交通事故とPTSD、その補償は?

2026.05.12

阪神淡路大震災のころから、PTSDは正式な病名として知られるようになりました。

そして最近では、交通事故が原因でPTSDを発症する例も認められるようになっています。

高松で起きる交通事故も例外ではありません。


PTSDとはどんな病気か

PTSDは「心的外傷後ストレス障害(しんてきがいしょうごストレスしょうがい)」の略称です。

突然のフラッシュバックで、事故のときの状況をくり返し体験してしまいます。

フラッシュバックとは、過去のつらい出来事が、まるで今おきているかのように頭の中で再現される現象のことです。

それがもとで、不安や動悸(どうき)、過呼吸などの症状が起きます。

動悸とは、心臓がドキドキと強く速く打つことです。

重度になると自殺願望(じさつがんぼう)をともなう場合もあり、とても危険です。

自殺願望とは、自分の命を絶ちたいと考えてしまう状態のことです。

やっかいなのは、かなり時間がたってからでも、何かのきっかけで突然事故のことが頭によみがえる点です。


慰謝料は請求できるのか

この症状について、交通事故の損害賠償として慰謝料を請求できるのでしょうか。

過去には、交通事故との因果関係(いんがかんけい)が認められないとして、裁判でも慰謝料が認められないことが多くありました。

因果関係とは、「Aが原因でBが起きた」というつながりのことです。

しかし最近は、PTSDの認知度が高まりました。

平成10年の横浜地裁、平成11年の大阪地裁などで、PTSDを認める判決が出されたことも追い風になっています。

今ではかなり認められるようになってきました。

ただし、損害保険会社との交渉のなかでPTSDを認めてもらえることは、ほとんどありません。

ですから、裁判で請求していくしかないのが現状です。

PTSDかどうかの認定は、WHOのICD-10基準や、米国精神医学会の診断マニュアル(DSM-Ⅳ)などにもとづいて判断されます。

WHOとは、世界保健機関のことです。

誰もが発症するわけではなく、事故後の心のケアによって程度も変わります。

なかには、実際に事故を目撃していないのにPTSDと認められた特殊な判例もあります。


「心因性」「素因」と言われたら要注意

事故のあと、保険会社の担当者からこんな言葉をかけられることがあります。

「これは心因性の症状ですね」

「もともとの素因があったのでは?」

「もうしばらく経過観察しましょう」

やさしい言葉に聞こえますが、これらは賠償の場面で大きな意味を持ちます。

「心因性(しんいんせい)」とは、体のケガではなく、心の問題が原因で起きる症状という意味です。

つまり「事故のせいではなく、あなたの気持ちの問題」という方向にもっていく言葉です。

「素因(そいん)」とは、もともとその人が持っていた体質や性格のことを指します。

「もともと不安になりやすい人だった」と言われれば、慰謝料を減らす理由として使われます。

これを「素因減額(そいんげんがく)」と呼びます。

素因減額とは、被害者側にもともとあった要因を理由に、賠償金を割り引く考え方です。

「経過観察(けいかかんさつ)」は一見ふつうの医療用語ですが、診断を先送りにする言葉でもあります。

診断名が決まらないと、保険会社は支払いを保留しやすくなります。

これらの言葉は、交渉の場では「払う金額を減らす方向」に働く用語なのです。

過去には、診断書に「心因性」と書かれていても、弁護士が事故前のカルテや生活記録を集めて因果関係を証明し、減額をくつがえした例もあります。

最初に書かれた言葉が、すべてではありません。


診断書のICD-10コードを読み解く

精神科の診断書には、アルファベットと数字の組み合わせが書かれていることがあります。

これが「ICD-10コード」です。

ICD-10とは、WHOが決めた病気の国際的な分類番号です。

「PTSD」と書かれているかどうかだけでなく、このコードを見ることが大切です。

なぜなら、コードによって賠償実務での扱いがまったく違うからです。

F43.0 急性ストレス反応

事故の直後、数日〜数週間で出る一時的な反応です。

軽症あつかいになりやすく、慰謝料も低めに見積もられがちです。

F43.1 心的外傷後ストレス障害(PTSD)

