関節の後遺障害

人間の骨の数は基本的に206個あります。(個人差や癒合・未発達等で200~208個)
そして骨と骨が接していて曲がる部分を関節と言いますが、関節の数は約260個にも及びます。
交通事故で体に大きな衝撃が加わると、関節にも大きな衝撃が加わります。
例えば一本の棒が立っていて横から殴ったとすると、殴った部分から均一に衝撃が広がっていきます。
そして強すぎる衝撃が加わった場合には、棒自体が折れてしまいます。
しかし、積み木のように積み上げた物を殴った場合には、殴った部分は力が伝わりずれたり積み木が崩れたりしますが、その他の部分はその場を動かずにいたりします。
だるま落としをイメージすると分かりやすいと思います。
関節の後遺障害は、痛みだけでなく、腕や足が曲がらない・伸びないといった可動域の制限として残ることが多く、日常生活に大きな影響を与えます。
この記事では、関節が痛む3つの原因から、日常生活への影響、そして後遺障害等級の認定で最も重要になる可動域の測定や慰謝料まで、まとめて解説します。
1.人体の構造は「柔構造」になっている
一見すると弱そうに思えますが、国宝の五重塔などは床から天井までの一本柱ではなく、各階で独立した柱である『柔構造』と呼ばれる耐震性に優れた建築方法と同じく、関節があることである程度の衝撃を吸収分散しています。
とはいえ、関節が吸収できる衝撃には限度がありますし、可動域とは逆の方向には動かないため、時として交通事故では関節を痛めることがあります。
関節が動く範囲のこと。
ROM(Range Of Motion)とも呼ばれ、角度で表される。
交通事故で関節を痛めるとこの可動域が狭くなり、後遺障害の等級を判断する重要な基準となる。
2.骨が原因で、関節が痛むケース
関節が痛む原因としては、大きく分けて3つあります。
1つ目は骨が原因のものです。
交通事故の衝撃で、関節部分の骨が折れたり欠けてしまったりと、骨自体に損傷を負うことが原因のものと、関節がゆがむことにより痛みが出るというケースです。
骨自体に損傷があるケースで、ひびや単純骨折ならば自然治癒を待ちますが、複雑骨折などの場合は外科的な処置がされることがあります。
また、関節の歪みが生じている場合には、牽引や整体などで骨を正常な位置に治していくことで、痛みを軽減することができます。
骨自身に炎症が起きている場合には、炎症を止めるための内服薬や、湿布などの消炎作用のある外用薬が処方されます。
関節内の骨折は変形性関節症につながることがある
関節の内部にまで及ぶ骨折を負うと、骨がなめらかに動くための軟骨まで傷つけてしまうことがあります。
この場合、骨折そのものが治っても、関節の表面がでこぼこになって痛みや動かしにくさが残り、時間の経過とともに変形性関節症へと進行することがあります。
交通事故から年月がたってから痛みが悪化するケースもあるため、症状固定の時期は慎重に判断する必要があります。
3.筋肉や腱などの損傷で、関節が痛むケース
2つ目は筋肉や腱などの損傷です。
関節は骨だけでは動かせず、骨に付随している筋肉の弛緩・緊張によって動かすことができます。
しかし、強い衝撃がかかると筋肉が損傷することがあります。
特に筋肉に力が入り緊張している時に無理に筋肉を引き延ばされると、筋肉や腱と呼ばれる部分が断裂し激しい痛みを伴う、いわゆる『肉離れ』が起きます。
これも日にちをかけて自然治癒を待ちますが、筋肉が大きく断裂したり、腱が骨からはがれてしまう深刻な肉離れの場合には、筋肉と筋肉を縫い合わせたり、骨に腱を固定する手術が行われます。
4.神経が損傷して、関節が痛むケース
3つ目は神経が損傷しているケースです。
関節部分は神経が密集していたり、関節の動きや血管を阻害しないように迂回している形になっていたりと、複雑な形になっているところが多くあります。
また、脊椎(背骨)の真ん中には脊髄と呼ばれる神経の束が通っており、関節が無理な方向に曲がったことにより、神経が損傷したり断裂してしまったり、変形した骨に神経が圧迫されていたりといった理由から痛みが生じることがあります。
神経が圧迫されている場合には、圧迫されている部分を開放すると快方に向かいますが、神経が損傷や断裂をしている場合には、自然治癒に期待することになります。
しかし、脊髄は不可逆の組織で、一度損傷したり断裂したりしてしまうと、現在の医療では治療方法がないため、痛みと一生付き合うことになります。
また、関節の障害は痛みだけではなく、麻痺や脱力感、こわばりといった、神経痛の症状が現れることも多々あります。
関節の痛みというと、痛む関節の部分が悪い、と思いがちですが、実際には別の関節が原因であったり、複数の関節が関係していたりして、通り一遍の検査では原因が分からないということがあります。
関節の痛みが長引く場合には、整形外科だけではなく、別の角度からの診察を受けてみるのも良いかもしれません。
5.日常生活への影響
関節は骨と骨の継ぎ目と言うべき場所で、身体に衝撃が加わった際に衝撃を緩和させるクッションの役目も担っています。
本格的な運動をする前に準備体操をすることがありますが、体を温めて動きやすくするとともに、関節を柔らかくして動きを良くし、怪我をしづらくする効果があります。
