宇多津町の交通事故多発地点。津の郷交差点と鍋谷西交差点
1. 宇多津町の二つの交差点が、なぜ気がかりなのか
香川県内で交通事故のご相談を多く扱う弁護士として、日々、地図と現場の双方を見比べる時間が長くなりました。
そのなかでも、宇多津町を東西に貫く国道11号には、ほんの数百メートルの区間に、二つの気がかりな交差点が連続しています。
津の郷交差点と、鍋谷西交差点です。
この二地点は、国土交通省が公表する事故危険区間リストにも連続して掲載されており、地域の交通インフラのなかでも、構造的に事故が起こりやすい条件をいくつも抱えていることが分かっています。
香川県全体に目を向ければ、令和6年の統計で、人口10万人あたりの交通事故発生件数は全国ワースト6位、人口あたりの死者数も全国ワースト11位という、看過しがたい数字が並びます。
この記事は、特定の運転者や歩行者を責めるためのものではありません。
事故は、誰一人として望んでいない出来事です。
ただ、場所そのものに事故を呼び込みやすい特徴があるならば、そこを通る私たち一人ひとりが、その特徴を知ったうえで、ほんの少し慎重に振る舞うことで、被害を確実に減らすことができます。
ここでは、歩行者・自転車・バイクという、いわゆる交通弱者の視点から、この二つの交差点の読み解き方を、できるだけ平易にお伝えしたいと思います。
2. 二つの交差点で起きていることの輪郭
香川県の令和6年の交通死亡事故では、亡くなった方31人のうち10人が歩行中の方であり、状態別の構成比で第一位を占めています。
さらに、その歩行中の犠牲者10人のうち、7人が、横断中に命を落とされています。
横断歩道という、本来は歩行者が最も守られているはずの場所が、現実には車両との空間の取り合いが起きやすい地点になっている――これは私たちが直視すべき事実です。
交差点に絞った別の調査では、信号のある交差点の死亡事故のうち、47.1%が高齢者を主たる原因として発生しています。
被害者側に目を移すと、亡くなった方の61.3%が65歳以上の高齢の方々であり、75歳以上の方も12人含まれていました。
加齢に伴う認知や視覚の変化は、誰にも等しく訪れます。
つまりこれは個人の問題というより、社会全体で受け止め、道路の設計や通行の作法でカバーしていくべき課題だと感じます。
3. なぜ、この場所は事故を呼び込みやすいのか
ここからは、二つの交差点が抱える場所そのものの特徴を、ゆっくり順に見ていきます。
3-1. 道路が広く、車のスピードが乗りやすい
国道11号は、香川県を東西に結ぶ最重要の幹線道路であり、近年、複数の区間で4車線化やバイパス整備が進められてきました。
その結果、渋滞は確実に緩和されています。
ただ、道路が広く、まっすぐで見通しが利くようになるほど、車両の実際の走行速度は、自然と上がりやすくなります。
これは交通工学では実勢速度と呼ばれる考え方です。
道路標識の制限速度ではなく、実際にその道路を走る車の多くが、無理なく出している速度のこと。道路が広く直線的で見通しが良いほど、運転者は安全に感じてしまい、知らないうちに速度が上がる傾向があります。
スピードが乗った車両が広い交差点に進入すると、横断歩行者や自転車が車道上に身を置く時間は、相対的に長くなります。
なぜなら、交差点そのものの幅が大きいためです。
万一の発見の遅れや、急な右折車との出会いがあったとき、車が停止できる距離は、初速の二乗に比例して伸びていきます。
これが、広い直線道路の終端にある大きな交差点が、構造的に厳しい条件を持つ理由です。
3-2. 性格の違う車の流れが、ここで合流する
津の郷交差点のすぐ北側には、四国水族館のオープンに合わせて、香川県で初めてのラウンドアバウト(環状交差点)が整備されました。
信号機を使わず、円形の道路を時計回りの一方通行で通行する交差点の形式。進入時に速度が落ちるため、重大事故が起こりにくいとされる一方、慣れない運転者は判断に迷いやすいという特徴もあります。
