高松の交通事故は、なぜ特定の場所に集中して発生しているのか?
高松の道で日々、自動車、自転車、歩行者が交錯する様子を眺めていると、つくづく感じることがあります。
事故が起きやすい場所には、その場所ならではの事情があるのだ、ということです。
私は、香川県高松市を中心に、交通事故に関わる案件を専門に取り扱っている弁護士です。
さまざまな事故のご相談に向き合うなかで、特定の交差点やエリアの名前が、繰り返し耳に飛び込んでくる場面が少なくありません。
今回は、自転車を日常の足として利用される方、歩いて街を移動される方、そしてバイクを運転される方……自動車に比べると身を守る装備が少ない、いわゆる交通弱者と呼ばれる立場のみなさんに向けて、地元高松で特に気をつけていただきたい地点と場面を、できるだけ平易な言葉でまとめてみたいと思います。
事故は、誰ひとり望んでいない出来事です。
だからこそ、その場所のもつ事情をあらかじめ知っておくこと自体が、何よりの予防になるのではないか、と考えています。
道路を通行する人のうち、自動車のように外側を金属で守られていない立場の方々を指す言葉です。
歩行者、自転車の利用者、バイクの運転者、子どもや高齢の方が代表的にこれにあたります。
ひとたび事故が起きたとき、ご本人の受ける被害が大きくなりやすい、という共通点があります。
1. 高松の事故は、その半数以上が交差点に集中している
最初に、高松の道路で起きている事故の全体像を、ざっくり確認しておきたいと思います。
香川県内で令和5年(2023年)の1年間に発生した人身事故は、合計でおよそ3,041件にのぼっています。
このうち、交差点またはそのすぐ近くで起きた事故は1,695件で、全体の半分以上を占めています。
まっすぐな直線の途中ではなく、複数の方向から来る人や車が一点に集まる交差点という限られた空間で、これだけ多くの事故が起きているという事実は、地域の道路を考えるうえで見過ごせない意味を持っています。
とりわけ自転車や歩行者は、自動車に比べてスピードがゆっくりであるぶん、交差点を渡り終えるのに時間がかかります。
そのわずかな時間のあいだに、自動車のドライバーがこちらの存在を見落としてしまうと、回避が極めて難しい接触につながってしまうのです。
そして、令和5年に県内で事故が多かった上位5つの交差点は、いずれも県都である高松市内に位置しています。
高松市は、香川県の交通の心臓部であり、それだけに通勤、通学、物流、買い物といった、暮らしを支えるさまざまな移動が同じ空間に集中している。
これが、市内の交差点に事故が集まる、もっとも根っこにある事情だといえます。
2. 県内ワースト常連、東山崎町交差点の構造
高松市の東山崎町にある交差点は、令和5年の県内事故多発地点ランキングで、年間8件という不名誉な1位を記録しました。
じつは前年の令和4年も同じ1位で、2年連続のワーストとなっています。
幸いなことに、いずれの事故も命を落とされた方はおらず、すべて軽傷で済んでいます。
ただ、毎年これだけの密度で事故がくり返されているという事実は、ドライバー個人の不注意というよりも、交差点の作りそのものに事情があるはずだ、と私たちに気づかせてくれます。
この交差点には左折専用の車線が設けられていて、左に曲がろうとする車が、交差点の直前で車線を変えようとする動きが、事故の主な引き金になっているといわれています。
車線を変えようとする車のすぐ脇を、自転車が走り抜けようとするとどうなるでしょうか。
ドライバーの目線は、右側の車線にいる車との間合いを測ることに向かいやすく、左前方の自転車横断帯にいる自転車の存在は、視野の端へと追いやられてしまいます。
これが、交差点という限られた空間でくり返し起きている、見落としの典型的な構造です。
横断歩道のすぐ脇に設けられた、自転車が車道を横切るための専用のレーンのことです。
路面に自転車のマークと白い線で示されていて、歩行者と自転車を分けることで、両者の安全を守る工夫として設けられています。
3. 通学の自転車と物流が交わる、高松土木事務所前交差点
県内ワーストの4位タイに位置するのが、高松土木事務所の前にある交差点です。
ここで令和5年に起きた事故は4件で、内訳は左折時の衝突が2件、追突が1件、右折車と直進車の接触が1件でした。
統計上は、自転車そのものが直接ぶつかった事故は0件と整理されています。
しかし、この場所の特徴に目を向けると、自転車の存在が、目には見えにくい形で事故の引き金になっている可能性が浮かび上がってきます。
この交差点のすぐ近くには高校があり、朝と夕方には、通学する生徒さんたちの自転車が、たくさん通り抜けていきます。
