香川県で歩行者、バイク、自転車が交通事故に遭わないために気をつけることは何か?
私は、香川県高松市で交通事故の被害に遭われた方々の法的支援を専門としている弁護士です。
日々、ご相談者の口から語られるのは、ある朝、いつもの道で起きた、誰も望んでいなかった出来事の記憶ばかりです。
事故の現場を訪ねるたびに思うのは、その場所には、そこを通る人々を不意に危険にさらしてしまう、何らかの理由が潜んでいるということです。
本稿では、地域の弁護士として日々現場と向き合うなかで見えてきた、香川県内で歩行者やバイク、自転車といった交通弱者が傷つきやすい場所と、その背景にある道の特徴を、できるだけわかりやすくお伝えしたいと思います。
誰かを責めるためではなく、地域に暮らす一人ひとりが、明日も無事に家へ帰るための、ささやかな手がかりとなることを願っています。
1. 香川の道と、交通弱者をめぐる現状
香川県は、平野部にゆとりのある道路網が広がる一方で、公共交通機関が地域によっては限られているため、車やバイクへの依存度が全国でも高い土地柄です。
こうした事情が背景にあり、人口当たりの交通事故発生件数は全国でも上位に位置し続けています。
令和6年中の統計では、二輪車が関わる人身事故が県内で4百件を超え、亡くなられた方も少なくありません。
バイクや自転車に乗る人、歩く人は、車体の鉄板や安全装置に守られていないため、わずかな接触であっても重い怪我につながりやすい立場にあります。
だからこそ、どの場所が、なぜ危険になりやすいのかを知っておくことには、大きな意味があると考えています。
2. 事故が集中するのは「交差点」と「夜間」
県内で発生する交通事故のうち、およそ六割が交差点とその付近で起きており、亡くなられる方も交差点周辺に集中しています。
さらに、命を奪う重大事故のおよそ六割は、夜間に発生しているという特徴があります。
夜の道では、ドライバーの目は、昼間と同じようには働いてくれません。
動くものを捉える力が落ち、距離感もつかみにくくなります。
そこへバイクのヘッドライトが一灯だけ近づいてきても、それが車であれば二つ並ぶライトの間隔から距離を測れるところ、一灯だけでは、脳がうまく接近の速さを計算できないのです。
この現象は、人間の視覚に共通して起きるもので、けっして注意力の問題だけで片づけられるものではありません。
小さな車体の二輪車は、近づいてきても網膜に映る像の大きくなり方がゆっくりに感じられ、実際よりも遠く、ゆっくり近づいてくるように見えてしまう、視覚上の錯覚のことです。
夜間の右折時などに、対向のバイクとの距離を読み違える原因のひとつとされています。
そして夜の市街地では、店舗の看板の光や街灯、信号機などの明かりにバイクの一灯のライトが紛れ込み、風景の一部のように溶け込んでしまうことがあります。
これも、ドライバーがバイクを、見ていたのに気づけなかった、という状況を生み出します。
県内の死亡事故では、亡くなられた方の六割以上がご高齢の方であるという統計もあります。
夕方以降に外出される方が増える時間帯と、ドライバーの視覚が弱まる時間帯が重なることで、悲しい結果が生まれやすくなっているのです。
3. 高松市中心部の交差点に潜む、見えにくさ
高松市内の幹線道路には、一日の交通量がきわめて多い交差点がいくつもあり、二輪車が巻き込まれる事故が特に集中している場所が見られます。
上天神町交差点 ~地下道と側道が生む、流れの混雑~
国道11号と国道193号が交わるこの交差点は、一日およそ五万五千台もの車が通過する、県内でも屈指の過密地点です。
この場所の特徴は、東西方向に地下道があり、地上の側道とあわせて二層構造になっていることです。
地下道に入ろうとする車と、地下道から地上に上がってくる車の動きが、短い区間のなかでX字に交差します。
合流と分岐が短い区間に同時に存在し、複数の車が車線をまたいで動きを交わす状態を指します。
