肩の後遺障害について

「痛い部位」と実際の障害部位が異なるケース 肩に関する日常生活への影響

1. 肩の後遺障害で多く見られる症状

肩の後遺障害では、動かすと痛みが走る、肩が上がらない、肩から先が麻痺して動かない、といった症状が中心になります。
日頃から肩こりに悩まされている方であれば、見覚えのある訴えが多いはずです。

一言に肩と言っても、関係する組織は多岐にわたります。
骨であれば肩を形成する鎖骨のほかに上腕骨と肩甲骨があり、筋肉であれば僧帽筋・広背筋・三角筋・大菱形筋・小菱形筋・上腕三頭筋などが複雑に関与しています。

さらに、肩と首とは密接な関係にあります。
頸椎という骨のほかに、頭半棘筋・頭頸板状筋・肩甲挙筋・棘上筋などの筋肉、頸椎から伸びる神経が原因となって、肩に障害が現れることがあります。

肩から先を欠損するような重大な障害もありますが、交通事故で生じる後遺障害の多くは、麻痺や痛みによって肩が動かしにくくなる、あるいは動かなくなるという症状が大半を占めます。
つまり、外見上は分かりにくく、本人にしか分からない苦痛が残るタイプの障害が中心だということです。
この点が、後の等級認定で争いになりやすい理由でもあります。

【用語解説】後遺障害
治療を続けてもこれ以上回復が見込めない状態、いわゆる症状固定に至った時点で残っている障害のことです。
自賠責保険では第1級から第14級までの等級が定められており、認定された等級に応じて後遺障害慰謝料や逸失利益の額が決まります。

2. なぜ右肩の症状が重く出やすいのか

肩の障害は、左右に同じだけ現れるとは限りません。
片方だけに出る、あるいは片方の症状がより重く出る、というケースが実務上は非常に多く見られます。

肩は左右対称に骨と筋肉が備わっているため、右肩だけが痛い、という症状も理屈のうえでは起こりえます。
ただし実際に相談を受けていると、両肩とも痛いがどちらかというと右肩の方が痛い、と訴える方が多数です。

理由はいくつか考えられます。
一つは、シートベルトの向きです。
交通事故の被害者が運転手である場合、国産車では右上から左下に向けてシートベルトを装着するため、衝突の衝撃でベルトが右肩に食い込み、右肩を損傷することがあります。

もう一つは、利き手の問題です。
右手が利き手の人の方が圧倒的に多く、扉の開け閉めや駅の改札なども右利き用の仕様となっていることが多いため、痛みがあってもつい右手を使ってしまい、結果として治りにくいという傾向があります。

右手をかばう動作が、左肩まで痛める

右肩が痛いので左手で扉の開け閉めをする、という対応を取ったとします。
もともと左利きでない限り、この動作はぎこちなくなります。

前述のとおり、扉や駅の改札、はさみなど、世の中の製品は圧倒的に右利き仕様です。
左手で右手仕様の物をつかんだり触ったりするためには、左腕を身体の前で右側にクロスさせる動作が必要になります。

実際に試してみると分かりますが、これはかなり窮屈な動作です。
右手であれば簡単に届く範囲の物が、左手だと10センチほど手前で止まってしまうため、身体を不自然にねじったり、無理に左手を伸ばしたりすることになります。

その結果、怪我をした右肩をかばう動作を続けたために左肩まで痛くなる、という事態が起こります。
そして、左手だと動作がまだるっこしいので痛くても右手を使おう、と判断してしまうと、再び右肩が動かせないほど痛くなります。
かばえば反対側を痛め、かばうのをやめれば元に戻る、という負のスパイラルに陥るわけです。

この経過は、後遺障害の申請にあたって見落とされがちな部分でもあります。
受傷した側の症状ばかりが診断書に記載され、後から悪化した反対側の症状が記録に残っていない、というケースは珍しくありません。

3. 痛む部位と実際の障害部位が異なるケース

肩に障害が現れた場合、それより末端である腕や指にも障害が現れることがあります。

これは、神経が脳から頸椎内の脊髄を通り、肩・腕・指と順番に走行しているためです。
川の上流で水がせき止められると下流に水が流れなくなるのと同じように、神経の経路が肩の位置で障害されると、その下流にあたる腕や手指に症状が現れます。

反対に、肩よりも上流にあたる首や脳に異常があると、下流である肩に症状が現れることもあります。
痛みを訴えている場所が、必ずしも原因のある場所とは限らないということです。

放散痛という現象

さらに、放散痛と呼ばれる現象もあります。
例えば心筋梗塞では、胸やその付近が痛む関連痛が起こることが多いのですが、原因部位である心臓とはかけ離れた肩や背中、歯などに痛みが現れることがあります。

