むち打ち症状について

むち打ちの原因は後で判明するケース 日常生活への影響 むち打ち

1.むち打ちは交通事故で最も多い受傷

交通事故による受傷の割合の中で、むち打ちはかなりの割合を占めます。
むしろ、交通事故イコールむち打ちと連想する人が多いほど、代表的な受傷と言ってよいでしょう。
むち打ちが起こる原因は身体に大きな衝撃がかかる事であり、交通事故は車同士が衝突するため、想像以上に大きな衝撃がかかる事になります。
注意したいのは、時速10km程度の低速での追突であっても、むち打ちを受傷することがあるという点です。
車の損傷が軽微だったからと油断して受診しないでいると、後から症状が出た時に交通事故との因果関係を証明しにくくなるため、事故後は必ず医療機関を受診しましょう。

【用語解説】むち打ち(頸椎捻挫・外傷性頸部症候群)
衝突の衝撃で首がむちのようにしなり、首の筋肉・靭帯・神経などを傷めるものの総称。
正式な診断名としては頸椎捻挫や外傷性頸部症候群と記載されることが多い。

2.なぜむち打ちが起こるのか ― 物理と身体の仕組み

物理的に見ると、衝撃の大きさは『重量×速度の2乗』になります。
つまり、重い車ほど衝撃が大きくなるのですが、速度は2乗で大きくなるため、速さが2倍ならば4倍の衝撃、3倍ならば9倍の衝撃が加わります。
そのため、大きな車が低速度で衝突するよりも、小さな車が高速で衝突する方が、衝撃力が高い事もあります。
また、慣性の法則で『停止している物体は停止し続けようとし、運動している物体はそのまま等速度運動を続けようとする』というものがあります。
そのため、停止している時に自動車に衝突された場合、身体はそこに留まり続けようとしているのに、外部から押される状態になります。
反対に自動車の運転中に衝突すると、衝突により自動車は減速・停止しようとしているのに、身体は走行速度で動こうとしているため、前のめりの体勢になります。
この時、シートベルトをしていない場合、フロントガラスを突き破って外に投げ出されたり、フロントガラスに強かに頭部を打ちつけることがあります。
シートベルトをしている場合、肩から下の体は固定されていますが、首が大きく振られることになります。
そのため、身体に大きな怪我はなくとも、むち打ちを受傷しやすいのです。
身体的な原因からむち打ちを考えると、頭の重量は成年男性で全体重の8%~10%と言われており、平均6~8kgになります。
ボウリングの球を首の上に載せて生活しているようなもの、と言えばその負担がイメージしやすいでしょう。
それほどの重量があるにもかかわらず、頭は直径10~20㎝の首の上に載っており、支えている骨は頸椎のみで、その他は首の筋肉で補っている状態です。
しなやかで弾力のある針金に野球のボールを差して、針金の周りに粘土を巻いた状態で、そのボールを強く横から叩いた場合、ボールは左右に大きく揺れます。
交通事故の場合には、頭と首に同等のことが起こっています。
しかも、身体全体に自動車がぶつかった場合でも、頭は一番上で重心が一番ずれやすい位置にあります。
その重量から大きく振れやすいだけでなく、それを支える首がぜい弱であるにもかかわらず、多数の骨が組み合わさった頸椎の構造上振れやすいため、むち打ちを引き起こしやすいのです。

3.むち打ちの原因は、後で判明するケースもある

むち打ちは首の筋肉の捻挫(頸椎捻挫)をさすのですが、首の痛みの原因には頸椎のずれ・神経の圧迫などもあり、初めはむち打ちと思われていたものが、のちにそれらが原因だと分かる事もあります。
レントゲンやMRIなどの画像で異常が認められず、首に痛みがみられる場合、頸椎捻挫と診断され、湿布や痛み止めで2週間~1か月ほど様子を見るということがほとんどです。
実際、むち打ちは『衝突で急激に首の部分が動いたため、無理な筋肉の伸び縮みで筋肉を傷めてしまった』ということが多いです。
急に無理なストレッチ体操をすると、足や腕などの筋肉が痛くなるのと同じ原理なので、単なる捻挫であるのならば、安静にして筋肉が修復されれば治ります。
ですが、1か月たっても痛みが引かない場合には、単なる筋肉の損傷ではない可能性が高まります。
その場合精密検査が行われ、頸椎のずれ・脊髄損傷・神経の圧迫・骨の変形などが見つかれば、頸椎捻挫ではなく、それぞれの原因に対する病名がつきます。
しかし、厄介なのが、精密検査をしたがレントゲンやMRIなどの画像証拠が出なかった場合です。
異常個所がないのに患者が痛みを訴えている、という状態で、患者の訴えしか証拠がないため、本当に痛みがあるのかわからない、ということになり、交通事故の加害者側としばしば紛争となることがあります。
なお、ひとくちにむち打ちと言っても、医学的にはいくつかの型に分類されており、どの型に該当するかで治療方針も後遺障害認定の見通しも変わってきます。

