長尾街道での歩行者事故が多いのでご注意ください
日々、交通事故の被害に遭われた方々のご相談に向き合うなかで、ある一つの確信に至ることがございます。
それは、痛ましい事故は決して偶然の産物ではなく、起きやすい場所で、起きやすいかたちで、繰り返し起きてしまうという事実です。
香川県内の交通事故案件を専門に取り扱う弁護士の立場から、今回は、地域の方々が毎日のように利用される長尾街道(主要地方道高松長尾大内線)とその周辺の幹線道路について、歩行者、自転車、バイクといった、いわゆる交通弱者の安全のために、現場の構造的な特徴と自衛のすべを、できるだけわかりやすく整理してまいります。
事故は、ハンドルを握る側も、横断する側も、誰一人として望んでおりません。
それでも同じ場所で繰り返されるのであれば、責められるべきは個々の人ではなく、事故を起こしやすくしている場所そのものの特異性であろう、というのが本稿の基本的な立場です。
1. 長尾街道とその周辺 ― 地域の大動脈に潜む構造的なリスク
長尾街道は、高松市の中心部とさぬき市方面を東西に結ぶ、地域生活の大動脈です。
通勤、通学、買い物、通院。
朝から晩まで、ありとあらゆる目的の交通がこの一本の道に集中いたします。
そして、この街道は途中で国道11号と交わり、また各所で生活道路や鉄道(琴電長尾線)と立体的に交差します。
こうした幹線道路ネットワークの結節点には、交通工学的に見て、いくつもの構造的なリスクが内在しているのです。
さぬき警察署管内の令和3年から令和7年までの交通事故統計を見ると、いくつかの傾向が浮かび上がってまいります。
管内で発生した人身事故のうち、国道11号、長尾街道、主要地方道志度山川線の三路線における事故が全体の約47パーセントを占めております。
さらに、その発生場所を細分化すると、交差点および交差点付近での事故が全体の約58パーセントに達しております。
そして高齢者が当事者となる人身事故が全体の約49パーセントを占めるという数字は、加齢に伴う認知・運動機能の変化と、複雑化した道路環境とのあいだに生じた、深刻なミスマッチを示唆しているように思われます。
2. 事故が集中する地点と時間帯 ― 統計が語る危険のかたち
長尾街道と国道11号が交わる上天神西交差点は、ある年の交通事故発生件数が全国ワースト10位に入った、文字どおりの事故多発地点です。
さらにその先には県内ワースト3位、ワースト2位の交差点が立て続けに並んでおり、この区間全体が事故多発のベルト地帯を形成しております。
また、長尾街道沿いの三木町氷上交差点も、長年にわたって県内の事故多発ランキングの上位に挙げられている要注意地点です。
事故が起きやすい時間帯にも、明確な傾向がございます。
朝の通勤・通学時間帯と、秋から冬にかけて日没が早まる夕方の薄暮時間帯。
この二つの時間帯は、交通量のピークと、人間の視覚的な限界とが重なる、もっとも注意の必要な時間帯です。
特に夕方の薄暮、ちょうど自動車のヘッドライトを点けるか点けないか迷う、あの曖昧な時間こそ、歩行者や自転車がドライバーの視界からもっとも消えやすい一日のうちでもっとも危うい時間帯であると、まずは胸に刻んでいただきたく存じます。
3. なぜ事故が起きやすいのか ― 場所の特異性を解きほぐす
事故の背景には、ドライバーの注意力以前に、場所そのものの構造的な要因が横たわっております。
ここでは、長尾街道と周辺の道路網に共通して見られる、四つの特異性を順にご説明してまいります。
3-1. 高架橋脚がつくる、絶対的な視界の死角
上天神西交差点をはじめ、長尾街道と国道11号の交差部の中央には、高松自動車道の高架橋脚が立っております。
この巨大なコンクリートの柱は、右折を待つドライバーの視点から見たとき、対向直進車だけでなく、その向こうの横断歩道付近を進む歩行者や自転車の姿をも、すっぽりと隠してしまうのです。
運転席からの視線と、目の前にある障害物の幅とが幾何学的に重なって生まれる、絶対に見えない領域のことを指します。
これは運転手の注意力の問題ではなく、物理的に視線が通らない、という構造そのものの問題です。
橋脚の陰を歩く歩行者や自転車は、ドライバーの目の前にいても、ドライバーには本当に見えていない、ということが起こり得ます。
歩行者の側からすれば、自分はドライバーの目の前にいるのだから当然見えているはずだ、と感じることでしょう。
けれども、ドライバーの視界には橋脚しか映っていない数秒間が、確かに存在いたします。
この感覚のずれこそが、青信号の横断歩道で起きてしまう、もっとも深刻な事故の根本原因です。
3-2. アンダーパス周辺の交通流の乱れ
長尾街道と国道11号の周辺には、慢性的な渋滞を緩和するためのアンダーパス(地下道)が整備されております。
