肩痛の障害

交通事故によるけがの痛みとして、むち打ちや膝の痛みと並んで多いのが、肩の痛み(肩痛)です。
肩は日常生活のあらゆる動作に関わる部位であるうえ、検査で異常が見つかりにくいケースも多いため、後遺障害の認定をめぐって争いになりやすい部位でもあります。
この記事では、交通事故による肩痛の原因と症状、後遺障害等級の認定基準、そして適切な認定を受けるためのポイントについて解説します。
1.交通事故による肩の痛みには2つの種類がある
交通事故を起因とする肩痛は、大きく分けて2種類あります。
1つ目は、打撲や裂傷・骨折といった外傷が原因のものです。
2つ目は、神経に何らかの異常をきたしていることからくる痛みです。
どちらが原因かによって、治療方針も後遺障害認定の進め方も変わってくるため、まずはこの2つの違いを理解しておくことが大切です。
2.外傷による肩痛
外傷を起因とする肩痛の多くは、交通事故の衝撃による打撲です。
むち打ちも広義にとらえると、衝撃により筋肉組織が損傷したり関節がずれたりするものなので、打撲に似た症状と言えます。
肩は部位としては首元から肩関節までをさしますが、実際に肩を構成している筋肉は、後頭部から背中まで広く関係しています。
交通事故の被害者の中には、交通事故から肩が痛い、と訴えて肩を中心とした治療や検査を受けたもののよくならず、精密検査をしたところ首の筋肉が委縮しており、それに伴って肩の筋肉が引っ張られ、首ではなく肩に痛みが出ていた、というケースもあります。
肩の構造と、脱臼・骨折が多い理由
肩の骨に関係する肩痛としては、骨自体の骨折のほか、肩関節の腱の損傷、肩関節の脱臼、肩関節の変形などが挙げられます。
肩の骨は鎖骨・肩甲骨・上腕骨で構成されています。
人類は進化の過程で肩の可動域を広げてきたため、肩関節は動きやすい反面、骨だけでは安定感が悪く、周囲の筋肉や腱によって支えられている構造になっています。
動きやすいということは外れやすいということでもあり、肩の脱臼は他の部位の脱臼に比べて飛びぬけて多くなります。
脱臼だけであれば、整形外科で肩の骨をはめて安静にしておけば治癒しますが、脱臼の際に腱や骨が傷ついてしまう危険性があります。
筋肉組織についても骨についても、一過性の外傷であれば安静にすることで自然回復します。
しかし、腱(腱板)が断裂してしまった場合や、骨折により骨が変形してしまった場合、骨折した際の骨の破片が筋肉や腱などを圧迫している場合などは、手術が必要になることもあります。
腱板とは、肩甲骨と上腕骨をつなぎ、肩関節を安定させている4つの筋肉の腱の総称です。
交通事故の衝撃やハンドルを握ったままの受傷で断裂することがあり、腕が上がらない・夜間に痛みが強くなるといった症状が特徴です。
レントゲンには写らないため、MRI検査による確認が重要になります。
3.神経に起因する肩痛
神経を起因とする肩痛にも、いくつかの原因が考えられます。
神経自体が損傷しているケース
1つ目は、神経自体が損傷しているケースです。
交通事故の衝撃で神経の一部が損傷したり、車の部品や骨折した骨で神経が傷ついたりするケースです。
肩から腕にかけての感覚や運動をつかさどっているのは、首の骨から出て肩の内側を通る、腕神経叢と呼ばれる末梢神経の束です。
末梢神経は中枢神経(脳・脊髄)と異なり再生する能力を持っていますが、再生の速度は非常に遅く、損傷の程度によっては完全には回復しないこともあります。
そのため、単なる打撲による一時的な痛みだと思っていたのに、1か月たっても半年たっても痛みが引かず、医師からも異常なしと言われて困って相談に来られた依頼者が、精密検査を受けたところ神経の損傷部分が見つかった、ということもあります。
首の骨(頸椎)から出て、鎖骨の下を通り、肩・腕・手へと枝分かれしていく神経の束のことです。
交通事故で強く引き伸ばされると損傷することがあり、肩や腕の痛み・しびれ・脱力の原因になります。
神経伝達の異常によるケース
また、明らかな損傷個所がなくても、神経伝達に何らかの異常が生じて痛みが発生しているケースもあります。