ラウンドアバウト自体は、進入速度を物理的に抑える優れた仕組みです。
ただ、ここから流れ出た車は、信号待ちを挟まず、連続的にゆっくりと津の郷交差点へ入ってきます。
一方で、国道11号の東西方向からは、信号の青で開放された車列が、まとまった速度で直進してきます。
つまり、性質の異なる二つの流れ――水族館側からのゆるやかで連続的な流れと、幹線道路側の高速で断続的な流れ――が、この一点でぶつかり合うことになります。
しかも、観光地が近いため、土地に不慣れなレンタカーや他県ナンバーの車も多く混じります。
これが、交差点の中の動きを読みづらくしている、もう一つの理由です。
3-3. 見えそうで見えない、物理的な死角の罠
広い交差点では、運転者からの視界が、思いがけない形で遮られます。
右左折の際、自分が動き、相手も動いていると、歩行者や自転車が、運転席のフロントガラスを支える柱の陰に、ずっと隠れ続けてしまう瞬間が発生します。
これは互いの速度のバランスによって起きる、いわば動く死角です。
また、対向車線で右折待ちをしている大型車があれば、その奥を直進してくる二輪車や車は、まったく見えなくなります。
さらに、複数車線がある横断歩道では、第二の脅威と呼ばれる構造的な視界遮断が知られています。
複数車線のある横断歩道で、手前の車線の車が歩行者に気づいて停止しても、その車自体が壁となり、隣の車線を走ってくる車から歩行者が見えない状態を指します。歩行者が停止車両の陰から出た瞬間に、減速していない隣車線の車と衝突する典型的な事故パターンです。
津の郷交差点・鍋谷西交差点はいずれも複数車線を抱えており、この構造的な落とし穴は、現実の脅威として存在しています。
4. 運転者が、見ていたのに見えなかった理由
事故の事後の聞き取りで、運転者の方が、たしかにそちらを見たつもりだった、と話されることは、決して珍しくありません。
これは嘘や言い逃れではなく、人間の視覚と注意のしくみが、物理的にそうなりやすいことが分かっています。
交通量の多い大きな交差点では、運転者の頭の中で、対向直進車との衝突回避、信号機の確認、ラウンドアバウト側からの予期せぬ流入の監視、といった多くの作業が同時に走ります。
人間の脳の処理能力には限界があり、容量を超えると、もっとも致命的に感じる脅威――たとえば大型車――に意識が集中し、歩行者や自転車が網膜には映っていても意識に上らない、という現象が起こります。
これを非注意性盲目と呼びます。
目には映っているのに、意識がそちらに向いていないために、その物体が無かったかのように処理されてしまう現象。情報の多い場面で、人間の脳が処理を絞り込むときに起こります。誰にでも起こりうる、ごく普通の認知の特性です。
加齢に伴う変化も、無視できない要素です。
人は年齢を重ねると、まっすぐ前を見る力は保たれても、周囲の動くものを瞬時にとらえる力――有効視野――が、ゆっくりと狭くなっていきます。
加えて、人間が左右を見渡すとき、眼球は実は滑らかには動かず、一点から別の点へ瞬間的に飛ぶように動きます。
このわずかな間、脳は映像のブレを抑えるために、視覚の入力を一時的に遮断しています。
運悪く、自転車がその瞬間に視界に入ると、運転者にとっては、最初からそこにいなかったのと同じ状態になります。
このように、相手は決して怠慢ではなく、人間として正常に運転していてもなお、私たちを見落とすことがある――この事実を、まず受け止めておきたいのです。
5. 場所の弱さを、自分の動きで補うために
ここまで読まれて、注意して通る、では足りないのではないか、と感じられた方もいらっしゃるかもしれません。
その感覚は、まさに正しいと思います。
ここからは、精神論ではなく、身体の置き方と動きで、場所の弱さを物理的に補うための具体的な工夫を四つお伝えします。
5-1. ドライバーの両目を、自分の目で確かめる