これは交通容量を上げるための合理的な工夫ですが、副次的に、本線と側道が分岐・合流するごく短い区間で、車線変更の判断を強いられる構造を生み出しております。
合流してきた車と、分岐していこうとする車とが、限られた距離のあいだで車線を交換し合う区間のことです。
ドライバーは進路を決めるのに気を取られ、車間距離は不安定になり、急な車線変更も頻発します。
交差点に近接してこの区間があると、進入してくる車両がどの方向から来るのかが、外から眺める歩行者や自転車には、たいへん予測しにくくなります。
アンダーパスを使うのか、使わずに地上を進むのか。
この一瞬の判断に脳の資源を費やしているドライバーは、横断歩道付近の歩行者にまで注意を回す余裕を失いがちです。
結果として、思いがけない角度から、減速しきれない車両が交差点に飛び込んでくる、という事態が起こり得るのです。
3-3. 幹線道路と沿道の大型店舗が共存することによる急減速
長尾街道や三木町氷上交差点周辺の特徴のひとつに、平均速度の高い多車線の幹線道路の沿道に、大型量販店や郊外型商業施設が直接面しているという点が挙げられます。
通過交通(モビリティ)と、施設へのアクセス交通(アクセシビリティ)とが、本来は分けられるべきところ、同じ平面の上で混在しているのです。
高い速度で流れている車列のなかに、急に減速する車が現れると、その後ろにブレーキの連鎖が伝わっていきます。
この急減速の波のことを、交通工学ではショックウェーブと呼びます。
追突を避けようとした車が、咄嗟に歩道側へハンドルを切ってしまうこともあり、これが歩行者や自転車を巻き込む二次被害の引き金になります。
時速60キロで流れている本線に、店舗の駐車場へ入ろうとする時速10キロ以下の車が突然現れる。
この大きな速度差は、後続車に厳しい急ブレーキを強います。
そして、間に合わなかった車は、追突を避けるためにハンドルを左に切り、歩道側へ飛び出してしまう。
これは、歩道を歩いている歩行者や自転車にとって、まったく予期できない方向から命の危険が迫ってくる、ということを意味するのです。
3-4. 交差点コンパクト化と、左折車の通り道
近年、安全対策のひとつとして、交差点をコンパクトに整える路面標示の変更が、各所で行われております。
歩行者の横断距離を短くする、信号サイクルの効率を上げる、といった目的があり、その意図は十分に合理的なものです。
けれども一方で、交差点の面積が小さくなることで、左折してくる車両が、これまでよりも歩道の縁石ぎりぎりを通過するようになっております。
四輪車が曲がるとき、前輪より後輪のほうが内側を通ります。
この前輪と後輪の軌跡のずれを内輪差と申します。
そして、車体の各部分が通過する範囲全体をスウェプト・パスと呼びます。
車のボディの先端が無事に通り過ぎたあとも、後輪はもっと内側、つまり歩道側を削るように回り込んでくる、ということを覚えておいてください。
交差点の角のいちばん先端で信号待ちをしていると、左折してくる車のボディが通り過ぎたあとに、後輪が自分の足元に近づいてくることになります。
これが、巻き込み事故と呼ばれる事象の幾何学的な正体です。
4. なぜドライバーは「見ているのに見えない」のか
事故の現場でしばしば耳にするのが、ドライバーの、ちゃんと見ていたのに気づかなかった、という言葉です。
これは決して言い訳ではなく、人間の視覚と認知の限界を、率直に表現した言葉なのです。
4-1. 注意を向けていないものは、見えていても見えない
人間の脳は、視界に入っているものすべてを認識しているわけではございません。
注意を向けた対象だけを意識上にのぼらせ、それ以外は背景として処理しています。
意識を別の対象に集中している状態では、視界の中心に存在するものでさえ、脳に認識されないという心理学上の現象です。
右折を待つドライバーが、対向車線の車列の切れ目ばかりに注意を集中していると、横断歩道上の歩行者の姿が網膜には映っていても、脳に届かない、ということが起こります。
つまり、ドライバーの顔がこちらを向いていることと、ドライバーの脳があなたを認識していることは、まったく別のことなのです。
この点を、まずは知っておいていただきたいと存じます。
4-2. 薄暮時の視覚は、思っているよりずっと弱い
夕方の薄暮時間帯には、もう一つ深刻な視覚の現象が起こります。
歩行者の輪郭がアスファルトに溶け込み、対向車のヘッドライトと自車のヘッドライトの光が交わる空間で、その光のなかに歩行者のシルエットが消えてしまう現象です。
夜間、対向車のヘッドライトと自車のヘッドライトの光が重なる空間に歩行者がいると、強い光のハレーションのなかにシルエットが埋もれ、ドライバーからは一瞬、まるで蒸発したかのように歩行者の姿が見えなくなる現象です。
