腰痛の後遺障害について

1.交通事故による腰痛とは
交通事故の外傷による痛みで、むち打ちや膝痛と並んでよくあるのが、腰痛です。
腰は上半身の全体重を受け止める、いわば身体の要です。
そのため、交通事故の衝撃はシートベルトで固定された腰回りに集中しやすく、追突事故や衝突事故の後に腰の痛みを訴える被害者は非常に多いのです。
交通事故を起因とする腰痛は、大きく分けて2種類あります。
1つ目は、打撲や骨折といった外傷性が原因のものです。
2つ目は、神経に何らかの異常をきたしていることからくる痛みです。
外傷性のものとしては、腰部への直接的な打撲のほか、腰椎の骨折、背骨の歪み、腰椎の間でクッションの役割をしている椎間板の損傷などがあります。
特に骨がもろくなっている高齢者の場合、それほど大きな衝撃でなくても、腰椎の圧迫骨折を起こすことがあるため注意が必要です。
神経性のものとしては、損傷した椎間板や骨のかけらが神経を圧迫しているケースや、神経自体が傷ついているケース、損傷箇所が見当たらないのに神経伝達の異常で痛みが続くケースなどがあります。
単なる打撲であれば、安静にしていれば自然回復することがほとんどです。
しかし、交通事故による腰痛の原因は多岐にわたるため、検査で原因究明をしなければ、正しい治療ができなくなります。
2週間から1か月ほど様子を見ても痛みが引かない場合には、レントゲンだけでなく、MRIなどの精密検査を受けることが重要です。
椎間板や神経の異常はレントゲンには写らないため、MRI検査を受けて初めて原因が判明することも珍しくないからです。
背骨の骨と骨の間でクッションの役割をしている椎間板が、外部からの衝撃や加齢により変形し、中身が飛び出して神経を圧迫するもの。
腰の痛みだけでなく、足のしびれや脱力を引き起こすことがある。
レントゲンには写らず、MRI検査で確認される。
2.日常生活への影響
交通事故で腰部に痛みがある場合、程度に差があるとはいえ、日常生活に支障が出ます。
交通事故による腰痛と一言で言っても、
『寝ることも出来ないくらいの激しい痛みがある』、
『起き上がる事も出来ないくらいに痛い』、
『立つと痛い』、
『座ると痛い』、
『慢性的に腰が重だるい』
など、人によって腰痛の痛さや、痛さを感じるシチュエーションは様々です。
腰痛の場合、動くと痛みが激しくなることが多いため、寝る、もしくは座るという姿勢が中心となります。
しかし、トイレに行くのに立つなどといった日常の動作に対しても痛みが発生するため、大きなストレスになります。
腰痛が激しい場合には、立つことすらできないため、排尿や排便なども介助が必要になったり、痛みのあまり眠れず、睡眠不足となったりする事も多々あります。
歩ける程度の腰痛であっても、痛みに不快感を覚えますし、痛みのあまり、走るどころか歩くのすらゆっくりでないと無理になったり、杖や車いすがないと移動できないといった方もいます。
日常生活で、移動する、ということを腰痛により封じられると、いかに多くの支障が出るかは想像に難くないと思います。
単に移動できないだけでなく、腰の痛みが伴うため、精神的・肉体的両方に苦痛を受けることになります。
デスクワークの方は座り続けることが、立ち仕事の方は立ち続けることが、運送業の方は荷物の上げ下ろしが、それぞれ苦痛になるため、腰痛は職種を問わず仕事に直結する障害と言えます。
3.痛みをかばう姿勢が、新たな腰痛を生む
腰の痛みをかばうため、猫背になったり、痛くない方に腰を曲げた姿勢になりやすくなったりしますが、これは姿勢を崩す原因になります。
猫背や姿勢を崩すことで一時的に痛みを軽減できるかもしれませんが、その体勢でいる事が普通になってしまうと、腰痛が治った後も、姿勢は崩れたままになってしまいます。
崩れた姿勢は腰痛や内臓疾患を起こしやすく、『腰痛がひどいので猫背になっていたが、今度は猫背のせいで腰痛がひどくなった』と、本末転倒な事が起こりえます。
また、腰をかばった歩き方を続けることで、膝や股関節など別の部位に負担がかかり、痛みが連鎖していくこともあります。
痛みが強い時期に無理に姿勢を正す必要はありませんが、回復期にはリハビリの専門家の指導を受けて、正しい姿勢と体の使い方を取り戻していくことが大切です。
4.腰痛の治療と、痛みと心の関係
腰痛の治療方法は主に対症療法で、『鎮痛剤を飲む』、『湿布を貼る』といった、症状を軽減するための治療です。