同じ時間帯、この道路はマイカー通勤による渋滞でゆっくり進む車と、深夜・早朝から続く物流のトラックでにぎわっています。
ゆっくり進む車のすき間を、機動力のある自転車が車の左側からすり抜けていく光景は、おそらく多くの方が日常的に目にされているのではないでしょうか。
この場面で、左に曲がろうとするトラックや車のドライバーから、後方から走ってきた自転車が、ちょうど死角に入ってしまうことがあります。
ドライバーの席から外を見たときに、車体の柱や荷物などにさえぎられて、どうしても見えなくなる場所のことです。
特にトラックは車高が高く、左前方や左後方に、運転する人からは見えない領域が広く生まれます。
このため、左折のときに、車の左側を直進してくる自転車を見落としやすい、という事情があります。
地元の道路管理者からも、この場所を通る自動車に対して、自転車横断帯を走る自転車に十分注意するよう、明確な呼びかけが行われています。
通学という時間と、通勤・物流という時間がぴったり重なってしまう場所に、自転車のための横断スペースが横たわっている。
この場所の特異性こそが、事故を起きやすくしている、と理解しておきたいところです。
4. 栗林公園のまわりは「面」として注意したいエリア
ひとつの交差点ではなく、いくつかの交差点がつながったエリア全体として、自転車事故のリスクが高い場所もあります。
高松市の中心部にある、栗林公園のまわりが、その代表例です。
過去のデータでは、栗林公園南交差点が、高松市内の自転車事故の多発地点として上位にランクインした実績があります。
現在も、地元の警察署が定める「自転車指導啓発の重点地区」として、このエリアの一帯が指定されています。
具体的には、国道11号や塩江街道といった主要な道路に加えて、花ノ宮交差点、栗林公園北交差点、そして近くの大型スーパーマーケットの周辺、JR高徳線の高架の下までもが、注意を要する場所として挙げられています。
なぜ、この一帯が面として危ないのか。
理由のひとつは、立体的に道路が作られている場所が多い、ということです。
電車の高架の下や、車を地下に通すような構造は、自動車を効率よく通すために作られていますが、自転車を利用される方からすると、見通しの悪い場所や、急な勾配、狭い側道を、緊張しながら走らなければならない場面が増えます。
もうひとつの理由は、スーパーや病院といった、日常の暮らしに欠かせない施設がこのエリアに集まっていることです。
広い範囲から自動車が通過する幹線道路のすぐ脇に、地元の住民の方が自転車で買い物に出かける生活の動線が、ほぼ直角に交わる構図ができあがっています。
ここでは、観光で訪れる方、通勤で通り抜ける車、地元の生活用自転車、そして歩行者が、同じ空間に集まることになります。
ドライバーの方が、これらすべての方向に、同時に十分な注意を払うというのは、現実にはとても難しい状況が生まれているのです。
5. 視界をさえぎる橋脚と、信号のない交差点
高松市田村町にある峰山口交差点は、令和5年の県内ワースト交差点のなかで、唯一、重傷事故が記録された場所です。
東西に走る国道11号と、南北の県道172号がぶつかる十字路ですが、この交差点には、ひとつ特異な事情があります。
中央分離帯のちょうど真上に、高松自動車道、つまり高速道路の橋脚がそびえ立っているのです。
東西の国道から右折しようとするドライバーから見ると、この大きなコンクリートの柱が、対向車線や横断する人の姿をさえぎり、見通しを著しく悪くしてしまっています。
さらに、南北の道には地形の高低差があり、南側から進入する方が、北側にいる歩行者や自転車を視認しにくい構造にもなっています。
事故の内訳を見ると、右折のときの衝突が3件と突出しています。
これは偶然ではなく、視界の悪さが、そのまま事故の形になって表れているものと考えるのが自然です。
この交差点のすぐ近くには小学校があり、商業施設の大きな駐車場の出入り口もあります。
人や自転車の流れが多い場所で、橋脚という大きな視界の壁と、地形の段差が重なる。
事故が起きやすい条件が、複合的にそろってしまっている地点といえます。
もうひとつ、信号のない交差点として警戒したいのが、高松市成合町の成合大橋東詰交差点です。
こちらは国道32号と市道が交わる十字路ですが、なんと信号機が設置されておらず、市道側に一時停止の標識が立っているだけ、という状態です。
年間4件の事故のうち、出会い頭の衝突が2件と多く、信号がないことによる確認不足の事故が、はっきりとデータに表れています。
さらに憂慮されるのは、この近くに3つもの小学校があるという事実です。
