高松市太田下町に位置する「三条交差点」の危険性

高松市内で多くの交通事故被害者の方々のお話に耳を傾けてきた、一人の弁護士です。
日々のご相談の積み重ねから、強く実感していることがあります。
それは、事故というものは決して偶然に均等に発生するのではなく、特定の場所に集中して繰り返し起きている、という事実です。
今回、地域の皆様に共有させていただきたいのは、高松市太田下町に位置する三条交差点についての知見です。
この交差点は、日本損害保険協会が公表する事故多発交差点マップにおいて、2019年には香川県内ワースト2位、2024年にはワースト3位と記録された、県内屈指の事故多発地点です。
すぐ近くには高松市立太田南小学校があり、登下校の児童や、通勤・通学の自転車利用者が、過飽和状態の車両交通と日常的に交錯しています。
本記事では、歩行者・自転車・バイクという交通弱者の立場から、三条交差点を安全に通行するための、物理法則に基づいた自己防衛の考え方をお伝えします。
精神論ではなく、人間の認知の限界を前提とした実践的な内容を心がけました。

1. データが語る三条交差点の事故実態

三条交差点では、2018年・2019年ともに年間10件の人身事故が記録されています。
幸いそのすべてが軽傷事故に分類されてはいるのですが、これは重大事故に至らないだけで、接触や衝突自体は極めて高頻度で繰り返されている、ということを意味します。
偶発的なミスではなく、交差点そのものに潜む構造的な要因が、事故を生み出していると考えるべきでしょう。

発生する事故の典型パターン

最も頻発しているのは、右折車と対向直進車の衝突です。
次いで多いのが、左折する車両による自転車の巻き込み事故で、特に朝夕の通勤・通学時間帯に集中しています。
また、横断歩道上での人対車両の事故も継続的に発生しており、太田南小学校の児童をはじめとする歩行者が高いリスクに晒されている状況です。
四輪車同士の追突事故も多く、片側3車線の直線道路と慢性的な渋滞が複合的に作用していると考えられます。

2. 事故を生む3つのインフラ上の要因

三条交差点で事故が多発する背景は、運転者個人の不注意だけでは説明しきれません。
交差点そのものに、3つの構造的な特徴が重なり合っているのです。

橋脚による視界の遮断

最大の要因は、交差点上空を東西に横断する高松自動車道の巨大な橋脚です。
この橋脚が交差点の幾何学的な中心付近に立っているため、交通工学でいう「視距三角形」が大きく損なわれています。

【用語解説】視距三角形
交差点で安全に通行するために、運転者から見通せている必要のある三角形状の視界の範囲のことです。
この範囲内に視界を遮るものがあると、対向車や横断者を視認するタイミングが遅れ、事故のリスクが高まります。

特に右折を待っている車両の運転席から見ると、対向直進車やその奥の横断歩道が、橋脚の影に隠れてしまう死角が形成されてしまいます。
さらに厄介なのは、自分の車も対象物も動いている場合、対象物が常に橋脚の裏側に隠れ続ける現象が発生することです。

【用語解説】一定方位接近
互いに動いている二つの物体が、お互いに対して常に同じ方向に見え続けてしまう現象のことです。
このとき視界の中で対象物が動いていないように感じられるため、運転者は接近に気付きにくくなります。

このため運転者の脳には、交差点には誰もいない、という誤った確信が植え付けられてしまうのです。

商業施設の密集と慢性的な渋滞

三条交差点は、県内最大規模の大型ショッピングモールに隣接し、国道11号沿いには多数の商業施設が密集しています。
そのため、平日・土日を問わず恒常的な渋滞が発生しています。
運転者の視覚的な注意は、沿道の店舗看板や前を走る車のブレーキランプへと分散しがちで、漫然運転が誘発されやすい環境となっています。
これが、追突事故と歩行者の見落としの両方を生み出す土壌となってしまっているのです。

県道側の路肩が狭い非対称な構造

国道11号側が片側3車線と広い幅員を持つ一方で、県道側は二輪車や自転車の通行量が多いにもかかわらず、路肩が極めて狭いという特徴があります。
この非対称な構造により、直進する自転車と、左折しようとする四輪車との間で、空間的な競合が発生しやすくなっています。
自転車には退避するスペースがなく、四輪車の「内輪差」による軌道と、自転車の直進軌跡が重なってしまうのです。

【用語解説】内輪差
車両が曲がる際に、前輪が通る軌跡よりも後輪が内側を通る現象のことです。
車体が大きくなるほど内輪差は大きくなり、歩行者や自転車を巻き込む危険性が高まります。

これは、左折時の巻き込み事故が起こりやすい幾何学的な条件が揃ってしまっている、ということでもあります。

3. 運転者は「見ていても、見えていない」

ここからは、なぜ運転者が歩行者や自転車を見落としてしまうのか、認知心理学的な仕組みについてお話しします。
ドライバーは自分に気付いているはずだ、という希望的な見方は、ぜひ一度横に置いてください。

視野が極端に狭くなる現象

信号が青から黄に変わるタイミングで、右折車の運転者は、停止か離脱か、というジレンマに追い込まれます。

【用語解説】ジレンマ・ゾーン
信号が黄色に変わった瞬間に、安全に停止するか、加速して通過するか、運転者がどちらを選ぶか迷う領域のことです。
判断が遅れたり強引な選択をしたりすると、追突や交差点内での衝突につながりやすくなります。

慢性的な渋滞による焦りが加わると、強引にでも抜け出したい、という心理的な傾きが強く働きます。
このとき運転者の注意のほとんどは、対向直進車との衝突回避のみに集中しています。
人間の脳は、極度の緊張下において、周辺の視野からの情報を強制的に遮断する「トンネル・ビジョン」を引き起こしてしまうのです。

