一人親方が交通事故で後遺障害12級に。『確定申告が少ないから』と言われら、どうすればいいか?

この記事は、こんな方に向けて書いています
・大工、左官、鳶、電気、配管、塗装などの一人親方の方
・交通事故のけがで、後遺障害12級と認められた方、または認められそうな方
・保険会社から、確定申告の金額をもとに賠償金を提示され、納得できずにいる方
・そのご家族の方
※車の修理代だけの事故や、どちらが悪いか(過失割合)だけでもめている事故は、この記事の対象ではありません。

一人親方として、自分の体ひとつで仕事をしてきた方が、交通事故で大きなけがをしたとします。

けがは治療を続けても完全には治らず、痛みや動かしにくさが残りました。

このように、治療を続けても残ってしまった症状のことを、後遺障害(こういしょうがい)といいます。

後遺障害には、重いほうから1級から14級までの等級(とうきゅう)があります。

12級は、その中で、比較的よく認められる等級のひとつです。

【用語解説】後遺障害12級
治療を続けても残ってしまった症状のうち、法律で決められた基準にあてはまるものを後遺障害といいます。
12級は、たとえば、骨折のあとに痛みが残った場合や、肩やひざが元どおりに動かなくなった場合などに認められる等級です。

一人親方の方が12級になると、生活への影響はとても大きくなります。

会社員と違って、休んでいる間の給料を払ってくれる人はいません。

受けていた現場を途中で投げ出せば、次から声がかからなくなるかもしれません。

ところが、保険会社から示される賠償金は、確定申告の金額だけをもとに計算されていることが少なくありません。

申告した所得が少なければ、賠償金も少なくなる、という考え方です。

けれども、確定申告の金額だけで、一人親方の本当の働きぶりや、けがによって失ったものを測れるとは限りません。

この記事では、一人親方の方が裁判で賠償金を求めるときに、何を、どのように証明していけばよいのかを、順を追って説明します。

目次

1.一人親方の賠償金は、3つの数字で決まる

まず、賠償金のしくみを、ごく簡単に説明します。

後遺障害が残った場合の賠償金の中で、いちばん大きな割合を占めることが多いのが、逸失利益(いっしつりえき)です。

逸失利益とは、後遺障害のせいで将来かせげなくなったお金のことです。

【用語解説】逸失利益(いっしつりえき)
事故にあわなければ将来かせげたはずなのに、後遺障害のせいでかせげなくなったお金のことです。
後遺障害の賠償金の中で、最も大きな金額になることが多い項目です。

逸失利益は、大まかにいうと、次の3つの数字を掛け合わせて計算します。

  • 1つ目は、事故の前に1年間でどれくらいかせいでいたか、という金額です。
  • 2つ目は、後遺障害のせいで、働く力が何パーセント減ったか、という割合です。
  • 3つ目は、その減った状態が何年続くか、という年数です。