神経痛と似た症状が起こるため、痛みのほかに、しびれ・筋肉の委縮・冷えを感じることがあります。
神経痛の原因は末梢神経の炎症と言われていますが、原因不明の痛みも神経痛と呼ばれることがあるため、交通事故による肩痛も、病院での診断名は神経痛とされることがあります。
4.肩痛の治療における注意点(自己流マッサージは厳禁)
交通事故で肩痛がある場合、湿布や鎮痛剤が処方されることが多いです。
そこでついやってしまいがちなのが、痛みのある部分を自分で揉むなどのマッサージです。
交通事故直後の受傷部分は炎症を起こしていることが多く、マッサージで血流が促進されると、炎症部位の腫れや内出血がかえって悪化し、逆効果となってしまいます。
また、炎症が治まってからマッサージをしたとしても、関節の変形や腱の断裂が原因である場合には、患部をさらに悪化させてしまう可能性があります。
肩こりの経験がある方であれば、思い当たる症状も多いのではないかと思います。
しかし、肩こりは、肩を動かさないことによる筋肉の硬直と、それに伴う血流量の低下により引き起こされるため、ストレッチやマッサージ・温熱治療(お風呂やカイロで温める等)で痛みが軽減できることが多いです。
一方、交通事故で引き起こされる肩痛は、打ち身や骨折などの外傷性を伴うため、ストレッチやマッサージ・温熱治療を行うと炎症が引き起こされて悪化することがあります。
お風呂に入った時に肩を揉めば楽になるかも、と肩こりの対処方法と同じように考えてしまうと、なかなか治らないということもありえます。
自己判断でマッサージをするのではなく、医師や理学療法士の指示のもとで運動療法(リハビリ)を行うようにしましょう。
なお、整骨院での施術を希望する場合には、必ず事前に主治医の了解を得ておくことをおすすめします。
医師の指示や了解のないまま整骨院に通うと、施術費用が損害として認められなかったり、通院慰謝料の算定で不利に扱われたりするおそれがあるためです。
5.日常生活への影響
交通事故で肩痛の症状が出ると、日常生活に様々な支障が生じます。
一口に肩痛と言っても、その程度は人により大きく異なります。
『常時激しい痛みがある』
『常時痛みがあるが、肩を動かすことはできる』
『常時痛みがあり、特定の方向に動かすとより強い痛みが出る』
『普段は痛みがないが、肩を動かそうとすると痛みが出る』
『痛みはないが、肩を動かせる範囲が交通事故以前よりも狭い』
といった具合です。
常時痛みがある場合、痛みのほかに、頭痛・首のコリ・めまい・吐き気・倦怠感などの副次的な症状が出ることが多いです。
ロキソニン等の鎮痛剤でもあまり痛みが軽減しない場合もあり、痛みがひどいときには簡単な日常動作もできなかったり、寝込んでしまったりすることもあります。
特に肩腱板損傷の場合、常に痛みがあるうえ、横になっている方が痛みが強くなる傾向があるため、身体を横にして休むことがしづらくなります。
肩痛は、体を動かした時に突然発生する
肩痛でよくあるのが、動かそうとした時や、一定の方向に動かそうとした時に痛みが出るというものです。
『棚の上の物を取ろうと腕をあげたら、肩に激しい痛みが出た』
『物を取ろうと腕を伸ばしたら、肩に鋭い痛みが走った』
『荷物を持とうとしたら想像以上に重くて、肩が痛くて持てなかった』
などです。
肩に痛みが出るかもしれないと知ってはいるものの、意識せずに取った行動で肩に痛みが走り、こうすると痛みが出るのにうっかりしていた、と日常生活で不意打ちのように起こります。
常に意識をして、肩に痛みが出る行動を控えるしかないのですが、行動を制限されたり、うっかり痛みの出る行動をしてしまったことに腹立たしくなったりと、日常生活に支障が出るだけでなく、精神衛生上も良くありません。
肩の可動域が狭くなることもある
また、痛みに伴って、肩の可動域が狭くなることがあります。
『腕をあげようとすると、耳のところまではあがるが、それ以上あげようとすると痛みが出る』
『右腕なら左肩をさわれるが、左腕は右肩まで上げられない』
といった形で、肩の動きが制限されます。
