手指のみに障害が出ることがほとんどです。

しかし、手がしびれて物が持てないという症状が出て、右腕を詳しく調べても異常がなく、脊髄に近い部分まで調べてようやく神経の断裂が見つかる、ということもあります。
痛む場所と原因のある場所が一致しない可能性を、常に念頭に置く必要があります。

画像に写らない障害の立証

医学的な画像所見や神経反射テストで神経の異常が認められる場合は、医師もそれに基づいた診断を下してくれます。

ですが、手指の神経障害が画像所見などで確認できる割合は低く、いわゆる神経痛というくくりで診断されることが多いのが実情です。

そのため、患者の訴えをもとに医師が判断することになり、症状や事故の状況によっては、加齢による相当の症状である、患者の訴えが大げさである、と判断されることがあります。
ひどい場合には、詐病と判断されてしまうこともあります。

このような場合に有効なのが、神経の状態を客観的に測る検査です。
神経伝導速度検査や筋電図検査は、神経がどの程度信号を伝えているかを数値で示すことができるため、画像に写らない神経障害の裏付けとして使われます。
腱反射の左右差や、握力の数値の推移も、症状の存在を示す資料になります。

神経障害に関しては医師によって判断が大きく異なることもあります。
医師の診断に納得がいかない場合には、交通事故の受傷を専門的に診ている診療科でセカンドオピニオンを受けることも考慮すべきです。

CRPSという重い病態

手指の外傷後に、まれに複合性局所疼痛症候群、いわゆるCRPSと呼ばれる病態に進行することがあります。
けがの程度に比べて不釣り合いなほど強い痛みが続き、皮膚の色の変化、腫れ、発汗の異常、骨の萎縮などを伴うものです。

CRPSは早期に発見して治療を始めるほど改善しやすいとされているため、けがが治ったはずなのに痛みが強くなっていく、と感じた場合には、早めに主治医へ伝えることが重要です。

【用語解説】CRPS(複合性局所疼痛症候群)
外傷をきっかけに、本来の傷の程度を超えた激しい痛みが慢性化する病態です。
後遺障害認定においては、関節の拘縮や骨の萎縮などの客観的所見の有無が重視されます。

4. 日常生活への影響

日常生活において、手指が果たす役割は非常に大きなものです。

スイッチを押す、扉を開ける、箸を持つ、コップで水を飲むなど、その用途は多岐にわたります。
交通事故により手指が自由に使えなくなったときの不便さは、想像以上のものになります。

手指の欠損の中でも最も重篤な、手首から先がない場合には、握る、つかむという行為ができないため、不便さをより強く感じます。

一方の手指に不自由がない場合でも、欠損したのが利き手であった場合には、字を書く、箸を持つという動作を、利き手でなかった方の手で行えるように練習しなければなりません。

利き手を変えるリハビリに慣れない方もいます。
スプーンだけで食べられる簡素な食事になったり、時には食事自体が煩わしくなって食べなくなったりすることもあります。

両方の手を欠損した場合には、日常生活を送るために介護人がついたり、補助器具を使用したりすることもあります。
しかし、以前より自分でできることが狭まるため、それをストレスと感じる方も少なくありません。

幻肢と幻肢痛

まれにですが、失った手指があるかのように感じる、幻肢というものがあります。

手首より先がないのに、あるように感じて物をつかもうとしてしまう、というレベルであれば軽度です。
しかし、ない部分に痛みや熱を感じて苦しむことがあり、これは幻肢痛と呼ばれます。

神経伝達の異常によるものとされていますが、患部を治療するという一般的な治療が行えないため、鎮痛剤などで緩和する方法が取られます。
近年では、鏡を使って残った手を映し、脳に手が動いている映像を見せるミラーセラピーという訓練が、幻肢痛の緩和に用いられることもあります。

感覚の障害がもたらす危険

神経障害で手指に症状が出ている場合、支障の程度には大きな個人差があります。

軽度のしびれや痛みであれば、多少の違和感を持ちながらも日常生活は送れます。
しびれや痛みに対して慣れていく馴化という現象が起き、違和感が薄らいでいくこともあります。