歩行者の側は、ライトで照らされているから自分は目立っている、と錯覚しがちですが、光学的にはむしろ逆のことが起きているのです。
黒っぽい服、無灯火の自転車、そして対向車線にすれ違う車のヘッドライト。
これらが揃うと、歩行者は文字どおりドライバーの視界から消えてしまいます。
5. ご自身の身を守るための、具体的な五つの行動
ここまでお読みいただければ、精神論や、気をつけましょう、という抽象的な呼びかけだけでは、命を守るには十分でないことがご理解いただけたかと存じます。
場所と人の限界を踏まえたうえで、今日からすぐに実行できる具体的な行動を、五つに整理してお伝えいたします。
5-1. 青信号で渡るときも、縁石の一歩手前で立ち止まる
青信号が点いた瞬間に歩き出すのではなく、縁石の一歩手前で、ほんの一呼吸、足を止めてください。
そして、交差点の中で待っている右折車のフロントガラス越しに、ドライバーの顔が完全にこちらへ向き、なおかつタイヤが完全に止まっていることを目視で確認してから、横断を始めてください。
たった一歩の余白が、橋脚の陰から飛び出してくる車両との衝突を、物理的に避けてくれます。
5-2. 信号待ちは、ガードレールや電柱の陰でする
沿道の店舗に入ろうとする車のウインカーが見えたら、その後続に急ブレーキの連鎖が起きる可能性を、必ず想定してください。
信号待ちの場所は、横断歩道の縁石ぎりぎりではなく、ガードレールや太い電柱、頑丈な標識の柱の真後ろがもっとも安全です。
万が一、追突を避けようとした車が歩道に飛び込んできても、頑丈な物体が盾になってくれる可能性があるからです。
5-3. 反射材は、足首や膝下に着ける
薄暮時間帯や早朝の暗い時間帯には、反射材の装着が命を守ります。
鞄や胸につけるよりも、足首や膝の下、つまり歩いたり自転車を漕いだりするときに上下に動く部分につけていただきたいのです。
人間の脳は、上下に連動して動く光の点を見たときに、これは生き物だ、と本能的に判断する性質を持っています。
関節部に反射材を装着すると、ヘッドライトの光が点滅する生き物の信号としてドライバーの目に飛び込み、見落としを物理的に防ぐ効果が期待できます。
胸の反射材は、静止しているように見えるため、ドライバーには看板や標識と区別しにくいのです。
動く関節こそが、命を救う反射の位置になります。
5-4. 交差点の角の、いちばん先端には立たない
交差点で信号待ちをするときは、横断歩道の縁石のいちばん先端、つまり角の頂点には立たないようにしてください。
その位置から後方へ二歩、およそ1.5メートルほど下がった場所を、ご自身の安全のための定位置と決めていただきたいのです。
左折してくる車のボディと後輪が、完全に目の前を通り過ぎてから、あらためて横断歩道に近づく。
このひと呼吸が、巻き込み事故の軌道から物理的にご自身を引き離してくれます。
5-5. 踏切では、必ず一度立ち止まって目と耳で確認する
長尾街道周辺には、琴電長尾線の踏切が点在しております。
今年、市内のある踏切で、遮断機が下りないまま電車が通過するという事象が確認されました。
保安装置は本来絶対の信頼を寄せるべきものですが、機械にも稀に不具合は起こり得る、という前提で行動を組み直しておくことが、ご自身の身を守ります。
踏切の手前ではいったん足を止め、自転車であれば降り、イヤホンを外し、左右の線路の奥を直接目視し、音を耳で確かめてから渡る。
この古典的な所作こそが、最後の最後にあなたを守るすべになります。
6. おわりに ― 場所のクセを知ることが、見えない防具になる
長尾街道は、香川県の東部と西部を結ぶ、地域の暮らしになくてはならない大切な街道です。
そして同時に、高架橋脚、アンダーパス、沿道の大型店舗、コンパクト化された交差点、保安装置という、現代の道路インフラのほとんどあらゆる要素が密に重なる、稀有な学びの現場でもあります。
弁護士として事故の事後にかかわるなかで、いつも痛感することがございます。
それは、もし当事者の方が、その場所のクセを事前にご存じであったなら、結果はちがっていたかもしれない、という思いです。
場所の特異性を知ることは、目に見えない一枚の防具を、そっと身にまとうことに似ています。
歩いて渡られる方、自転車のペダルを踏まれる方、バイクのハンドルを握られる方。
そして、急ぎながらこの街道を走る車のハンドルを握っておられる方も。
道路という同じ舞台を共有しておられるすべての方々が、今日もどうかご無事で、それぞれの大切な目的地まで、穏やかにたどり着かれますよう、心から願っております。
本稿が、その小さな一助となれましたら、これに勝るよろこびはございません。