1つ目の金額のことを、基礎収入(きそしゅうにゅう)といいます。

賠償金を計算するときの土台になる、1年分の収入という意味です。

2つ目の割合のことを、労働能力喪失率(ろうどうのうりょくそうしつりつ)といいます。

むずかしい言葉ですが、働く力がどれだけ失われたか、という割合のことです。

12級の場合、この割合は、原則として14パーセントとされています。

3つ目の年数のことを、労働能力喪失期間(ろうどうのうりょくそうしつきかん)といいます。

働く力が減った状態が何年続くか、という意味です。

なお、実際の計算では、この年数に応じた特別な数字(係数)を使います。

将来の分のお金を、前もってまとめて受け取ることになるので、その分を調整するためです。

この記事では、細かい計算よりも、この3つの数字をどうやって証明していくか、という点に重点を置いて説明します。

裁判では、自分の言い分を、証拠を出して裁判官に認めてもらう必要があります。

このことを、法律の世界では立証(りっしょう)といいます。

一人親方の場合、この3つの数字の立証に、会社員とは違った難しさがあるのです。

2.会社員の12級と、何が違うのか

一人親方は、法律の上では、会社に雇われている人(労働者)ではありません。

自分で仕事を受けて、自分で稼いでいる個人事業主です。

この違いが、賠償金を求めるあらゆる場面に関わってきます。

会社員であれば、会社が出す源泉徴収票を見れば、事故の前の収入がすぐにわかります。

源泉徴収票とは、1年間に会社から受け取った給料の額が書かれた書類のことです。

休んだ日数も、会社が書く休業損害証明書という書類で示せます。

一人親方には、このように第三者が書いてくれる証明書がありません。

収入は、自分で作った確定申告書で示すしかありません。

休んだことや、仕事ができなくなったことも、自分で説明するしかありません。

現場ごとに集まる働き方と、記録の残り方

四国や岡山で私たちが扱う事故では、一人親方の方がとても多いという印象があります。

現場がひとつ立ち上がるたびに、知り合いのつながりで、こういう仕事があるけどやらないか、と声がかかります。

そうして一人親方が何人も集まり、その現場ごとに仕事が組まれる、という働き方が珍しくありません。

決まった一つの会社のもとで働き続けるというより、現場ごとに相手が変わる働き方です。

このような働き方では、仕事の記録が一か所にまとまっていないことがよくあります。

どの現場で、だれから、どんな作業を受けていたのかを、事故のあとで本人が整理し直さなければならないことも多いのです。

賠償金を求める準備は、まずここから始まります。

3.「確定申告の所得が低いから、賠償金も低い」と言われたら

ここからは、1つ目の数字である基礎収入(賠償金の計算の土台になる1年分の収入)について説明します。

一人親方の場合、基礎収入は、原則として事故の前の年の確定申告の所得をもとに決められます。

確定申告書は、基礎収入を証明するための出発点です。

ただし、あくまで出発点であって、それですべてが決まるわけではありません。

事故の前の年だけ、たまたま収入が少なかった場合

保険会社は、事故の前の年の申告所得を、そのまま基礎収入にしようとします。

しかし、その年に限って、事故とは関係のない理由で収入が落ちていることがあります。

たとえば、次のような場合です。

  • 病気やけがで、しばらく仕事を休んでいた年。
  • いつも仕事をもらっていた取引先から、急に契約を打ち切られた年。

このような特別な事情があったことをきちんと示せれば、前の年の数字をそのまま使うことに対して、十分に反論できます。

実際によく使う方法は、主に2つあります。

1つ目は、前の年を含めた3年から5年くらいの所得を平均して、その平均を基礎収入にする方法です。

2つ目は、前の年だけが極端に少ない場合に、その年を例外として外し、残りの年の平均を基礎収入にする方法です。

どちらを選ぶかは、収入がどう動いてきたかによって決めます。

何年かにわたって少しずつ上がったり下がったりしているなら、平均をとる方法が合っています。

1年だけがぽつんと極端に少ないなら、その年を外す方法が合っています。

申告が赤字だった年があっても、それが突然の思いがけない事情によるものであれば、同じ考え方で反論できます。

特別な事情は、何で証明するのか

特別な事情があったことは、証拠で示す必要があります。

病気やけがで休んでいた場合は、病院の診断書や、診療報酬明細書が役に立ちます。

診療報酬明細書とは、病院がどんな治療をしたかを記録した明細のことで、レセプトとも呼ばれます。

取引先から契約を打ち切られた場合は、その経緯がわかる書面や、やり取りの記録が証拠になります。

若い一人親方の場合は、平均賃金を使う方法もある

独立したばかりの若い一人親方の方は、過去の確定申告の記録がほとんどありません。

