物流と観光の競合…国道11号の危険性

1. この記事で分かること

前回の記事では、東かがわ市の国道11号と、そこで起きる事故についてお話ししました。
今回は、その記事で触れられなかった、もう一つの交通の流れについてお伝えします。
東かがわ市の交通には、二つの性格があります。
一つは、トラックや生活の車が行き交う、忙しい流れです。
もう一つは、週末に観光やレジャーで訪れる人たちの、ゆるやかな流れです。
この記事を読むと、次のことが分かります。
なぜ大坂峠には、大型トラックが入ってこないのか。
道の駅「くるくる なると」の開業が、この街の交通をどう変えたのか。
そして、遠くから来た慣れない運転手が関わる事故には、どんな注意が必要なのか。
私たちは、香川県高松市を拠点に、交通事故の被害者の側に立って活動してきました。
地元に暮らす方の目線で、この街の道の本当の姿をお伝えします。

2. 大坂峠は、なぜ静かなのか

国道11号のすぐ南に、大坂峠という峠道があります。
正式には、主要地方道徳島引田線、つまり県道1号と呼ばれる道です。
東かがわ市と、徳島県の板野町をつないでいます。
この峠は、昔は讃岐と阿波を行き来する、大切な道でした。
ところが今では、車の通る音がほとんど聞こえないほど、静かな道になっています。
蝉の声しか聞こえない、とまで言われるほどです。
なぜ、これほど静かなのでしょうか。
理由は、この道に大型トラックが入ってこられない仕組みにあります。
峠の入り口には、徳島県側から、大型トレーラーの通行を禁止する大きな看板が立っています。
具体的には、車の前と後ろの車軸のあいだの長さが、八メートルを超える車は通れません。

【用語解説】最遠軸距(さいえんじくきょ)
車の一番前の車軸と、一番後ろの車軸との間の距離のことです。
この距離が長い車ほど、車体も長く、急なカーブを曲がりきれません。
大坂峠では、この距離が八メートルを超える車は、法律で通行が禁止されています。

ふつうの十トンクラスの長距離トラックは、この長さを超えています。
ですから、大坂峠には物理的にも、法律のうえでも入ることができません。
仮に小さめのトラックが通れたとしても、速度は時速三十キロメートルに制限されています。
急な坂と、続くカーブの連続する、典型的な山道だからです。
これでは、荷物を運ぶ道としての価値は、ほとんどありません。
だからこそ大坂峠は、忙しい物流の流れから切り離され、静けさを保っているのです。

3. 静かな道だからこその、別の危険があります

大坂峠が静かであることは、安全である、という意味ではありません。
むしろ、静かな峠道には、忙しい国道とは別の危険がひそんでいます。
この峠には、標高およそ二百十メートルの場所に、大坂峠展望台があります。
ここからは、鳴門海峡や播磨灘、淡路島までを見渡すことができます。
その景色を目当てに、週末になると、神戸や大阪のナンバーの乗用車がやってきます。
ツーリングを楽しむ、バイクの姿も多く見られます。
ここで気をつけたいのは、これらの運転手の多くが、この道に不慣れだということです。
地元の人なら、どこにカーブがあり、どこで見通しが悪くなるかを、体で覚えています。
しかし、初めて訪れた運転手には、その感覚がありません。
景色に気を取られて、ハンドル操作が遅れることもあります。
さらに、この峠ではガードレールが錆びて、草に覆われ、見えなくなっている区間があります。
道のふちが、どこまでなのか分かりにくいのです。
バイクは、車体が不安定で、転びやすい乗り物です。
慣れない山道のカーブで、スピードを出しすぎれば、ひとりで転倒する事故も起こり得ます。
静かな道は、つい気がゆるみます。
しかし、その気のゆるみこそが、事故のもとになることを、覚えておいてください。

4. 道の駅の開業が、街の流れを変えました

東かがわ市の交通を語るうえで、見逃せない変化があります。
二〇二二年、令和四年の四月に、国道11号沿いに大きな道の駅が開業しました。
くるくる なると、という名前の道の駅です。
場所は、東かがわ市の東隣にあたる、徳島県の鳴門市です。
この道の駅ができたことで、週末の交通の流れが大きく変わりました。
本州や京阪神、そして徳島南部からのアクセスが、とても良くなったのです。
その結果、週末には神戸、姫路、なにわ、大阪といったナンバーの車が、大量にこの地域へ流れ込むようになりました。
そして、道の駅に立ち寄った観光客の多くは、その後どこへ向かうのでしょうか。
彼らは国道11号を西へ進み、東かがわ市の引田エリアなどへ入ってきます。
つまり、道の駅は終着点ではなく、回遊の出発点になっているのです。

5. ASAトライアングルという、県境を越えたつながり

こうした観光の流れの背景には、地域どうしのつながりがあります。
播磨灘をはさんで隣り合う三つの地域が、古くから手を結んできました。
徳島県の鳴門市、香川県の東かがわ市、そして兵庫県の南あわじ市です。
この三つは、阿波、讃岐、淡路の頭文字をとって、ASAトライアングルと呼ばれています。
一九九〇年、平成二年度に、交流を深めるための協議会がつくられました。
県の境を越えて、絵画のコンクールや、海岸の清掃などに取り組んできました。
このつながりが、人の往来を生み、観光の流れをつくっています。