もちろん、骨折や背骨の異常など、原因がはっきりとしているものであれば、『骨折部分にプレートを入れる』、『椎間板ヘルニアになっているので手術をする』、『背骨が曲がっているので牽引する』といった、根本的な治療が行われます。
しかし、原因がはっきりとはしなかったり、上記の治療後にも続く腰痛の場合には、対症療法を続けつつ、自然治癒を待つしかないということになります。
その際に、徐々に回復が実感できるのならばよいのですが、なかなか治らない、反対に悪化しているという場合には、精神的にもよくなく、うつ病を発症するケースもあります。
痛みの場合、『馴化』と言われる、繰り返し与えられる刺激に馴れてしまい、刺激に対して鈍感になる、ということがほとんどです。
そのため、医学的には自然回復していなくとも、身体の方が痛みに馴れてしまうということが往々にしてあります。
しかし、痛みの大きさは、精神的なものに左右されることがあります。
例えば、自分で指先を切ったら我慢できるが、他人に指先を切られたら我慢できない、もしくは、怪我をさせられたのが自分の好きな人ならば我慢できる、といったケースもあります。
交通事故の場合、見知らぬ第三者からいきなり傷つけられたのと等しいため、加害者憎し、の気持ちが先行してしまい、通常ならばさほど気にならない痛みでも、過大に痛みを感じるといったこともあります。
裁判所も、原告が訴える痛みは被告に対する心情により過大に感じたもの、として、後遺障害を退ける判決を出したものもあります。
だからこそ、痛みの訴えは感情的にならず、いつ・どんな動作で・どの程度痛むのかを具体的かつ一貫して医師に伝え、記録に残してもらうことが、治療のためにも後の認定のためにも重要になります。
同じ刺激を繰り返し受けることで、その刺激に慣れて反応が鈍くなること。
痛みに馴れること自体は生活上は助けになるが、診察時に症状を軽く伝えてしまい、実際より軽い後遺障害等級で認定される一因にもなり得るため注意が必要。
5.腰痛に関する後遺障害認定について
腰痛による交通事故での後遺障害は、大きく分けて、腰椎の障害、脊髄の障害、腰の痛みに関する障害、の3つになります。
腰痛に関係する後遺障害認定の要件だけで見ると、後遺障害等級の幅は狭くなります。
第11級(自賠責保険金額331万円)
・脊柱に変形を残すもの
第12級(自賠責保険金額224万円)
・局部に頑固な神経症状を残すもの
第14級(自賠責保険金額75万円)
・局部に神経症状を残すもの
補足すると、脊柱の障害には、この他にも上位の等級があります。
腰椎の圧迫骨折などで背骨の変形が大きい場合には、脊柱に中程度の変形を残すものとして第8級、著しい変形や著しい運動障害を残すものとして第6級が認定されることもあります。
つまり、レントゲンやCTで圧迫骨折の痕が確認できるかどうかで、認定される等級の天井が大きく変わってくるのです。
また、痛みなどの神経症状については、第12級は画像所見などの他覚的所見により症状を医学的に証明できる場合、第14級は証明までは出来なくても症状の存在が医学的に説明可能な場合、と実務上区別されています。
交通事故による腰痛で後遺障害認定を受けたい場合には、医学的な証拠が重要となってきます。
骨折などで背骨が変形したり、椎間板に損傷があるため腰痛があるといった場合には、レントゲンやCT・MRIといった画像検査を診断書とともに提出できるため、後遺障害認定を受けられる可能性が高まります。
しかし、画像検査の証拠がない場合には、患者の訴えを聞いて医師が判断をする、ということに留まるため、後遺障害認定は認められづらいと言わざるを得ません。
ただ、絶対に認められないというものではなく、事故直後からの通院実績や症状の一貫性など、客観的な証拠を積み上げることにより、後遺障害認定が受けられることもあるため、後遺障害認定の手続き前に弁護士に相談をするのがベストです。
背骨が上下方向の力でつぶれるように折れる骨折のこと。
骨がもろくなった高齢者では、交通事故の比較的軽い衝撃でも起こることがある。
骨折の痕が画像で確認できれば、脊柱の変形として第11級以上の認定につながる可能性があるため、腰痛が続く場合は必ず画像検査を受けておきたい。
6.中高年の腰痛は「事故前からでは?」と争われやすい
腰痛だけで後遺障害認定を受けるのは、年齢によってはかなり難しくなります。
10代以下の若年の患者であれば、すでに腰痛であるということは少ないため、後遺症と認められやすいです。
しかし、腰痛は加齢により大なり小なり現れる症状であるため、交通事故で腰痛になった、と訴えても、中高年以上であれば、交通事故以前から腰痛であったのではないか、と相手側から反論されるからです。