そのような場合は、賃金センサスという統計の平均賃金を、基礎収入として主張する方法が有効です。

賃金センサスとは、国が毎年まとめている、年齢や性別ごとの平均的な給料のデータのことです。

若い方の場合、将来どれくらいかせげたかを示すデータがほかにないので、平均賃金を使うしかない、という面もあります。

一方で、40代や50代の方になると、平均賃金だけを根拠にした主張は、認められにくくなります。

その年代では、すでに本人が働いてきた実績があるからです。

その場合は、過去数年分の申告所得の平均をもとに、基礎収入を考えることが多くなります。

4.応援の職人や外注に払ったお金は、請求できるのか

事故のあと、自分で作業ができなくなった分を、ほかの職人に頼むことがあります。

応援の職人を呼んだり、仕事を外注に出したりする場合です。

外注とは、自分が受けた仕事を、ほかの業者や職人にお金を払ってやってもらうことです。

このとき払ったお金は、事故による損害として請求できる可能性が十分にあります。

ポイントは、事故のせいで払うことになったと言えるかどうか

ここで問題になるのは、そのお金が本当に事故のせいで必要になったのか、という点です。

法律の言葉では、これを因果関係(いんがかんけい)といいます。

原因と結果のつながり、という意味です。

いちばん主張しやすいのは、事故の前には外注を一度も使っていなかったのに、事故のあとにだけ外注のお金が発生した、という場合です。

一人親方は、自分がけがをすれば、作業ができません。

すでに受けていた仕事を、ほかの人に回すしかなかった、という説明は、自然に受け入れられやすいのです。

反対に、主張が難しくなるのは、事故の前から外注を使っていた場合です。

保険会社からは、事故の前から外注していたのだから、事故で初めてかかったお金ではない、と言われます。

この場合は、事故のあとに外注のお金が大きく増えたことを、数字で示していくことになります。

どんな書類を用意すればよいか

基本となる書類は、外注先から受け取った請求書です。

ただ、現場の実情として、書類がきちんとそろっていないことも少なくありません。

その場合は、本人が説明する内容を、陳述書(ちんじゅつしょ)という形にまとめるだけでも、一定の証拠になります。

陳述書とは、本人が自分の経験したことを、自分の言葉で書いて署名した書面のことです。

休んだ分のお金と外注のお金は、二重取りではない

外注のお金を請求すると、保険会社から、休業損害との二重取りではないか、と言われることがあります。

休業損害とは、けがの治療のために仕事を休んで、その間にかせげなかったお金のことです。

しかし、休業損害と外注のお金は、同じ損害の表と裏の関係にあります。

けがで仕事を休んだだけなら、その損害は、休業損害として表に出てきます。

一方で、すでに受けた仕事を立場上どうしても断れず、でもけがで自分では作業ができない、ということがあります。

その場合は、しかたなく外注に出すことになり、損害は外注のお金として表に出てきます。

休みたくても休めない、という状況は、一人親方の世界では実際によくあることです。

つまり、同じ損害が、休業という形で出てくるか、外注という形で出てくるかの違いにすぎません。

同じ期間の同じ仕事について、両方を重ねて請求しているのでなければ、二重取りにはあたりません。

5.「どれだけ働けなくなったか」を、どう証明するか

ここからは、2つ目の数字である労働能力喪失率(働く力がどれだけ失われたかの割合)について説明します。

一人親方の12級で多いのは、次の2つのタイプです。

  • 神経症状(しんけいしょうじょう)が残ったタイプです。
  • 関節の可動域制限(かどういきせいげん)が残ったタイプです。

神経症状とは、じっとしていても痛みやしびれが残る状態のことです。

12級の中では、12級13号という番号で呼ばれます。

可動域制限とは、肩やひじ、ひざなどの関節が、けがの前のようには曲がらなくなった状態のことです。

12級の中では、12級7号などの番号で呼ばれます。

私たちの実務の感覚では、この2つのタイプは、だいたい同じくらいの数があります。

痛みと、動かしにくさは、つながっている

神経症状と可動域制限は、等級の表の上では、別々の障害として扱われています。

しかし、人間の体はロボットではありません。

関節が動かしにくいという症状の多くは、ある角度を超えて動かすと痛みが強くなるので、それ以上は動かせない、という形であらわれます。

もともとある痛みが、ある時は神経症状として、ある時は動かしにくさとして出ている、と考えることができるのです。

この考え方は、仕事への影響を説明するときに役に立ちます。

痛くて動かせない、という事実は、そのまま、この作業ができない、という説明につながるからです。

神経症状の場合は、どんな仕事でも影響を説明しやすい

痛みが残っていると、どんな仕事にも影響が出ます。