【用語解説】むち打ちの主な分類
①頸椎捻挫型:首の筋肉や靭帯の損傷によるもので、むち打ち全体の大半を占める。
②神経根症状型:頸椎から出る神経の根元が圧迫され、首の痛みに加えて腕や指のしびれ・脱力が出るもの。
③バレ・リュー症候群型:自律神経の乱れにより、頭痛・めまい・耳鳴り・吐き気などが出るもの。
④脊髄症状型:脊髄そのものが損傷を受けたもので、歩行障害を伴うこともある重症型。

4.日常生活への影響

むち打ちは首の痛みが伴うため、日常生活に様々な支障が出ます。
むち打ちの場合、痛みが常にある事もあるのですが、それよりもよくあるのが、痛みにより首の可動域が狭まる事です。
首を動かそうとすると強い痛みが伴うため、首を動かすことができないことが多いのですが、人によっては
『顔を右に向けようとすると痛む』、
『頭を左に傾けると痛む』、
『下を向こうとすると痛む』
といった、特定の方向のみ痛みが出ることも多いです。
普段の生活では、物を見る際に首だけ動かして見回すということをごく普通にしています。
むち打ちであってもその習性が出るため、ついうっかり首を動かして痛みが走ることが多く、不意打ちのような痛みに不快感を覚える人も多いです。
車の運転時の後方確認、洗濯物を干す時に上を向く動作、うがいや洗顔など、首を使う場面は日常に無数にあり、そのたびに痛みと向き合うことになります。
むち打ちは首を過剰に曲げたことにより、筋肉や靭帯が伸びきった・伸びて断裂した状態なので、首の筋肉に張りを感じることも多いです。
腫れあがるといった見た目で分かる時もありますが、患部に触れてみると、筋肉が緊張して突っ張っていることがあります。
常に一方向に引っ張られているような感覚があり、それに逆らって伸ばそうとすると痛みが生じるので、痛みを軽減するために首をかしげたような姿勢になってしまう人もいます。
そのため、姿勢が乱れて体にゆがみが生じてしまい、肩や腰、時として足などにも痛みが生じることがあります。
むち打ちの完治まで期間が短ければ、自然と姿勢も元に戻って行きます。
しかし、痛みが長引き、ゆがんだ体勢が癖になってしまうと、その後の生活でも体の歪みによる痛みが出やすくなります。
デスクワークの方は特に、痛みをかばう姿勢のまま長時間パソコンに向かうことで、肩こりや腰痛が慢性化しやすいため注意が必要です。

5.「むち打ち」には、安易にマッサージしない方が良い

首のコリと症状が似ているため、首や肩をほぐすような体操やマッサージをしてしまいがちです。
しかし、首のコリが血行不良による筋肉の硬直なのに対して、むち打ちは筋肉の損傷、つまり怪我のことが多いため、逆効果となることがあります。
特に、頸骨のゆがみにより痛みが生じている場合には、下手にマッサージなどをするとゆがみを大きくしてしまうため、医師や整骨医の治療を受けるようにしましょう。
また、むち打ちを受傷してすぐは炎症を起こしているため、炎症を抑えるために冷やし、炎症が治まってから回復を促進させるために温める、というのが正解になります。
受傷直後に入浴や飲酒で体を温めてしまうと、炎症が悪化して痛みが強まることがあるため、事故当日は特に注意しましょう。
ここで気を付けたいのが、整骨院・接骨院への通院の仕方です。
整骨院での施術が症状の緩和に役立つことはありますが、後遺障害認定の場面では、医師のいる整形外科の診断と通院実績が重視されます。
整骨院のみに通院して整形外科への通院が途絶えてしまうと、後遺障害診断書を書いてもらえない、症状の経過を証明できない、といった致命的な不利につながりかねません。
整骨院に通う場合でも、必ず整形外科への定期的な通院を続け、事前に医師の了解を得ておくことをお勧めします。
むち打ちの副次的な症状に、頭痛・吐き気・めまい・耳鳴り・倦怠感などがあります。
特に頭痛は、首の痛みに次いでむち打ちの症状として現れやすく、人によっては慢性化することがあります。
交通事故以前は頭痛の症状を感じなかった人が、交通事故以降日常的に頭痛が生じると分かりやすいのです。
しかし、以前から頭痛持ちの人が交通事故を境に
『頭痛が激しくなった』、
『頭痛の頻度が上がった』、
『以前はキリキリとした痛みがこめかみにあったのに、今は頭全体が重く感じて痛い』
と、以前とは性質の違う頭痛が今までの頭痛と並行して現れることがあり、日常的に頭痛に悩まされるといったケースがあります。
むち打ちの痛みに加えて頭痛が加わるため、日常生活に支障が出るだけでなく、吐き気やめまい・倦怠感も同時に現れると、立ち上がる事すらできなくなるといったこともあります。