動かさないと悪化する「負のスパイラル」
関節に痛みがある場合には、関節の曲げ伸ばしをすると痛みが増すため、動かすことを避けるようになります。
痛みがある場合には痛みが出る行動を控えるというのはある意味正しいのですが、動かさないと筋肉が硬直してさらに動かしにくくなるため、動かすと痛みが強く出るようになる『負のスパイラル』に陥ることがあります。
また、筋肉が硬直すると関節のスムーズな動きができないため、例えば指の関節ならば持つ・つかむ・つまむといった動作がとりづらくなり、
箸どころかスプーンをつかむのもやっと、
テレビのリモコンのボタンをうまく押せない、
取っ手のないコップを持つことができない、
という人もいます。
関節を長い間動かさないでいることで、周囲の筋肉や腱が硬くなり、関節が動かせる範囲が狭くなってしまうこと。
一度拘縮が進むと元に戻すのが難しくなるため、痛みがあっても医師の指導のもとで適切に動かすことが重要とされる。
歩行に支障が出る
膝の関節に違和感がある時には、歩行に支障がある人が多いです。
人により、膝を曲げている時が痛い、膝を伸ばしている時が痛い、曲げても伸ばしても痛い、痛みはさほどないが常にしびれている、正座をすることができない、と症状は様々です。
ひどい場合には常に痛みがあるため、椅子に座っていても痛みが軽減せず、立ったり座ったりをせわしなく繰り返す人もいます。
それでも立ち座りができる間はまだ良いのですが、立ち座りの動作ですら激しい痛みが出る場合には、日中は座りっぱなしか寝転がるかのどちらかの体勢しかできなくなることがあります。
首と腰が、痛みやすい
交通事故による関節の痛みで出やすい箇所が首と腰です。
首はむち打ち、腰は腰痛としてメジャーであるため、首や腰を動かす際に痛みが出る、腰が痛すぎて立つことというよりも座ることすらできない、首の筋肉がつっぱった感じで強い肩こりのような痛みを感じる、腰にピリピリとした電気が当たっているような感覚があり動かすと電気が走ったような感覚がする、といった症状が出ます。
関節の痛みは往々にして動かした際に痛みが増すことが多いので、自然と体を動かさなくなります。
身体を動かさなくなると運動不足が起こり、肥満や生活習慣病のリスクが高まるほか、糖尿病などの持病がある人は悪化する可能性が高いです。
関節の痛みが激しく体を動かすことが困難な場合には、悪化防止のために食事制限や投薬なども考えなければいけません。
痛みが続く場合には、原因が違うかも?
関節痛の症状は様々にあり、その原因も人により違うため、万人に効く治療法はこれである、と言えないところもあります。
そのため、知人が膝の痛みがなくなったと言っていた整体院に通っているけど治らない、といった場合には、そもそもの膝の痛みの原因が違うということが考えられます。
病院で診察をしていても関節がなかなか良くならない場合には、別の科や別の医院でセカンドオピニオン的に受診してみるのも良いでしょう。
交通事故が原因で膝の関節痛になった、と思い込んでいたら、隠れた持病として痛風を発症していたり、加齢によるひざ軟骨の減少であったり、交通事故以外の原因で関節痛が発症しているケースもあります。
そのような場合には、原因になっている痛風の治療や加齢に対する対処をしなければ膝の関節は治りません。
診察を受けている医師とは別の専門の医師の診断を受けることによって真の原因が分かるというのはよくあることですので、現在診察している医師にセカンドオピニオンを打診してみてもよいでしょう。
現在かかっている医師とは別の医師に、診断や治療方針について意見を求めること。
交通事故の関節痛は原因が複雑で見つかりにくいことがあるため、別の視点からの診察で真の原因が判明することもある。
後遺障害の立証という点でも、適切な検査を受けられる医師にかかることは重要。
6.関節に関する後遺障害認定について
身体には関節が多数あるため、体中のどこにでも関節に関する後遺症が発生する可能性があります。
関節の後遺症は痛みだけでなく、麻痺、可動域が狭くなる、しびれのような不快感が続く、と様々にあり、症状の程度も大きく変わるため、認定される後遺障害等級が大きく変わってきます。
後遺障害の等級
介護第1級(自賠責保険金額4000万円)
・神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
介護第2級(自賠責保険金額3000万円)
・神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
第1級(自賠責保険金額3000万円)
・両上肢の用を全廃したもの
・両下肢の用を全廃したもの
第3級(自賠責保険金額2219万円)
・神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの
第5級(自賠責保険金額1574万円)
・神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
・一上肢の用を全廃したもの
・一下肢の用を全廃したもの
第6級(自賠責保険金額1296万円)
・一上肢の三大関節中の二関節の用を廃したもの
・一下肢の三大関節中の二関節の用を廃したもの
第7級(自賠責保険金額1051万円)