作業がはかどらない、集中できない、危ない作業に踏み切れない、といった形です。

たとえば、高いところでの作業を想像してみてください。

いつ痛みが走るかわからない体で、足場の上で集中し続けるのは、とても大きな負担です。

神経症状は、仕事の種類を問わず、仕事への影響を説明しやすいといえます。

証明の中心になるのは、本人の陳述書(本人が自分の言葉で書いた書面)と、仕事の中身の詳しい説明です。

どんな現場で、どんな作業をしてきたのかを、具体的に書き出していきます。

仕事の中身については、保険会社が、陳述書に書かれたことを正面から否定するのは簡単ではありません。

そのため、仕事の中身の説明は、陳述書でも十分に役割を果たします。

動かしにくさの場合は、けがの場所と仕事を結びつける

関節の動かしにくさの場合は、それが仕事のどの作業に、どう影響するのかを、具体的に示す必要があります。

けがが残った体の場所と、本人の仕事の中身とが、きちんと結びついていなければなりません。

たとえば、手をたくさん使う電気工事の一人親方で、動かしにくさが足に残った場合を考えてみます。

保険会社からは、手は普通に使えるのだから、仕事への影響は小さい、と言われることが予想されます。

ただ、足の動かしにくさは、実は仕事への影響を説明しやすい障害です。

歩きにくくなったり、転びやすくなったり、特に階段を上りにくくなったりするからです。

歩くことは、毎日の生活でも、仕事でも、欠かせない動作です。

移動にほかの人より時間がかかるようになれば、それだけで働く力が下がったことを説明できます。

腕の動かしにくさも、特に利き腕であれば、仕事への影響を説明しやすくなります。

手は、ほとんどすべての作業に必要だからです。

ネットの記事や動画で、作業の中身を見せる方法

仕事の中身を客観的に示す方法として、私たちが実際に使っているのが、インターネット上の記事や動画です。

鳶の仕事とはどんな仕事なのか、高いところで電線の点検をする仕事とはどんな仕事なのか。

そうした仕事の説明は、第三者が書いた記事で示すことができます。

第三者が作ったYouTubeの動画を証拠として出し、この仕事は実際にこういう作業です、と見せることもあります。

特に大切なのは、両手を頭より高く上げる作業があるかどうかです。

建設の現場でも、設備の点検の仕事でも、肩が上がりにくくなると、両手を上げる作業は難しくなります。

この作業には手を上に上げる必要がある。

肩のけがで両手が上がらない。

だから、この作業はできなくなった。

このような順番で、筋道を立てて説明していきます。

6.何歳まで働けたはずか——67歳で区切られるとは限らない

ここからは、3つ目の数字である労働能力喪失期間(働く力が減った状態が何年続くか)について説明します。

逸失利益の金額は、何年分が認められるかによって大きく変わります。

一般的には、症状固定のときから67歳までが、ひとつの目安とされています。

【用語解説】症状固定(しょうじょうこてい)
治療を続けても、これ以上は良くも悪くもならない状態になったことをいいます。
後遺障害の等級は、この症状固定の時点で残っている症状をもとに決められます。

一人親方には、定年がない

一人親方には、会社員のような定年がありません。

体が動くうちは働き続ける、というのが職人の世界の実情です。

建設の現場では、70歳を過ぎても働いている職人の方は珍しくありません。

そのため、私たちは、67歳を超える期間を主張することを、ごく普通に行っています。

年齢が高い方の場合は、平均余命の2分の1という考え方を使うことができます。

平均余命とは、その年齢の人が、統計上あと何年くらい生きるかという平均の年数のことです。

67歳までの年数と、平均余命の半分の年数とを比べて、長いほうを使うという考え方です。

若い方でも、70歳や75歳まで働けるはず

最近は、若い方の場合でも、少なくとも70歳から75歳までは働けたはずだ、という主張をしています。

その根拠のひとつが、高年齢者雇用安定法という法律です。

正式には、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律といいます。

2021年4月から、この法律が改正されて、会社には70歳まで働く機会を確保するよう努める義務が設けられました。

つまり、国の政策は、すでに70歳を超えても働くことを前提に動いているのです。

いまでもそうなのですから、10年後や20年後には、70歳の人が現場で働いていることは、もっと当たり前になっているはずです。

あわせて、実際に高い年齢になっても働いている人が多いことを示す統計も、主張の裏づけになります。

国がまとめた令和8年版の高齢社会白書によると、2025年に仕事をしている人の割合は、65歳から69歳で54.5パーセント、70歳から74歳で36.2パーセントでした。