横断歩道を渡るとき、右左折車が近づいてきたら、迷わず歩み(あるいはペダリング)を止め、運転席のフロントガラス越しに、相手の両目がしっかり見える位置まで、自分の頭を動かしてください。
ドライバーの目が見えないということは、相手からもこちらが見えていない、という可能性が高いということです。
目が合い、車のフロントが沈み込んで(つまりブレーキが効いて)、タイヤが完全に止まったのを確かめてから、ようやく一歩を踏み出します。
5-2. 多車線の横断は、二段階で渡る意識をもつ
片側2車線以上の横断歩道では、手前の車線の車が停まってくれても、そのまま渡り切らないでください。
停まってくれた車のボンネットの右端あたりで、一度はっきり足を止めます。
その車の車体を防波堤のように使いながら、首を奥の車線へ伸ばし、後続の車や二輪車が来ていないかを覗き込むようにして確認します。
奥の車線が完全に空になってから、はじめて残りを横断する――この二段階の意識が、第二の脅威と呼ばれる典型的な事故を、確実に遠ざけてくれます。
5-3. 角から一歩、下がって待つ
信号待ちのとき、つい交差点の角ぎりぎりに立ちたくなりますが、大人2歩分(およそ1.5メートル)後ろに下がってみてください。
大型車のリアオーバーハングや、内輪差を見誤った車の進入から、身体を物理的に切り離すための、最低限の安全余白になります。
内輪差とは、車が曲がるときに前輪より内側を後輪が通る差のこと。大型車ほど大きくなります。リアオーバーハングは、後輪より後ろの車体部分が、ハンドルを切ったときに外側へ振り出してくる現象で、歩道側に車体が突き出すことがあります。
そして、青信号で動き出す直前には、自分の左後方を、首を大きく回して直接見てください。
ミラーや視界の端ではなく、首をしっかり120度ほど回旋させた目視が、左折してくる車との衝突を、最も早い段階で察知させてくれます。
5-4. 動く反射材で、夜の自分を「人」として伝える
香川県の死亡事故の16.1%は、夜間に発生しています。
夜の運転者にとって、暗い衣服の歩行者や、無灯火の自転車は、本当に直前まで見えないことがあります。
ここで効果的なのが、足首や、靴のかかと、自転車のペダルなど、上下に動く部位への再帰反射材の装着です。
当たった光を、来た方向へそのまま返す性質をもつ素材。車のヘッドライトの光が当たると、運転者の目に向かって強く光って見えます。バッグや衣服のほか、足首やペダルなど動く部位に付けると、より早く存在を伝えられます。
人間の視覚は、暗い場所では、止まっているものよりも、周期的に動くものに強く反応する性質があります。
足元やペダルの反射材が上下に動くことで、運転者の意識のすぐ手前――いわば無意識の周辺視――に、人がいる、という信号を、自然に届けることができます。
これだけで、車のブレーキ開始タイミングは、はっきりと早まります。
6. おわりに ― 場所を知ることが、いちばんの備えになる
津の郷交差点と鍋谷西交差点は、決して通ってはいけない場所ではありません。
地域の暮らしと産業を支える、大切な幹線の一部です。
ただ、そこに集まる交通の量と速さ、流れの性格の違い、そして人間の視覚や注意の限界が重なるとき、ほんのわずかな偶然が、取り返しのつかない結果へ結びついてしまうことがあります。
道路の構造を、私たち一人ひとりが今すぐ変えることはできません。
しかし、その構造のクセを知り、自分の歩く位置、止まる位置、見るタイミングを、ほんの少し意識して変えることはできます。
その小さな積み重ねが、ご家族や、子どもたち、ご高齢のご近所の方々を、確実に守ってくれます。
この記事が、ハンドルを握る方にとっても、歩道を歩む方にとっても、同じ地域の安全を願う仲間としての気づきになれば、それに勝るうれしさはありません。
どうか、一人でも多くの方が、明日も穏やかに、この道を行き来できますように。