・神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの
第8級(自賠責保険金額819万円)
・一上肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの
・一下肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの
第9級(自賠責保険金額616万円)
・神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
・一手のおや指を含み二の手指の用を廃したもの又はおや指以外の三の手指の用を廃したもの
・一足の足指の全部の用を廃したもの
第10級(自賠責保険金額461万円)
・一手のおや指又はおや指以外の二の手指の用を廃したもの
・一上肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの
・一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの
第11級(自賠責保険金額331万円)
・脊柱に変形を残すもの
・一足の第一の足指を含み二以上の足指の用を廃したもの
第12級(自賠責保険金額224万円)
・一上肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの
・一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの
・一手のひとさし指、なか指又はくすり指の用を廃したもの
・一足の第一の足指又は他の四の足指の用を廃したもの
・局部に頑固な神経症状を残すもの
第13級(自賠責保険金額139万円)
・一手のこ指の用を廃したもの
・一足の第二の足指の用を廃したもの、第二の足指を含み二の足指の用を廃したもの又は第三の足指以下の三の足指の用を廃したもの
第14級(自賠責保険金額75万円)
・一足の第三の足指以下の一又は二の足指の用を廃したもの
・一手の親指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなったもの
・局部に神経症状を残すもの
「用を廃した」というレベルは高い
先述したように関節は体中にあるため、後遺障害が認められる可能性がある等級及び症状は多岐にわたります。
しかし、上の等級になればなるほど厳しい審査基準になるため、関節が強固に固定して動かすことができない、というレベルでなければ、用を廃した、という基準に達しないことが多いです。
可動域制限は「健側との比較」で判断される
関節の機能障害は、けがをした側(患側)の関節の可動域を、けがをしていない側(健側)と比べて判断されます。
具体的には、可動域が健側の2分の1以下に制限されると『関節の用を廃したもの』、4分の3以下に制限されると『機能に著しい障害を残すもの』として、それぞれ上位の等級に認定される可能性があります。
そのため、後遺障害診断書には角度計を用いた正確な可動域の測定値を記載してもらうことが極めて重要です。
測定方法が不正確だと、本来より低い等級になってしまうこともあるため注意が必要です。
腕では肩・ひじ・手首、脚では股・膝・足首の関節を指す。
後遺障害等級では、これらの大きな関節の可動域がどれだけ制限されたかが、認定の重要な基準となる。
7.後遺障害慰謝料と、診断書の重要性
後遺障害認定されるか否かで、後遺障害慰謝料が支払われるかどうかが変わってくるのですが、弁護士を通じて請求する場合には判例基準で請求するため、自賠責基準に比べると大幅に増額します。
自賠責基準だと慰謝料部分は第1級で1100万円、第2級で958万円、第4級で712万円、第9級で245万円、第11級で135万円です。
この一方、判例基準ですと第1級で2800万円、第2級で2370万円、第4級で1670万円、第9級で690万円、第11級で420万円なので、差は3倍近くなります。
後遺障害認定は書類がすべてを決める
後遺障害認定は、医師の診断書と添付の書類によってのみ審査がされます。
つまり事前に医師が、症状からして第5級が相当、と言っていても、診断書や書類の書き方が良くなければ、第12級や第14級での認定となることもありえます。
関節の後遺障害は、可動域の数値や画像所見など、客観的な資料をどれだけそろえられるかが認定を左右します。
書類の作成に不安がある場合には、後遺障害の申請に詳しい弁護士に相談し、診断書の内容をチェックしてもらうと安心です。
自賠責基準は、自賠責保険から支払われる最低限の補償額を算定する基準。
弁護士基準(判例基準)は、過去の裁判例をもとにした基準で、3つある算定基準の中で最も高額になる。
同じ後遺障害でも、どの基準で計算するかによって慰謝料が大きく変わる。
なお、ご自身やご家族の自動車保険に弁護士費用特約が付いていれば、多くの場合300万円まで弁護士費用が保険で賄われ、特約を使っても保険等級は下がらないのが一般的です。
関節の後遺障害は、適正な等級を得られるかどうかで賠償額が大きく変わります。
少しでも不安があれば、交通事故に詳しい弁護士へ早めに相談することをご検討ください。