つまり、65歳から69歳の人の半分以上が、いまも働いているということです。

70歳から74歳でも、3人に1人以上が働いています。

建設業では、この傾向がさらにはっきりしています。

2025年に国土交通省が示した資料では、建設業で働く人のうち、55歳以上の人が36.7パーセントを占めています。

これに対して、29歳以下の人は11.7パーセントにとどまります。

建設の現場は、年齢を重ねた職人の方々によって支えられているのです。

いちばん大切なのは、これまでどう働いてきたか

長い期間を認めてもらうために、いちばん大切なのは、本人がこれまでどのように働いてきたかという実績です。

ある程度の年齢になっても、変わらず現場に出続けてきた、という実績を示せれば、これからも高い年齢まで働けたはずだ、という主張に説得力が出ます。

本人の健康状態も大切です。

事故の前から持病で長く仕事を休んでいたような場合は、長く働けたはずだという主張がしにくくなります。

「12級なら10年まで」という考え方に、そのまま乗らない

保険会社からは、12級なら働く力が減るのは10年くらいまでだ、と言われることがあります。

しかし、12級だからというだけで、一律に10年で区切らなければならない理由はありません。

画像に何も写らないむち打ちの場合は、ふつうは12級ではなく、14級として扱われます。

12級と認められているということは、多くの場合、レントゲンやMRIなどの画像で確認できる体の変化がある、ということです。

このように、画像などで確認できる体の変化による障害のことを、器質的(きしつてき)な障害といいます。

特に、骨が変形したことが原因で関節が動かしにくくなっている場合は、期間を区切る理由はむしろありません。

曲がってしまった骨が、何もしないで元に戻ることはないからです。

画像で確認できる原因がある12級であれば、20年くらい、67歳まで、あるいはそれ以上の期間を主張することが十分にできます。

もちろん、何もしなくても当然に認められるわけではありません。

それを支える証拠を、一つひとつ積み上げていく必要があります。

7.どんな証拠を集めればよいのか

一人親方の場合、事故の前にどんな仕事をしていたのかを示すことが、すべての土台になります。

使う証拠は、大きく3つに分けられます。

証拠の種類 何を示せるか どんな役割か
本人の陳述書 事故の前にしていた作業、事故のあとにできなくなった作業 中心になる証拠です。
仕事の中身の説明は、これでも十分に役割を果たします。
発注書・請求書などの取引の書類 仕事の件数や売上の変化、外注のお金 客観的な証拠です。
取引先に頼まなくても、手元の書類で示せます。
現場の写真・ネットの記事・動画 作業の具体的な様子、体の使い方 陳述書の内容を、目に見える形で補う証拠です。

取引先に証言を頼むのは、無理をしなくてよい

元請や取引先に、本人の仕事ぶりを書いた陳述書を書いてもらう、という方法もあります。

元請とは、施主から工事を直接受けて、一人親方などに仕事を回す会社のことです。

ただ、実際にこれを頼むことは、それほど多くありません。

取引先にとっては手間のかかるお願いなので、協力してもらえないことがあります。

被害者の方にとっても、今後の仕事の付き合いを考えると、取引先に面倒なことを頼みにくい、という事情があります。

現場ごとに声をかけてもらう働き方であれば、なおさらです。

取引先との関係で示したいことの多くは、発注書や請求書といった書類で証明できます。

取引先の方と親しく、協力してもらえる場合に限って、陳述書までお願いする、という考え方で十分です。

写真は、仕事の中身を伝える補強として使う

事故の前の現場の写真は、本人がどんな作業をしていたのかを示す資料として使うことがあります。

高いところで作業している姿や、重い資材を運んでいる姿の写真は、陳述書に書いた内容を具体的に裏づけてくれます。

ただ、写真がなければ証明できない、というものではありません。

事故の前の仕事の中身は、陳述書でも認められることが多いからです。

8.事故がきっかけで廃業してしまった場合

後遺障害のために、一人親方として仕事を続けられなくなり、廃業する方もいます。

数としては多くありませんが、その場合の考え方も整理しておきます。

まず、廃業したからといって、それだけで、働く力が100パーセント失われたことになるわけではありません。

12級の後遺障害で、まったく働けなくなったとまでは評価されにくいからです。

次に、廃業したこと自体を証明することにも、難しさがあります。

税務署に廃業届を出していても、そのあとでまた開業することはできます。

書類を一枚出しただけで、裁判所が、この人は確かに廃業した、と受け止めてくれるとは限りません。

廃業届は、廃業したことを示すひとつの資料にすぎず、それだけで賠償金が増えるわけではありません。

一方で、事故がきっかけで一度は廃業に追い込まれた、という事実は、本人がどれだけつらい思いをしたかを示すものです。

そのため、私たちは、これを後遺障害慰謝料を増やす理由として主張することがあります。

後遺障害慰謝料とは、後遺障害が残ったことによる心の苦しみに対して支払われるお金のことです。

9.裁判で、保険会社がよく言ってくること

一人親方の12級の裁判では、保険会社の反論には、ある程度決まった型があります。

主なものと、それに対する考え方を、表にまとめます。

保険会社がよく言うこと 被害者側の考え方
確定申告の所得が低いから、賠償金も低い 前の年に特別な事情があれば、数年分の平均や、その年を除いた平均を使うよう求めます。
若い方であれば、平均賃金を使うよう求めます。
事故のあとも売上が減っていない 売上が入るのが数か月遅れることや、本人が無理をして売上を保っていることを説明します。
外注のお金は、休業損害との二重取りだ 同じ損害が、休業の形か外注の形かで出てきただけで、重ねて請求していないことを示します。
働く力は14パーセントも減っていない けがの場所と仕事の中身を結びつけて、どの作業がどう難しくなったかを具体的に示します。
働く力が減るのは10年くらいまでだ 画像で確認できる原因があることを示し、期間を区切る理由がないことを主張します。
そもそも12級ではない 治療の記録全体を見て、症状がずっと続いていることを示します。