ドライバーは前方、左右、後方を同時に確認する必要があり、注意の負担が一気に重くなります。
ドライバーの意識が、地下道への分岐や他車の車線変更にとられているあいだ、左横をすり抜けようとするバイクや自転車に視線が届かないことがあります。
こうして起きる左折時の巻き込みや追突は、運転者の怠慢というよりも、道の構造が人間の注意力の限界を超えさせてしまっている、と捉えるべき問題です。
一度に処理しなければならない情報が多すぎて、人間の注意力が追いつかなくなる状態を指します。
複雑な交差点では、誰でも陥る可能性のある現象で、責めるべきは個人ではなく、情報量を減らす道路の工夫だと考えられています。
東山崎町交差点と峰山口交差点 ~橋脚がつくる、思いがけない死角~
東山崎町交差点と峰山口交差点は、いずれも頭上を高松自動車道の高架が走り、その太いコンクリートの橋脚が交差点のなかにそびえています。
広い四叉路でありながら、この橋脚の陰に、対向車線を直進してくるバイクや自転車の姿が、ほんの数秒、すっぽりと隠れてしまう瞬間があります。
右折を待っている車のドライバーには、対向車線が空いたように見えるため、つい右折を始めてしまう。
その直後に橋脚の陰からバイクが現れ、衝突に至る、というのが、この場所で繰り返されてきた事故の典型的な形です。
また、東山崎町交差点は路肩が狭く、バイクが車の左横ぎりぎりを走らざるをえない構造になっています。
左折する車から、その死角に入ったバイクが見えにくくなるという問題が、長年指摘されてきました。
近くには小学校もあり、朝夕には自転車や歩行者の往来も増えるため、空間の余裕のなさが、より強く問題として表れる場所です。
伏石交差点と、夜の右折のむずかしさ
高松市内の伏石交差点付近では、夜間に右折車と対向直進のバイクが衝突する痛ましい事故が起きています。
先ほど触れた、サイズ・速度錯覚や、街の明かりに溶け込んでしまうバイクのライトが、こうした事故の背景にあると考えられています。
加えて、対向車のヘッドライトのまぶしさによって一瞬視野が奪われる現象も、夜の交差点では珍しくありません。
誰かが油断していた、という単純な話ではなく、人間の目と脳の仕組みそのものが、夜の交差点で試されている、と言ったほうが正確かもしれません。
右折の前に、対向車線の流れがほんとうに切れているのか、もう一度首を振って確かめる、そのわずかな所作が、命を分けることがあります。
4. 郊外と市町境に潜む、地形のリスク
事故が起きやすい場所は、都市の中心部だけではありません。
郊外や市町境には、道の形そのものがバイクや自転車にとって厳しい条件をつくっている地点が点在しています。
宇多津町と坂出市の境にある三差路
宇多津町から坂出市方面に抜ける三差路は、右にカーブしながら、ゆるやかな下り坂になっています。
朝夕には、その先で渋滞の最後尾が突然見えてくる、という状況がしばしば起きます。
下り坂では、車もバイクも、止まるまでに必要な距離が平らな道よりも長くなります。
ブレーキを踏みはじめてから車が完全に止まるまでの距離のことです。
スピードが上がるほど、また下り坂であるほど長くなります。
路面が濡れているときも同様に伸びます。
バイクは前輪と後輪のブレーキを手と足で別々に操作する必要があるため、下り坂で慌ててブレーキをかけると、前輪に重さがかかりすぎてタイヤがロックし、転倒に至ることがあります。
カーブの先が見通せない地点では、こうした危険がさらに高まります。
急がず、視界の届く範囲のなかで止まれる速度を保つことが、何よりの備えになります。
さぬき市鴨庄、観音寺市柞田町 ~路肩のせまさが招くもの~
国道11号のさぬき市鴨庄付近は、ゆるやかなカーブが続く区間で、過去に死亡事故も発生しています。
この区間は中学校への通学路ともなっており、自転車や歩行者と、カーブを通る車・バイクとが、近い距離で行き交います。