実際、MRIを撮ると、痛みの無い健康な中高年でも、椎間板の変性やヘルニアが見つかることは珍しくありません。
そのため、画像に異常が写っていても、それは事故ではなく加齢によるものだ、と争われることがあるのです。
さらに、事故前からの椎間板の変性などが痛みに影響していると判断された場合には、素因減額といって、賠償額が一定割合減額されることもあります。
これに対抗するには、事故前には通院歴も自覚症状も無かったこと、事故直後から一貫して腰痛を訴えていることを、記録で示すことが有効です。
事故後すぐの受診と、初診時にすべての症状を伝えることが、ここでも重要になってきます。
被害者が事故前から持っていた身体的・精神的な要因が、損害の発生や拡大に影響したと認められる場合に、賠償額を減額する考え方。
加齢による椎間板の変性などが典型例で、減額の割合はケースにより異なり、しばしば示談交渉や裁判の争点になる。
7.他の後遺障害がある場合の「併合」のルール
腰痛のほかに、『脊髄損傷で足が麻痺して動かない』、『腕の腱が切れて腕が動かせない』といった、後遺障害に該当する障害があった場合は、より重い方に揃えられるか、それぞれの障害の等級を合わせて考えて、より重い等級に認定する併合がなされます。
例えば、交通事故で介護第2級相当の内臓疾患を負い、第12級相当の腰痛があった場合、重い方の介護第2級で認定される確率が高いです。
また、第8級相当の脊柱に運動障害を残すものと、第12級相当の腰痛があった場合、重い方の第8級ではなく、併合されて第7級で認定される可能性もあります。
併合に関してはルールがあり、
『第5級以上の後遺障害が2つ以上ある場合、より重い方の等級を3級繰り上げる』、
『第8級以上の後遺障害が2つ以上ある場合、より重い方の等級を2級繰り上げる』、
『第13級以上の後遺障害が2つ以上ある場合、より重い方の等級を1級繰り上げる』
というルールがあります。
さらには、
『併合により後遺障害等級の序列を乱す場合』、
『組み合わせの等級があらかじめ定められている場合』、
『症状的に派生関係になる場合』
は、併合されずに、重い方の後遺障害等級で認定されます。
そのため、一見すると、後遺障害等級が第7級と第12級相当の後遺症があるから認定は第6級になる、と思っていて、それぞれの後遺障害等級が第7級と第12級で認定されたにもかかわらず、併合されずに第7級で認定ということもありえます。
派生関係の典型例は、腰椎の圧迫骨折とそこから生じる腰の痛みのように、一方の障害から他方の症状が生じている場合で、この場合は二つの症状をまとめて一つの等級で評価されます。
後遺障害認定も複雑であるのに、さらに難解な併合が加わると、一般の方からすると後遺障害等級の予測が困難となるため、弁護士に相談して事前に目星をつけておく方が良いでしょう。
8.腰痛の後遺障害で適正な補償を受けるためのポイント
最後に、腰痛の後遺障害で適正な補償を受けるためのポイントを整理します。
第一に、事故後は軽い腰の違和感でも初診時に必ず伝え、カルテに記録を残すことです。
中高年の場合は特に、事故直後からの一貫した訴えが、加齢によるものだという反論への最大の対抗手段になります。
第二に、痛みが長引く場合には、レントゲンだけで済ませず、MRIなどの精密検査を受けることです。
圧迫骨折や椎間板の損傷が確認できれば、認定される等級が大きく変わる可能性があります。
第三に、症状がある限り、自己判断で通院をやめず、定期的な通院を続けることです。
第四に、他の部位にも後遺障害がある場合には、併合のルールを踏まえた等級の見通しを、申請前に弁護士に相談して立てておくことです。
そして、後遺障害認定されるか否かで、後遺障害慰謝料が支払われるかどうかが変わってくるのですが、弁護士を通じて請求する場合には判例基準で請求するため、自賠責基準に比べると大幅に増額します。
自賠責基準だと慰謝料部分は第11級で135万円、第12級で94万円、第14級で32万円ですが、判例基準ですと第11級で420万円、第12級で290万円、第14級で110万円なので、差は3倍近くなります。
自動車保険に弁護士費用特約が付いていれば、多くの場合自己負担なしで弁護士に依頼できます。
腰痛は、ありふれた症状だからこそ、事故との因果関係を疑われやすい障害です。
早めの検査と記録の積み重ねで、正当な補償をきちんと受け取りましょう。