また、寒い時だけ、朝起きた時だけ、といった限定的な症状の場合には、患者自身が症状の出るタイミングを予測できるため、痛みを軽減しやすいという面もあります。

しかしながら、交通事故で手指の違和感を訴える方は、継続的に一定以上の痛みやしびれがある方が多く、日常生活に支障をきたしています。

コーヒーカップの柄を持ったら親指に激痛が走り、カップを落としてしまった。
指がしびれて震えるため、テレビのリモコンの小さなボタンが押せない。
こうした訴えは、実際の相談でも数多く聞かれます。

なかには、手指の感覚が麻痺しているため、指を包丁で切ってもフライパンで火傷をしても気づかず、化膿して感染症になってからようやく気づいた、というものもあります。
糖尿病などの持病がある場合には、けがの部分から壊死して切断に至るケースもあるため、感覚の麻痺は見た目以上に危険な症状だと言えます。

特に指先は感覚器官としての役割を持ち、背中などに比べて触覚の認知感度は数十倍あるとされています。

指先に神経障害が起きると、鉄の冷たくてかたい感触、毛糸を触ったときの温かく柔らかい感覚といった、指先で感じる微妙な区別がつきにくくなります。

こうした感覚が鈍くなると、指先の細やかな動作も鈍くなります。
特に箸を使うと分かりやすいのですが、箸から伝わる物の硬さが分かりづらくなり、力加減を間違えて豆腐を砕いてしまったり、力が足りずに食べ物をポロポロと落としたりしやすくなります。

5. 手術後も長期間のリハビリが必要

筋肉や腱の断裂により手指の運動障害が出ている場合には、外科的な手術をしない限り根治しません。
日常生活を繰り返していれば自然に治る、というものではないのです。

手指の運動障害がある前提で日常生活を送ることになるため、治るというより、慣れていくという表現の方が実態に近くなります。

仮に手術を行ったとしても、術後は最低でも3か月、回復に応じた機能回復運動のリハビリプログラムをこなさなければなりません。
腱の手術後は、動かさなければ癒着して固まり、動かしすぎれば再断裂の危険があるため、時期ごとに負荷を調整する専門的なリハビリが必要になります。

また、リハビリを終えても、交通事故以前の機能が100パーセント回復するとは限りません。
握力の低下や、握った状態を維持できる時間の低下などが残ることがあります。

ここで重要なのは、リハビリの記録がそのまま後遺障害の立証資料になるという点です。
通院の頻度、可動域の測定値の推移、握力の数値は、症状固定の時点でどれだけの障害が残ったかを示す客観的な証拠となります。
自己判断で通院をやめてしまうと、その時点で治ったものと扱われかねないため、医師と相談しながら継続することが大切です。

【用語解説】症状固定
治療を続けても、これ以上の改善が見込めなくなった状態のことです。
後遺障害の等級認定は、症状固定の時点で残っている症状をもとに判断されます。

6. 手指に関する後遺障害等級

交通事故での手指に関する後遺障害は、両手の指を全部失ったものから、比較的軽度のものまで、第3級から第14級まで幅広く定められています。

第3級(自賠責保険金額2219万円)
・両手の手指の全部を失ったもの

第4級(自賠責保険金額1889万円)
・両手の手指の全部の用を廃したもの

第6級(自賠責保険金額1296万円)
・1手の5の手指又は親指を含み4の手指を失ったもの

第7級(自賠責保険金額1051万円)
・1手の親指を含み3の手指を失ったもの、または親指以外の4の手指を失ったもの
・1手の5の手指または親指を含み4の手指の用を廃したもの

第8級(自賠責保険金額819万円)
・1手の親指を含み2の手指を失ったもの、または親指以外の3の手指を失ったもの
・1手の親指を含み3の手指の用を廃したもの、または親指以外の4の手指の用を廃したもの

第9級(自賠責保険金額616万円)
・1手の親指、または親指以外の2の手指を失ったもの
・1手の親指を含み2の手指の用を廃したもの、または親指以外の3の手指の用を廃したもの