痛みが激しく肩がほとんど動かせない場合、肩を動かさずに肘から先だけの動きになるため、できる動作がかなり限られてしまいます。
さらに肘にも痛みがあると、腕全体を動かすことができないため、その腕を使うこと自体ができなくなります。
交通事故の肩痛は、日数の経過により自然治癒することが多いのですが、痛みが完全になくならなかったり、一般的な検査では異常が見つからないにもかかわらず痛みが一向にひかなかったりすることもあります。
その場合には、後遺障害としての認定が重要になります。
6.肩痛に関する後遺障害等級
交通事故での肩痛に関する後遺障害は、肩痛のみで認定される場合、神経症状の後遺障害となるため、等級が低くなる傾向があります。
肩の痛みのほかに、肩関節の変形や人工関節への置換など、身体部位に大きな後遺症がある場合には、上位の後遺障害等級で認定されるか、他の後遺症と合わせて上位の等級が認定される併合のいずれかとなります。
肩痛のみのものから、肩がまったく動かせないものまで症状の幅が広いため、後遺障害の等級も第1級から第14級まで幅広く定められています。
第1級(自賠責保険金額3000万円)
・両上肢の用を全廃したもの
第5級(自賠責保険金額1574万円)
・1上肢の用を全廃したもの
第6級(自賠責保険金額1296万円)
・1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの
第7級(自賠責保険金額1051万円)
・1上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの
第8級(自賠責保険金額819万円)
・1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの
・1上肢に偽関節を残すもの
第10級(自賠責保険金額461万円)
・1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
第12級(自賠責保険金額224万円)
・局部に頑固な神経症状を残すもの
・1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの
・長管骨に変形を残すもの
・鎖骨、肩甲骨等に著しい変形を残すもの
第14級(自賠責保険金額75万円)
・局部に神経症状を残すもの
なお、3大関節とは、肩関節・肘関節・手関節(手首)のことをさします。
また、肩関節を人工関節や人工骨頭に置き換えた場合は、可動域の制限の程度に応じて、原則として第10級または第8級が認定されます。
骨折した骨が正常にくっつかず、骨折部分が関節のように異常に動いてしまう状態のことです。
本来つながっているはずの骨が動いてしまうため、力が入らず、日常生活に大きな支障が生じます。
2つ以上の後遺障害が残った場合に、重い方の等級を1~3級繰り上げて認定する仕組みのことです。
例えば、肩の機能障害で第12級、別の部位で第12級が認定された場合、併合により第11級として扱われます。
7.後遺障害認定で争いになりやすいポイント
頑固な神経症状かどうかは、争われることがある
肩痛に関する障害のうち、『1上肢の用を全廃したもの』や『1上肢に偽関節を残すもの』のように、検査や手術などで明確になるものは、後遺障害の認定で争いになることが少なく、肩痛もその後遺症に含めて認定されることが多いです。
しかし、『局部に神経症状を残すもの』(第14級)と『局部に頑固な神経症状を残すもの』(第12級)とでは、頑固と判断される基準が微妙であることも多く、医師の診断書の内容が重要になります。
実務上は、MRI等の画像所見や神経学的検査の結果といった、他覚的所見(本人の訴えではなく客観的に確認できる異常)により痛みの原因が医学的に証明できる場合には第12級、証明まではできないものの症状の一貫性などから医学的に説明可能な場合には第14級、という形で区別されるのが一般的です。
言い換えると、痛みを裏付ける検査結果を残せているかどうかが、等級の分かれ目になります。