これが、いわゆるPTSDの正式コードです。

フラッシュバック、回避、過覚醒(かかくせい)などの基準を満たしたときにつきます。

過覚醒とは、つねに神経が張りつめて警戒している状態のことです。

このコードがつくと、後遺障害(こういしょうがい)の認定でも有利になりやすいです。

後遺障害とは、治療が終わっても残ってしまう症状のことです。

F43.2 適応障害

環境の変化にうまく対応できない状態です。

PTSDより軽くみられがちで、示談金(じだんきん)が下がる傾向があります。

示談金とは、裁判をせずに当事者どうしで話し合って決めるお金のことです。

F32 うつ病エピソード

事故をきっかけにうつ症状が出たときのコードです。

PTSDとは別の枠で評価されます。

自賠責保険(じばいせきほけん)の後遺障害認定では、これらの精神症状は「非器質性精神障害(ひきしつせいせいしんしょうがい)」として扱われます。

非器質性とは、脳に直接の傷がない精神症状という意味です。

自賠責保険とは、車を持つ人が必ず入る国の保険です。

同じ「精神症状」でも、診断書のコードがF43.1かF43.2かで、示談金が数百万円単位で変わった事案もあります。

診断書を受け取ったら、病名の文字だけでなく、コードまで必ず確認してください。

自分の症状と書かれているコードがずれていると感じたら、弁護士や別の医師に相談しましょう。


証拠になる症状日記の書き方

「症状日記をつけましょう」と、よく言われます。

でも、ただ書けばよいわけではありません。

書き方しだいで、裁判での証拠としての力が大きく変わります。

おすすめは、4つの項目を毎回そろえることです。

1. 日時

「○月○日 午後3時ごろ」と具体的に書きます。

2. 誘因(ゆういん)

誘因とは、その症状が出るきっかけになった出来事のことです。

「車のブレーキ音を聞いた」「事故現場の近くを通った」など、できるだけくわしく書きます。

3. 症状

「心臓がドキドキした」「息ができなくなった」「事故の映像が頭にうかんだ」など、自分の感じたことを正直に書きます。

4. 第三者の目撃

第三者とは、自分以外の人のことです。

「夫が震えているのを見ていた」「先生が保健室に運んでくれた」など、ほかの人が見ていた事実を残します。

この4つがそろうと、日記はただの感想文ではなく、証拠としての価値が出てきます。

民事裁判では、本人が書いた書面も証拠になります。

民事裁判とは、お金や権利をめぐる人と人との争いを解決する裁判のことです。

ただし、医療記録(病院のカルテ)と内容がズレていると信用されにくくなります。

ですから、診察のときに日記をもとに医師へ伝えるとよいでしょう。

逆に、日記を毎日まじめに書いていても、症状の内容が抽象的(ちゅうしょうてき)だと、決め手にならなかった事案もあります。

抽象的とは、ばくぜんとしていて具体的でない様子のことです。

「つらかった」だけでは弱く、「○○を見て震えが30分続いた」のように具体的であることが大切です。


主婦・学生・自営業の休業損害は見落とされやすい

休業損害(きゅうぎょうそんがい)とは、事故のせいで働けなくなって減った収入のことです。

会社員なら給与明細で計算しやすいのですが、主婦・学生・自営業の人は見落とされがちです。

主婦の場合

家事ができなくなったことも、立派な損害です。

「主婦休損(しゅふきゅうそん)」と呼ばれ、賃金センサスという国の統計をもとに金額を計算します。

賃金センサスとは、職業ごとの平均賃金をまとめた政府の資料です。

PTSDで台所に立てない、外出できないなどがあれば、ここから損害として積み上げられます。

学生の場合

学生は給料がないので「ゼロ」とされがちですが、それは違います。

精神症状で学校に通えなくなり、留年・進路変更・進学先のランクダウンが起きれば、将来の収入に影響します。

これを「逸失利益(いっしつりえき)」と呼びます。

逸失利益とは、事故がなければ将来得られたはずの収入のことです。

自営業の場合

自営業者は売上の波があるので、「証明しにくい」と保険会社に言われがちです。

でも、確定申告書、帳簿、取引先からの発注減のメールなどを集めることで、事業活動の低下を示せます。

これらの被害者は「働いていない」ように見えるだけで、ちゃんと損害は発生しています。

弁護士に相談すれば、「ゼロ」と言われた損害を積み上げ直した事案も多くあります。


高松で事故に遭われた方へ

高松の交通事故においても、PTSDを含む十分な心のケアが必要です。

そして、精神症状の補償は、言葉ひとつ・書類ひとつで結果が大きく変わる分野です。

担当者の何気ない一言が、賠償額を左右することもあります。

診断書のコード、日記の書き方、見落とされがちな損害項目。

どれも一人で対応するには負担が大きいものです。

ひとりで保険会社と向き合わず、早めに専門家へ相談することをおすすめします。

被害者に役立つ情報

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