【用語解説】広域回遊(こういきかいゆう)
一つの目的地だけを訪れて帰るのではなく、いくつもの場所を巡りながら旅をする動き方のことです。
東かがわ市の周辺では、観光客が県の境を越えて、複数の街を行き来する流れが生まれています。
そのぶん、慣れない道を走る車が増える、ということでもあります。

引田の古い町並みは、この街の大切な魅力です。
そこを訪れる人が増えるのは、喜ばしいことです。
ただ、その一方で、地元の暮らしの道に、慣れない車が入り込む機会も増えています。
特に週末の昼間は、観光の車と、地元の車が混ざり合います。
このことを、心の片隅に置いておくだけでも、運転の備えになります。

6. 山を越える、もう一つの道

東かがわ市から徳島の内陸へ向かう道は、国道11号だけではありません。
国道318号という、山を越える道もあります。
東かがわ市の白鳥から、徳島県の吉野川市へとつながっています。
この道には、鵜の田尾トンネルという、長さ千七百メートルを超えるトンネルがあります。
阿波地方と讃岐地方を、最短で結ぶ役割を担っています。
平日の交通量は、白鳥のあたりで一日およそ七千台です。
国道11号ほどではありませんが、決して少なくない数の車が通ります。
このような山越えの道では、トンネルの出入り口に注意が必要です。
明るい外から暗いトンネルへ入ると、一瞬、目が見えにくくなります。
逆に、暗いトンネルから明るい外へ出るときも、まぶしさで視界が奪われます。
この目の慣れの遅れが、事故につながることがあります。
トンネルに入る前と出た後は、少し速度をゆるめる。
その小さな心がけが、身を守ります。
なお、東かがわ市と徳島県の上板町を結ぶはずの県道2号という道もあります。
しかし、この道は県境の付近で、約三キロメートルにわたって途切れています。
つまり、つながっていない道なのです。
地図の上では道に見えても、実際には通り抜けられない。
そうした道があることも、知っておくとよいでしょう。

7. 慣れない運転手による事故と、被害者の立場

ここからは、被害者の立場に立ったお話をします。
これまで見てきたように、東かがわ市の道には、遠くから来た慣れない運転手が増えています。
観光やレジャーで訪れた人は、地元の人が当たり前に知っている危険を、知りません。
どこで道が狭くなるのか。
どこで子どもが飛び出しやすいのか。
そうした土地の感覚を持たないまま、運転しています。
このため、地元の人が予想しない動き方をすることがあります。
急に止まったり、道を間違えて急に曲がったりするのです。
もし、こうした県外の車にぶつけられたら、どうなるでしょうか。
相手は遠くに住んでいるため、その後のやり取りは、相手の保険会社が中心になります。
そして、保険会社は、過去の似た事故をもとにした、標準的な割合を当てはめてきます。

【用語解説】過失割合(かしつわりあい)
事故が起きた責任を、当事者それぞれにどれくらい割り当てるかを、数字で示したものです。
たとえば七対三なら、相手に七割、自分に三割の責任があるという意味です。
この割合によって、受け取れる賠償の金額が大きく変わります。

しかし、標準的な割合が、いつもその場所の実態に合っているとは限りません。
たとえば、観光の車が突然おかしな動きをしたために起きた事故。
慣れない運転手が、見通しを誤ったことが原因の事故。
こうした事情は、標準の数字には、なかなか反映されません。
被害者が、相手の言うとおりに受け入れてしまうと、本来受け取れたはずのものを、受け取れなくなることがあります。
バイクの事故では、もう一つ注意すべき点があります。
バイクは体がむき出しのため、けがが重くなりやすい乗り物です。
被害が大きいぶん、賠償をめぐる話し合いも、複雑になりがちです。
だからこそ、おかしいと感じたときは、早い段階で確かめることが大切です。

8. この街の二つの流れと、共に生きるために

最後に、東かがわ市で暮らす皆さんへお伝えします。
この街には、二つの交通の流れがあります。
一つは、トラックが行き交う、忙しい流れです。
もう一つは、週末に観光客が訪れる、ゆるやかな流れです。
この二つは、性格がまったく異なります。
だからこそ、それぞれにふさわしい注意の仕方があります。
国道11号では、大型車との速度の違いに気をつけてください。
大坂峠のような観光地では、慣れない運転手やバイクの存在を、心に留めてください。
週末の昼間は、地元の車と観光の車が混ざり合う、と知っておいてください。
この棲み分けを理解することが、安全への第一歩になります。

【用語解説】棲み分け(すみわけ)
性格の異なる車の流れを、できるだけ同じ場所、同じ時間で交わらせないようにする考え方です。
トラックはトラックの道へ、観光の車は観光の道へ。
こうして流れを分けることが、事故を減らすうえで大切になります。

引田の町並みも、大坂峠からの眺めも、この街が誇る宝です。
その宝を、安心して楽しめる場所であり続けるために。
一人ひとりの小さな注意が、大きな力になります。
それでも、事故は完全には防ぎきれないことがあります。
もし事故にあい、相手の保険会社とのやり取りに不安を感じたなら。
特に、相手が遠くから来た車であったり、過失割合に納得がいかなかったりするときは。
その不安を、一人で抱え込まないでください。
私たちは、香川県高松市を拠点に、交通事故の被害者の側に立ってきました。
東かがわ市の道のことを、その地形や交通の流れまで含めて、現場の感覚とともに考えてきました。
この記事が、あなたとあなたの大切な人の、安全のための一助となれば幸いです。
そして、もし力が必要になったときには、頼れる場所がある、ということを覚えておいてください。

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