そのため、患者が肩の痛みを訴えるので医師が肩付近を重点的にCTやMRIで検査しても、異常が見つからないことがあります。
その結果、単なる加齢による五十肩、あるいは原因不明の肩痛として診断されてしまうケースが生じます。

筋肉の断裂についても同様です。
大きな裂傷であれば画像診断に現れますが、微細な損傷の場合は画像上でも判別できないことがあります。

画像に写らない、という一点をもって保険会社側から症状の存在自体を疑われることがあるため、この段階でどのような検査を受け、何を記録に残すかは非常に重要になります。

【用語解説】放散痛
障害が起きている部位とは離れた場所に痛みを感じる現象です。
神経の経路が途中で合流していることなどが原因とされ、原因部位の特定を難しくする要因になります。

4. 肩の可動域が狭くなる障害

肩の後遺症でよく見られるのが、腕が上がらないという可動域の制限です。
肩が上がらなくなる理由は、大きく三つに分けられます。

一つ目は、神経障害から麻痺が起きているケースです。
前述のとおり、肩そのものの神経のほかに頸椎や脳に原因があることもあるため、肩だけではなく広い範囲の検査が必要になる場合があります。

二つ目は、関節部分に異常が起きているケースです。
交通事故による骨折や打撲によって、肩関節の骨に変形やズレなどが生じ、可動域が狭くなることがあります。
加齢によって関節の変形がもともとあった場合には、後遺障害がより現れやすくなるため注意が必要です。

三つ目は、筋肉に異常が起きているケースです。
肩甲下筋、棘上筋、棘下筋、小円筋などから構成される肩回旋筋腱板は、スポーツ選手、特に野球選手が肩を壊した、という場合に損傷している部位を指すことが多い箇所です。

スポーツ選手の場合は継続的な使用による損傷ですが、交通事故の場合は大きな力が瞬間的に加わって損傷することが多く、時として自己再生では修復が不可能なこともあります。

交通事故以前から肩を酷使していたり、加齢によって筋量が衰えていたりした場合には、事故での損傷が決定打となって肩が動かなくなることがあります。

ここで問題になるのが、既往症の扱いです。
中年以降の身体的な悩みの上位に入るのが肩こりであるため、事故以前から肩こりの症状があったり、高齢であったりした場合には、交通事故による後遺障害ではなく元からあった症状である、あるいは元からあった症状が悪化しただけである、として、保険会社が後遺障害そのものを否定したり、後遺障害慰謝料の減額を主張してきたりします。

このような主張に対しては、事故前後で症状がどう変化したかを客観的な記録で示していく必要があります。
交通事故に精通した弁護士に相談し、正しい後遺障害等級を受けられるよう準備を進めることをおすすめします。

5. 日常生活への影響

肩は日常の何気ない動作でも使うため、肩の障害によって生じる支障は数多くあります。

肩から先を欠損するような大きな怪我の場合には、物をつかむという動作ができなくなるため、生活に大きな支障が生じます。
義手を使われる方もいますが、現在の医療技術では大掛かりな装置がなければ義手を思い通りに動かすことができないため、一般的には腕を添えるという機能が中心となります。
また、義手を使うことで見た目の違和感を減らし、身体の左右のバランスを取りやすくなるという利点もあります。

もっとも、肩の障害で圧倒的に多いのは、肩の痛みと可動域の制限です。

ほとんどの場合、この二つの症状は同時に現れます。
肩を動かすと痛い、痛いので少ししか動かせない、という状態を繰り返すうちに、交通事故後にかえって肩の状態が悪化していくケースもあります。

本来であれば肩を動かさずに安静にすべきなのですが、それも簡単ではありません。
食事で箸を口元まで上げる、コップで水を飲む、テレビのリモコンを取る、といったちょっとした動作でも肩は動いてしまうため、悪化と痛みを繰り返すことになります。

では、肩を動かさずに安静にし続ければよいかというと、そうとも言えません。
肩を動かさずにいると筋肉が硬直したり、関節が変形したまま固定されたりして、さらに肩が動かしにくくなり、わずかに動かすだけでも痛みが生じることがあります。

手指に現れる症状

肩に後遺障害が出ている方の中には、手指にも障害が出る方が多くいます。
握る、つかむといった指の曲げ伸ばしが難しくなったり、手や指が震える振戦が起こったりすることもあります。

手指につながる神経が肩を通っていることが原因で、神経が物理的に損傷している場合のほか、変形した肩の筋肉や骨が神経を圧迫して、腕や手指のしびれを誘発しているケースもあります。

腕や手指にしびれがある場合、物を取ろうとする際に動きにくくなった腕や手をカバーするために肩を大きく動かしてしまうことが多く、結果として肩により負担をかけることになります。