可動域制限の程度も問題になる
同様に、『1関節の機能に障害を残すもの』(第12級)と『1関節の機能に著しい障害を残すもの』(第10級)とでは、肩の可動域がどの程度狭くなったかが問題となります。
関節の機能障害は、けがをしていない側の肩と比較した可動域の角度で判断されます。
おおまかに言うと、可動域が健側の4分の3以下に制限されていれば機能障害(第12級)、2分の1以下に制限されていれば著しい機能障害(第10級)と評価されるのが原則です。
この可動域測定が不正確だと、本来認定されるべき等級よりも低い等級になってしまうことがあるため、測定方法を熟知した整形外科医のもとで測定してもらうことが重要です。
関節がどの範囲まで動くかを角度で測定する検査のことです。
自分の力で動かせる範囲(自動値)と、医師など他人の力を加えて動かせる範囲(他動値)があり、後遺障害認定では原則として他動値が用いられます。
加齢や生活習慣によるものと判断されることがある
もう1つの問題は、肩痛は加齢や生活習慣でも引き起こされやすいという点です。
腱板損傷などで受傷個所が明らかな場合には後遺障害認定がされやすいのですが、神経症状のみの場合には、加齢や生活習慣により、交通事故以前から肩痛があったと判断されることがあります。
特に中・高齢者の場合は、元から多少なりとも肩痛はあると裁判所も判断するため、交通事故以前は全く肩痛がなかった、と主張しても通りにくいことがあります。
また、交通事故により肩痛が悪化したと認められたとしても、交通事故以前の状態からの差分についてのみ、後遺障害認定がされることもあります。
8.適切な後遺障害認定を受けるために
認定申請には2つの方法がある
後遺障害の認定申請には、相手方の任意保険会社に手続きを任せる事前認定と、被害者自身が自賠責保険に直接請求する被害者請求の2つの方法があります。
事前認定は手間がかからない反面、どのような資料が提出されたかを被害者側で把握できないという弱点があります。
肩痛のように認定の分かれ目が微妙な症状では、MRI画像や可動域測定の結果など、有利な資料を確実に添付できる被害者請求の方が適していることが多いです。
交通事故の被害者が、加害者側の自賠責保険会社に対して、直接保険金の支払いを請求する手続きのことです。
後遺障害認定の申請資料を被害者側で選んで提出できるため、認定の見通しをコントロールしやすいというメリットがあります。
異議申立てのハードルは高い
後遺障害等級に納得ができない、と弁護士に相談に来られる方も多くいらっしゃいます。
後遺障害認定のための診断書を精査して、認定が順当なものであれば、その内容をご説明して納得していただくことになります。
しかし、後遺障害等級が低すぎる場合には、異議申立てを行うことになりますが、これにはいくつかの問題があります。
1つは、異議申立てをしたからといって、必ずしも等級が上がるとは限らないことです。
前回提出した内容と変わらなければ、等級が上がることはほぼありません。
そのため、前回提出した内容を精査したうえで、新たな検査結果や、より詳細な医師の意見書など、再認定につながる資料を追加して再提出する必要があります。
ただ、異議申立ての壁はかなり厚く、認定率は5%程度とも言われています。
初回の申請で適正な等級の認定を受けるのがベストですので、初めから弁護士のアドバイスを受けながら申請書類を準備する方が無難です。
等級によって賠償額は大きく変わる
後遺障害等級が1つ違うだけで、受け取れる賠償額は大きく変わります。
例えば肩の神経症状の場合、弁護士基準(裁判基準)による後遺障害慰謝料の目安は、第14級で110万円、第12級で290万円とされています。
さらに、後遺障害による減収の補償である逸失利益も、労働能力喪失率が第14級では5%、第12級では14%とされるため、両者を合わせると数百万円単位の差になることも珍しくありません。
肩の痛みが長引いてお困りの方や、後遺障害の認定結果に疑問をお持ちの方は、できるだけ早い段階で、交通事故に詳しい弁護士にご相談ください。