【用語解説】整形外科と整骨院の違い
整形外科は医師が診察する医療機関で、レントゲン・MRIなどの検査、投薬、診断書の作成ができる。
整骨院・接骨院は柔道整復師による施術を行う場所で、検査や診断書の作成はできない。
後遺障害認定に必要な後遺障害診断書を作成できるのは医師だけのため、通院の軸は整形外科に置く必要がある。

6.鎮痛剤は、あくまで対症療法

むち打ちで痛みが強い場合には鎮痛剤も処方されるため、頭痛に対しても一定の効果はあります。
しかし、鎮痛剤はあくまで一時的に痛みを軽減するものなので、頭痛の根源であるむち打ちによる首の異常を治療しない限り、痛みに悩まされ続けることになります。
また、鎮痛剤で痛みが抑えられているからといって通院をやめてしまうと、治療の必要性がなくなったと判断され、後の示談交渉や後遺障害認定で不利になることがあるため、症状がある限り通院は継続しましょう。
交通事故にあった直後は神経が興奮していて、興奮により分泌されたアドレナリンが脳の痛みの伝達をストップしていることが多いです。
そのため、事故から数日たって緊張がほぐれて、ほっと一息ついた時に痛みを感じるということがあります。
交通事故にあって病院に搬送された時には首のむち打ちしかわからなかったけれども、家に帰ってきてからあちらこちら痛い事に気が付いた、というのもよくあるケースです。
そのような時には、次回の通院を待たずに早めに受診し、担当医に痛みや異常が出た場所を伝え、診察・治療してもらいましょう。
症状を訴えるのが遅くなるほど、その症状と交通事故との因果関係を疑われやすくなるからです。
なお、事故直後に自覚症状がなく物損事故として届け出てしまった場合でも、後から症状が出た時には、警察に人身事故への切り替えを申し出ることができます。
人身事故として処理されていないと、実況見分調書などの証拠が作成されず、過失割合の争いで不利になることがあるため、早めに手続きをしておきましょう。

7.むち打ち症状の後遺障害認定について

交通事故でのむち打ちの後遺障害は、神経症状の有無が焦点になります。
むち打ちに対する後遺障害認定は、他の後遺症に比べて等級の幅が狭い傾向があります。

第12級(自賠責保険金額224万円)
・局部に頑固な神経症状を残すもの

第14級(自賠責保険金額75万円)
・局部に神経症状を残すもの

むち打ちの後遺症の多くは、『痛みがある』『首が動かない』といった神経症状ですが、認められにくい傾向があります。
実務上、第12級はMRI画像などの他覚所見と神経学的テストの結果が一致し、症状を医学的に証明できる場合に認められます。
第14級は、画像上の証明までは出来なくても、受傷状況・治療経過・症状の一貫性などから、症状の存在が医学的に説明可能な場合に認められます。
むち打ちで認定される多くは第14級であり、そのためには、事故直後からの受診、6か月程度の継続的な通院、一貫した症状の訴えが重要な判断材料になります。
交通事故直後はむち打ちと診断されていたものでも、レントゲンで頸椎がずれている箇所が認められた、MRIで頸髄に損傷箇所が見つかり不完全脊髄損傷である、といった医学的な診断証拠がある場合には、頸椎症や頸髄損傷といった、むち打ちとは違う病名で後遺障害認定がなされます。

【用語解説】他覚所見
患者本人の訴え(自覚症状)ではなく、画像検査や神経学的テストなど、第三者が客観的に確認できる異常のこと。
むち打ちの後遺障害認定において、第12級と第14級を分ける最大のポイントになる。