「売上が減っていない」と言われたとき

この反論は、一人親方の場合に特によく出てきます。

実際に、事故の前とあとで売上を比べても、目立って減っていないということは、珍しくありません。

理由のひとつは、お金が入ってくる時期のずれです。

事故の前に受けていた仕事は、実際に売上として入ってくるまでに、何か月かかかることがあります。

そのため、けがをした直後には、売上がすぐには下がらないのです。

もうひとつの理由は、本人の無理です。

仕事を投げ出せば信用をなくしてしまう。

収入が途絶えたら、生活ができなくなる。

そう考えて、痛みをこらえて働き続ける一人親方の方は、少なくありません。

その頑張りによって、売上が保たれているということが、実際によくあるのです。

けれども、将来の逸失利益(将来かせげなくなったお金)は、いまの売上が一時的に保たれているかどうかで決まるものではありません。

後遺障害が認められている以上、働く力は、ある程度は失われています。

裁判所も、障害がはっきりしていれば、事故の直後に売上が落ちていなくても、将来の逸失利益を認めることが多いと考えられます。

私たちが扱った事故でも、12級の割合である14パーセントくらいの減少は、認められることが多くありました。

ただし、事故から症状固定(これ以上良くも悪くもならない状態)までの休業損害は、話が別です。

実際には休んでおらず、売上も減っていない期間については、休業損害は認められにくくなります。

将来のお金の話と、過去に休んだ分のお金の話とでは、売上が減っていないことの意味が違うのです。

「そもそも12級ではない」と言われたとき

保険会社は、12級という等級そのものを争ってくることもあります。

たとえば、関節が動かしにくくなったケースです。

症状固定のときに医師が書いた後遺障害診断書には、関節の動く角度が、基準にあてはまる数字で書かれているとします。

後遺障害診断書とは、残った症状について医師がまとめた、等級を決めるための診断書のことです。

保険会社は、治療中のカルテ(医師が治療の内容を書いた記録)を取り寄せて、治療の途中ではもっと関節が動いていたではないか、と言ってくるのです。

このような反論に対しては、治療の記録全体をていねいに読み込んで、症状がどう移り変わってきたのかを、筋の通った形で説明できるかどうかが問われます。

等級そのものを争われる可能性は、裁判を考える段階から、頭に入れておく必要があります。

10.まとめ——一人親方の方が、事故の直後から残しておきたい記録

一人親方の12級では、基礎収入(賠償金の計算の土台になる1年分の収入)と、働く力がどれだけ失われたかを、分けて証明していきます。

基礎収入は、確定申告書を出発点にして、収入の移り変わりや特別な事情を示します。

働く力の低下は、けがの場所と仕事の中身を結びつけて、何ができなくなったのかを具体的に示します。

働く力が減った状態が何年続くかについては、67歳で区切る理由はありません。

これまでの働きぶりと、画像で確認できるけがの原因が、主張の支えになります。

こうした証拠の材料は、事故の直後から少しずつ失われていきます。

次のような記録は、できるだけ早い段階から、手元に残しておくことをおすすめします。

  • 事故の前3年から5年分の確定申告書の控え。
  • 事故の前とあとの、発注書、請求書、見積書などの取引の書類。
  • 事故のあとに応援の職人や外注を頼んだときの、請求書などの記録。
  • 事故の前の、現場で作業している様子がわかる写真。
  • 事故の前とあとで、どの作業ができなくなったか、どの作業に時間がかかるようになったかを書いたメモ。
  • 事故の前に病気やけがで休んだ時期がある場合の、診断書などの資料。

なお、会社に雇われて現場で働いている方の12級は、証明の進め方が大きく違います。

その違いについては、雇われて働く建設作業員の方の12級を扱う、別の記事で詳しく説明します。

また、一人親方の方の労災保険の特別加入と、交通事故の賠償との関係についても、別の記事で取り上げる予定です。

賠償金を求めるための証明は、一つひとつ積み上げていく、地道な作業です。

一度、専門家の視点を入れてみませんか。

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