一方、西側の観音寺市柞田町付近では、歩道が途切れていたり、極端に狭かったりする区間があり、歩行者や自転車が車道側にはみ出さざるをえない場面が見られます。
このような場所では、バイクが歩行者を避けようとして車線の中央に寄ったときに、後続の車から追突されるリスクが高まります。
道の幅が足りないために、交通弱者同士が同じ狭い空間を分け合わざるをえない、という現実が、ここにはあります。
5. 新しい乗り物と、これからの交差点
近年は、電動キックボードに代表される特定小型原動機付自転車が、市街地でも見かけられるようになりました。
時速二十キロを上限とするこの乗り物は、これまでのバイクや自転車とは見た目も走り方も異なり、ドライバーにとっては、距離感や速さの予測がつきにくい存在です。
従来のオートバイよりも遅く、自転車よりも速い、という中間的な速度域は、車側のドライバーが経験的に身につけてきた感覚の外にあります。
左折時の巻き込みが起きやすい大きな交差点に、こうした新しい乗り物がさらに加わることで、ドライバーの注意の負担が増していくことが懸念されています。
新しい乗り物に乗る方も、それを見守る側のドライバーも、互いの動きを想像しあう余裕を持ちたいところです。
ルールがまだ社会に浸透しきっていない過渡期だからこそ、お互いに一歩譲り合う姿勢が、事故の芽を摘んでくれるはずです。
6. 私たち一人ひとりが、今日からできること
これまで見てきたように、事故が起きやすい場所には、それぞれに固有の事情があります。
ですから、すべての交差点に同じ注意を払うことは、現実には難しいかもしれません。
それでも、いくつかの心がけは、確実に身を守る助けになります。
バイクで走るときには、車のドアミラーから自分が見えているかを意識し、車の真横や斜め後ろにあたる、運転席から見えにくい位置に長くとどまらないようにすることが大切です。
昼間でもライトを点けて走ることは、自分の存在を相手の視界に届けるための、もっとも基本的な工夫です。
夜間は、反射材のついたウェアや、明るい色の上着を一枚加えるだけで、ドライバーから見える時間が大きく延びます。
自転車で走る方は、夜のライト点灯と、交差点での一時停止を、今いちど習慣として確かめていただきたいと思います。
歩く方も、横断歩道を渡るときに、左右の車のドライバーと目を合わせるつもりで歩道に立つだけで、相手の認識が変わることがあります。
車を運転される方には、橋脚や建物、トラックの陰に、自分が見落としているかもしれない誰かがいる、という前提で、ハンドルを動かす前にもう一拍、確認の時間を取っていただけたら、と願います。
家族にバイクや自転車で出かける方がいらっしゃるご家庭では、雨の日や夕方の時間帯に、いつもの道のどこに見通しの悪い箇所があるか、一緒に話題にしてみるだけでも、意識は変わっていきます。
お子さまやご高齢の方が歩く道についても、近所の交差点を一度ゆっくりと一緒に歩いてみると、車から見えにくい場所が思いのほか多いことに気づかされます。
7. おわりに ~誰もが、無事に家へ帰れる地域のために~
交通事故は、ほとんどの場合、誰かが意図して起こすものではありません。
道の形、その日の天気、ほんの一瞬の見落としが重なって、誰の人生にも降りかかりうる出来事です。
だからこそ、地域に暮らす私たち一人ひとりが、自分の通る道のどこに、どんな見えにくさが潜んでいるかを知っておくことには、大きな意味があると感じています。
香川県警や道路管理者の方々も、交差点のコンパクト化や視覚的な案内の整備など、地道な改善を続けてくださっています。
そうした取り組みと、私たち利用者の側の小さな心がけが重なってはじめて、この地域の道は、もう少しだけ優しい場所になっていくのだと思います。
本稿が、読んでくださった皆さま、そしてそのご家族が、今日も明日も、無事に家路につくための、小さな手がかりとなれば幸いです。