信号で時間を区切ることなく、絶え間なく国道を車が通過する状況のなかで、子どもたちの自転車や歩行者が、安全に横断するためのすき間を見つけるのは、けっして容易なことではありません。
信号のない交差点などで、お互いに相手の進行に気づかないまま、横の方向から来た車や自転車とぶつかってしまう事故の形のことです。
見通しの悪い場所や、一時停止の確認が不十分な場合に、起きやすい事故の典型です。
6. 上天神西交差点は、道の複雑さがドライバーの余裕を奪う
高松市上天神町の交差点は、令和5年に5件の軽傷事故が発生し、その内訳は追突が4件と、非常に偏った特徴を示しています。
追突がこれほど多いという事実は、ドライバーが前の車のブレーキに気づくのが遅れていることを意味します。
ではなぜ、気づくのが遅れるのでしょうか。
この交差点は、国道11号と市道が交わる十字路ですが、平面のシンプルな交差点ではありません。
国道側には、トンネルのように低く沈み込んだ道、いわゆるアンダーパスの出入り口があり、右折のための専用車線が複雑に作られています。
さらに、峰山口交差点と同じく、中央分離帯には高速道路の橋脚がそびえています。
ドライバーは、車線の変更、速度の調整、橋脚の死角からの右折車の確認、前方の信号と、たくさんの情報を、短いあいだに処理しなければなりません。
人の注意力にも、自然な上限があります。
ひとつのことに気を取られると、別のことへの注意が薄くなるのは、誰にとっても起きうることです。
この交差点で多発する追突は、ドライバーの個人的な不注意というよりも、道の構造そのものが、人の認知のキャパシティを超えてしまっていることを示している、と読み取るのが妥当です。
そして、立体的な道路構造のしわ寄せは、結局のところ、その脇を走る自転車や歩く人にやって来ます。
複雑な道に注意を集中させなければならない自動車の脇を通る自転車は、ドライバーから見落とされやすい位置に置かれてしまうのです。
7. なぜ、これほど自転車が一カ所に集まってしまうのか
ここまでご紹介してきた危険な交差点には、共通する特徴があることに、お気づきになったかもしれません。
そばに学校や病院、大きなスーパー、商業施設があり、たくさんの自転車が日常的に集まってくる、ということです。
この背景には、じつは都市計画の側の事情があります。
高松市には「自転車等の適正な利用に関する条例」というルールがあり、一定の規模以上の建物を新しく建てる事業者には、建物の床面積に応じて、自転車の駐輪場を必ず設置することが義務付けられています。
新しく大きな建物を建てるときに、その建物の用途や広さに応じて、決められた台数以上の駐輪スペースを建物の側で必ず用意しなければならない、というルールのことです。
街にあふれる放置自転車を減らし、歩道を歩きやすくする、といった目的で作られています。
このルールそのものは、街の景観を守り、放置自転車を減らすという意味で、たいへん合理的なものです。
ただし、見方を変えると、限られたエリアに大量の自転車を集める強力な磁石としても働いている、ということになります。
スーパー、学校、病院、マンションといった、地域の人が日常的に訪れる場所には、駐輪場という形で自転車のための受け皿が用意されていて、結果として、そこへ向かう自転車の動線が、自然と集まってきます。
ところが、建物の側の受け皿は条例によって整備されていく一方で、住宅街からその施設に至るまでの道路、特に交差点のつくりについては、自動車の通過のしやすさを優先したまま、必ずしも十分に手が入っていない、というケースが少なくありません。
車の通過効率を高めた幹線道路のすぐ脇に、自転車を引き寄せる大きな施設が並んでいる。
これが、高松市内のいくつかの交差点で、自動車と自転車のかち合いが恒常的に起きている、もっとも根本的な事情だと考えられます。
このことは、誰か個人の責任の問題ではなく、街の作り方そのものに由来している、ということを示しています。
8. 交通弱者の立場で、自分自身を守るためにできること
道のつくりに事情があるからといって、私たち一人ひとりにできることがないわけではありません。
むしろ、場所の特異性をあらかじめ知っているからこそ、その場所を通るときに、ひとつでも多くの備えを意識しておきたいところです。
まず、自転車の利用者の方には、夕方から夜にかけてのライトの点灯と、後ろや横についている反射材の確認を、改めておすすめしたいと思います。
高松市内の事故多発交差点の多くで、深夜から早朝にかけての物流の車の往来が、リスク要因として挙げられています。