第10級(自賠責保険金額461万円)
・1手の親指、または親指以外の2の手指の用を廃したもの

第11級(自賠責保険金額331万円)
・1手の人差指、中指または薬指を失ったもの

第12級(自賠責保険金額224万円)
・1手の小指を失ったもの
・1手の人差指、中指または薬指の用を廃したもの
・局部に頑固な神経症状を残すもの

第13級(自賠責保険金額139万円)
・1手の小指の用を廃したもの
・1手の親指の指骨の一部を失ったもの

第14級(自賠責保険金額75万円)
・1手の親指以外の手指の指骨の一部を失ったもの
・1手の親指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなったもの
・局部に神経症状を残すもの

補足すると、失ったものというのは、文字どおり交通事故などで切断されて無くなったことを指します。
用を廃したものとは、麻痺で動かなかったり骨折で変形したりして、本来の役割を果たすことができなくなったという意味です。

実務上、用を廃したものと認められる目安としては、指の末節骨の2分の1以上を失った場合や、指の可動域が健康な側の2分の1以下に制限された場合、指先の感覚が完全に失われた場合などが挙げられます。
単に動かしにくいという程度では認められないため、可動域の正確な測定が重要になります。

7. 認定で争点になりやすいポイント

親指が使えるかどうかは重要

等級表を詳しく見ると、親指の欠損および用を廃したものに関しては、他の指よりも重い後遺障害認定がされていることが分かります。

手の動きを観察してみると分かるのですが、物をつかむ際に親指を使わないでいると、力が入らないうえに非常に不安定になります。

親指は他の4本の指と向かい合わせになれる唯一の指であり、つまむ、握るという動作の要です。
現代であればスマホを持った際に、親指がなければ操作ができないことが多く、親指がない方の手で持って反対の手で操作する場合でも固定感が下がります。
試してみれば、親指がないことの不便さがより実感できるはずです。

用を廃したかどうかは診断書次第

手指の後遺障害認定において、欠損の場合には争点なく認定が受けられることがほとんどです。
しかし、麻痺や神経障害などで用を廃したと主張する場合には、医師の診断書が大きく影響します。

患者本人は、麻痺であまり動かないのだから用を廃した指に含まれる、と思っていても、医師からすれば指の可動域の数値上、用を廃したとまでは言い難い、と診断するケースがあるからです。

その場合、第12級の局部に頑固な神経症状を残すもの、や、第14級の局部に神経症状を残すもの、という神経症状の障害として扱われることが多くなります。

また、日常生活に支障がない程度に手が使えるものの、軽度のしびれや麻痺・痛みがある場合には、日常生活に支障がないという点を重視され、後遺障害認定されなかったり、最も軽い第14級として認定されたりすることもあります。

症状の一貫性と通院実績

神経症状で認定を受けるためには、事故直後から症状固定まで、一貫して同じ症状を訴え続けていることが重視されます。

事故から時間が経ってから初めてしびれを訴えた場合や、通院の間隔が大きく空いた場合には、事故との因果関係を疑われ、認定されにくくなります。
違和感程度であっても、診察のたびに症状を伝え、カルテに記録を残してもらうことが、後の認定につながります。

8. 後遺障害慰謝料は基準によって大きく変わる

後遺障害認定されるか否かで、後遺障害慰謝料が支払われるかどうかが変わってきます。
さらに、どの基準で算定するかによって、金額は大きく異なります。

慰謝料の算定基準には、自賠責基準、任意保険会社の基準、裁判での判例基準の三つがあります。
弁護士を通じて請求する場合には判例基準で請求するため、自賠責基準に比べると大幅に増額します。

自賠責基準では、慰謝料部分は第3級で829万円、第9級で245万円、第14級で32万円です。
これに対して判例基準では、第3級で1990万円、第9級で690万円、第14級で110万円となります。
自賠責基準が、あくまで最低限の金額であることが分かります。

さらに、手指の後遺障害では、慰謝料とは別に逸失利益も重要な争点になります。
手指を使う仕事、例えば調理師や美容師、楽器演奏者、細かい作業を伴う技術職などの場合、等級表上の労働能力喪失率以上に、実際の仕事への影響が大きいことがあります。
このような場合、職業の実態を具体的に立証することで、より高い逸失利益が認められる余地があります。

手指の障害は外から見えにくく、軽く扱われがちです。
しかし、日常生活と仕事の両面に長く影響が残るものだからこそ、正しい等級認定と適正な賠償を受けるために、早い段階で交通事故に精通した弁護士へ相談されることをおすすめします。