【用語解説】トンネル・ビジョン
強いストレスや集中状態に置かれた人間の視野が、トンネルの中を覗くように極端に狭くなる現象のことです。
正面のものは見えていても、周辺の歩行者や自転車に意識が向かなくなります。

見たけれど、見えなかった、という認知の落とし穴

この状態にある運転者にとって、橋脚の奥の横断歩道を歩いている歩行者や、進入してくる自転車は、網膜には物理的に映っていても、脳では認識されません。
これは交通心理学において、見たのに見えなかった現象、と呼ばれる深刻な認知エラーです。
歩行者が、横断歩道だから優先される、車が止まってくれるはず、と信じることは、機能不全に陥った運転者の認知に、無防備に命を預ける行為に近いものになってしまいます。

4. 命を守る4つの物理的な防衛行動

ここからは、本記事の核心です。
気をつける、目を合わせる、といった精神論や、運転者の正常な認知機能に依存する対策は、三条交差点では十分に機能しません。
構造上の課題を、歩行者・自転車側の行動で補うための、具体的かつ物理的な工夫をご紹介します。

橋脚の死角を打ち消す「二段階進入」

横断歩道に進入する際、歩行者用信号が青であっても、一定のペースで歩き続けないことが大切です。
交差点の中間地点付近、つまり橋脚で対向車線が見えなくなる手前のラインで、いったん足を止め、1.5秒から2秒ほど完全に停止してみてください。
この一時停止によって、トンネル・ビジョンに陥っている右折車運転者の視界の中で、あなたは突然飛び出す動的な物体ではなく、静止した風景の一部として一度脳に登録されます。
その後、再び歩き出すことで、静止状態からの動き出し、という強い視覚的な刺激が生まれ、運転者の注意を引き寄せやすくなります。

運転者の顔ではなく「タイヤ」を見る

信号の変わり目に右折車が進入してくる場面で、運転者の顔や目線を見て、目が合ったから止まる、と判断することは大変危険です。
運転者の焦点は、あなたを通り抜けて奥の対向車に向かっているからです。
歩行者や自転車利用者は、運転席ではなく、接近してくる車両の前輪タイヤのみを注視してください。
横断を開始する判断は、歩行者信号が青になった瞬間、ではなく、車両の前輪タイヤの回転が完全に止まり、車体の「ノーズダイブ」が収まった瞬間、に限定することをお勧めします。

【用語解説】ノーズダイブ
車両がブレーキをかけた際に、車体の前部が下に沈み込む現象のことです。
ノーズダイブが収まったということは、車両がブレーキを緩めていない、つまり完全に停止し続けている、という確かなサインになります。

タイヤが1ミリでも回転している間は、車両は物理的に前進しています。
車輪の完全な静止を確認するまで、車道へ足を踏み入れないようにしてください。

内輪差から離脱する「オフセット待機」

県道側で赤信号を待つ自転車利用者は、左折待ちの車両の左横、つまり車体ドアと縁石の隙間に進入しないように気を付けてください。
縁石の最前列から1.5メートル以上後ろに下がった位置を、自身の待機ポイントとすると安心です。
1.5メートル下がるだけで、大半の四輪車の内輪差の軌道から物理的に離脱することができます。
さらに、左折車のサイドミラーに自分の姿が正面から映り込む位置に移動することで、ミラーを一瞥するだけの運転者にも、光学的にご自身の存在を伝えることができます。

夕暮れ時に光で存在を伝える

夕暮れ時は、商業施設のネオンや対向車のヘッドライト群が混在し、衣服の反射材だけでは光のノイズに埋もれてしまいがちです。
自転車利用者は、交差点に進入する前に必ずフロントライトを点灯させてください。
そして信号待ちの間、ライトの光軸を進行方向の正面だけでなく、右左折車両が進入してくる方向にも意識的に向けておくと効果的です。
光軸を接近車両のフロントガラスへ向けることで、周辺の光のノイズの中から、運転者の網膜に強いコントラストの刺激を届けることができます。
これは受動的な反射材とは異なる、能動的に自分を見てもらうための工夫といえます。

5. 万が一、事故に遭ってしまったら

これだけ気を付けても、構造的な課題を抱えた交差点では、事故のリスクをゼロにすることはできません。
万が一の場合、以下の3点を必ず実行してください。
第一に、必ず警察を呼び、人身事故として届け出ること。
軽傷に思えても、後日症状が悪化することは少なくありません。
第二に、現場の写真、特に橋脚との位置関係や、信号、車両同士の位置関係を、可能な限り撮影して保存すること。
三条交差点の事故では、構造的な死角の存在が過失割合の争点となる場面が少なくないからです。
第三に、必ず病院で診察を受け、診断書を取得すること。
体調の変化を医学的に記録に残すことが、後々のすべての手続きの土台となります。

6. まとめ:構造の課題は、私たちの行動で補える

三条交差点の事故は、運転者個人のモラルだけに頼っていては防ぎきれません。
橋脚による死角、慢性的な渋滞、狭い路肩というインフラ上の特徴が、ドライバーの認知能力を限界まで追い詰めているからです。
歩行者・自転車・バイクの皆様には、ぜひ本記事でご紹介した4つの物理的な防衛行動を、日々の通行に取り入れていただきたいと思います。
二段階進入、タイヤ注視、オフセット待機、そして光で存在を伝えること。
この4つは、運転者の善意に頼らず、物理法則によってご自身の命を守るための具体的な技術です。
ご家族、特にお子様や高齢のご家族と、ぜひこの内容を共有してください。
事故は、起きてしまってからでは取り返しがつきません。
高松の街から交通事故被害に遭われる方を一人でも減らせるよう、地元の弁護士として、皆様の安全な通行を心より願っています。

被害者に役立つ情報

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