大きなトラックを高い運転席から運転している方からすると、暗い時間帯にライトをつけずに走る自転車は、本当に直前まで見えません。
これは、ドライバーの注意力の問題ではなく、人間の目の働きの限界に近い話です。
ご自身の存在を、できるだけ早く、できるだけ遠くから気づいてもらえるようにすること。
これは、自転車に乗る方ができる、もっとも確実な自衛の手段のひとつです。
次に、止まれの標識の前では、必ず一度足を止めるという習慣も、改めて確認したい点です。
成合大橋東詰交差点のように、信号のない場所で出会い頭の衝突が多発している地点では、一時停止を省略してしまうと、回避がほぼ不可能な事故になりかねません。
自動車のほうが止まってくれるはず、という見込みを持たず、自分の側で確実に止まる、という姿勢が、ご自身の身を守ります。
そして、自転車に乗っている最中のスマートフォンの操作は、片手運転とふらつきを生み、周囲の危険に気づく力を大きく下げてしまいます。
令和5年4月からは、すべての自転車利用者にヘルメットの着用が努力義務となりました。
万一の転倒や接触のとき、頭部を守ることができるかどうかは、その後の生活の質を大きく左右します。
歩いて移動される方には、夜間の明るい色の服装と、反射材のついた持ち物の活用をおすすめします。
お子さまやご高齢のご家族と一緒に道を歩かれるときは、横断歩道のある場所を選び、ドライバーから見やすい位置にいる、という意識を持っていただきたいと思います。
バイクを運転される方には、すり抜けのときの速度を控えめに保つことと、交差点に進入する手前で、左右の死角の車にもう一度目をやることを、ぜひ意識してみてください。
自転車も歩行者もバイクも、自動車に守ってもらう前に、まずは見つけてもらう、というのが、大切な順番だと感じています。
9. 道路の形そのものを、やさしく変える試み
最後に、個々人の注意とは別の次元で、香川県内でも進められている、明るい話題に触れておきたいと思います。
それは、交差点そのものの形を、人にやさしい姿に作り変える取り組みです。
香川県では、令和2年度に、二段停止線を廃止して交差点を「コンパクト化」する工事と、路面の表示を全面的に塗り替える整備が行われました。
広く作られすぎていた交差点の車道部分を、しま模様の路面表示などを使って、車が実際に通れる範囲を絞り込み、交差点全体を小さくまとめる工夫のことです。
車が曲がるカーブが小さくなるので、ドライバーは自然と速度を落とすことになり、横断する人や自転車との接触のリスクを下げる効果があります。
交差点をコンパクトにすると、よいことがいくつもあります。
ひとつは、車が曲がるときのカーブが小さくなるので、自動車の側で自然と速度を落とすしかなくなる、ということです。
速度が下がれば、万一の衝突のときの衝撃も小さくなり、ドライバーが歩行者や自転車に気づいてからブレーキを踏むまでの時間にも、余裕が生まれます。
もうひとつは、自転車や歩行者が車道を渡らなければならない距離が、物理的に短くなる、ということです。
渡っている時間が短ければ、それだけ車にさらされる時間も短くなり、事故にあう可能性そのものを下げることができます。
さらに、停止する位置が前に出ることで、ドライバーから横断歩道の上の人や自転車が見えやすくなり、見落としを減らすことができます。
東山崎町交差点のように、無理な車線変更が事故を生んでいる場所や、上天神西交差点のように、道の複雑さが認知の余裕を奪っている場所には、こうした道の作り変えこそが、もっとも効果的で、長く効く対策になります。
カーブミラーの戦略的な増設や、AIによる死角の警告システムなど、人の注意力の限界を、道路の側から補ってくれる新しい技術も、少しずつ実用化されつつあります。
道路は、設計された時代の交通量と街の姿に合わせて作られてきました。
時代が変わり、自転車という環境にやさしい乗り物が、暮らしのなかで大切な位置を占めるようになった今、道路の側もまた、少しずつ、その役割を変えていく必要があるのだろうと感じます。
事故が起きやすい場所は、誰かが望んでそうなったわけではありません。
かつての時代に合理的だった作りが、新しい交通の姿にうまく追いつけていない、というだけのことです。
だからこそ、地域に住む私たちが、その場所の事情を理解し、お互いに思いやりを持ちながら、よりよい道のかたちを求めていく。
それが、これから先の高松の交通を、誰にとってもやさしいものに変えていく、いちばんの近道なのだろうと思います。
今日この記事に目を通してくださったあなたが、明日からの道のなかで、ほんの少しだけ、いつもより遠くを見て、いつもより早めに足を止めてくださることを、心から願っています。