こうした日常生活上の支障は、診断書の数値だけでは伝わりません。
どの動作がどの程度できないのかを具体的に記録しておくことが、後の主張立証に役立ちます。

6. 肩に関する後遺障害等級

交通事故における肩の後遺障害は、肩から先の切断といった重篤なものから、肩が動かしにくいという症状まで幅広く存在します。
そのため、等級も第1級から第14級まで広い範囲にわたります。

認定の要件は、切断から神経症状まで細かく条件付けされています。
主なものは以下のとおりです。

第1級(自賠責保険金額3000万円)
・両上肢の用を廃したもの

第5級(自賠責保険金額1574万円)
・1上肢の用を廃したもの

第6級(自賠責保険金額1296万円)
・1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの

第7級(自賠責保険金額1051万円)
・1上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの

第8級(自賠責保険金額819万円)
・1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの
・1上肢に偽関節を残すもの

第10級(自賠責保険金額461万円)
・1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの

第12級(自賠責保険金額224万円)
・局部に頑固な神経症状を残すもの
・1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの
・長管骨に変形を残すもの

第14級(自賠責保険金額75万円)
・局部に神経症状を残すもの

このうち、1上肢の用を廃したものや上肢に偽関節を残すものといった、検査や手術によって明確になる障害については、認定において争いになることは比較的少ないと言えます。

問題になりやすいのは、局部に神経症状を残すものと、局部に頑固な神経症状を残すものの区別です。
どのレベルから頑固と評価されるのか、判断が微妙になる場面があります。

同様に、1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すものと、1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すものとでは、著しいの差が一般の方には分かりづらく、自分が予想していた等級よりも低い認定を受けることも少なくありません。

【用語解説】3大関節
上肢では肩関節・肘関節・手関節の三つを指します。
可動域制限の等級は、健側と比較して患側の可動域がどの程度に制限されているかを基準に判断されます。

7. 異議申し立てと保険会社の反論

後遺障害等級が不当に低すぎる、という相談は実際に多く寄せられます。

後遺障害認定のための診断書を精査し、認定が順当なものであれば、その理由を説明して納得していただくことになります。
しかし、相談者が言うとおり等級が低いと判断される場合には、異議申し立てを行うことになります。

異議申し立ての難しさ

一つ目の問題は、異議申し立てをしたからといって、必ずしも等級が上がるとは限らないという点です。

前回提出した内容と変わらなければ、等級が上がることはほぼありません。
そのため、前回の提出内容を精査したうえで、再認定を受けやすくなる書類や診断書の内容をそろえて再提出する必要があります。

異議申し立てで等級が変更される割合は決して高くないと言われています。
初めから弁護士のアドバイスを受けて申請書類を作成する方が無難です。

なお、初回の等級認定を行うのは損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所であり、認定結果に不服がある場合の紛争処理を担当する自賠責保険・共済紛争処理機構とは別の組織です。
どちらの手続きを選ぶかによって進め方が変わるため、この点は早い段階で整理しておく必要があります。

保険会社が反論してくるケース

二つ目は、加害者側、特に加害者側に保険会社が付いている場合に、等級について反論が入る場合があるという点です。

仮に、1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すものとして第12級の認定を受けたとします。
被害者としては、1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すものとして第10級が妥当だと考えていても、加害者側からは、中立的な調査機関が12級と認定しているのだから10級を主張するのは不当だ、という反論が返ってくることがあります。

さらに深刻な場合には、次のような主張がなされることもあります。
12級と認定されてはいるが、実際には交通事故以前から肩に障害があったのだから、12級として後遺障害慰謝料を全額支払うのはふさわしくない。
被害者は肩が動かないと主張しているが、買い物に行った際に重い買い物かごを持っていたり、自分で洗車していたりしたという目撃証言があるので、後遺障害自体が詐病によるものだ。

こうした主張への対応は、被害者の職業や年齢、事故前の就労状況によって変わってくるため、ケースバイケースと言わざるをえません。

反対に、被害者側から等級ごとの労働能力喪失率よりも高い割合の逸失利益を請求した場合であっても、直ちに高すぎるとは言えないケースもあります。
肩の可動域制限が職業上決定的な支障となる場合などが、これにあたります。

8. 納得できる等級を得るために

肩の後遺障害は、外見からは分かりにくく、画像にも現れにくいという特徴があります。
そのぶん、どのような検査を受け、どのような記録を残してきたかが結果を大きく左右します。

事故直後から症状の経過を記録しておくこと、痛みやしびれの部位と程度を医師に正確に伝えること、日常生活のどの動作にどれだけ支障が出ているかを具体的に説明できるようにしておくこと。
この三点が、後の等級認定において大きな意味を持ちます。

そのうえで、示談交渉が不調に終わった場合には、裁判所の判断を仰ぐことも選択肢に入ってきます。
どの段階でどの手続きを選ぶべきかは事案によって異なるため、早い時期に交通事故に精通した弁護士へ相談されることをおすすめします。