8.むち打ちの後遺障害については、保険会社は争うことが多い

むち打ち自体は頸部の捻挫であるため、捻挫だけであるのならば一定の期間で自然治癒するのが普通、とされています。
そのため、レントゲンやMRIなどの医学的な画像証拠がないと、ほとんどの場合で加害者側は反論してきます。
医学的な画像証拠がない、ということは、患者が痛みなどの症状を訴えているが医学的な証拠はないため、患者が嘘をついている可能性がある、と言えるからです。
本当に痛みがあり後遺症に悩まされている患者からすると腹立たしい事だとは思いますが、判例でも、被害者が普通に日常生活を送っているところを見ると後遺症があると認められない、被害者は加害者に対して思うところがあり、それにより痛みを過大に感じている、として、後遺症を認めない、もしくは後遺障害慰謝料の減額を命じたものもあります。
加害者側に保険会社が介入している場合には特に顕著で、後遺障害認定以前の治療期間の段階でも、「医師からの診断はむち打ちのみで、レントゲンなどでは異常がないと聞いています。交通事故から2か月も経ちましたので、治療費の支払いは今後しません。」と、治療費の打ち切りを言ってくることもしばしばあります。
ここで知っておきたいのは、治療を終える時期を決めるのは保険会社ではなく、医師だという事です。
保険会社から治療費打ち切りの打診があっても、医師が治療の継続を必要と判断しているのならば、その旨を保険会社に伝えて延長の交渉をすることができます。
仮に打ち切られてしまった場合でも、自身の健康保険に切り替えて通院を継続し、立て替えた治療費を後から加害者側へ請求するという方法があります。
痛みが残っているのに通院をやめてしまう事が、後遺障害認定において最も避けるべき選択です。
また、医師によっては、「レントゲンなどでは異常がないので、事故からしばらく経っていますし、むち打ちは治っているはずです。年齢的にも神経痛が出てもおかしくないので、今の首の痛みは加齢によるものでしょう。」と、医師自体が交通事故との因果関係を否定することもあります。
医師がそのような判断をくだす背景には、後遺障害認定の書類を作成するのが面倒、単なるむち打ちと診断しているのに患者が口を出してくるのが気に喰わない、医師と患者の意思疎通が出来ておらず医師が協力的ではない、患者が訴える症状がコロコロと変わり医師が患者を信用していない、など様々にあります。
しかし、医師が作成した後遺障害認定用の診断書がなければ、後遺障害認定の申し立てすらできないため、いかに医師と連携が取れるかがカギとなってきます。
日頃の診察で症状を具体的かつ一貫して伝え、医師との信頼関係を築いておくことが、そのまま後遺障害認定の準備になると心得ましょう。
むち打ちの症状単体での後遺障害認定は難しいので、さらに頭痛やめまい・倦怠感といった症状だけで後遺障害として認められるには、ハードルが高いといえます。

9.むち打ちで泣き寝入りしないためのポイント

最後に、むち打ちで正当な補償を受けるためのポイントを整理します。
第一に、事故当日か遅くとも数日以内に整形外科を受診し、自覚症状をすべて伝えることです。
第二に、症状がある限り、医師の指示に従って定期的な通院を継続することです。
第14級の認定においては、治療期間6か月程度の通院実績が、症状の一貫性を裏付ける重要な証拠になります。
第三に、通院の軸は整形外科に置き、整骨院を利用する場合は医師の了解を得ることです。
第四に、しびれなどの神経症状がある場合には、早期にMRI検査を受けておくことです。
第五に、保険会社からの治療費打ち切りの打診に安易に応じず、症状固定の判断は医師と相談して決めることです。
そして、早い段階で交通事故に詳しい弁護士に相談をしてアドバイスを受け、そのアドバイスに沿って医師に働きかける方が、格段に後遺障害認定が受けやすくなります。
後遺障害認定されるか否かで、後遺障害慰謝料が支払われるかどうかが変わってくるのですが、弁護士を通じて請求する場合には判例基準で請求するため、自賠責基準に比べると大幅に増額します。
自賠責基準だと慰謝料部分は第12級で94万円、第14級で32万円ですが、判例基準ですと第12級で290万円、第14級で110万円なので、差は3倍近くなります。
自動車保険に弁護士費用特約が付いていれば、多くの場合自己負担なしで弁護士に依頼できるため、まずは自身の保険契約を確認してみましょう。
むち打ちは、目に見えないからこそ軽く扱われがちな怪我です。
正しい知識と早めの行動で、症状にも補償にも、悔いを残さないようにしましょう。

【用語解説】弁護士費用特約
自動車保険などに付帯できる特約で、交通事故の示談交渉や訴訟を弁護士に依頼する際の費用を、一定額(一般的に300万円程度)まで保険会社が負担してくれるもの。
特約を使っても等級は下がらず保険料は上がらないのが一般的で、家族の保険に付いている特約を使えることもある。