坂出市の川津交差点では交通事故に注意が必要です
香川県内で交通事故被害に向き合い続けている弁護士の一人として、日々の相談業務のなかで気づかされることがあります。
それは、事故が「人」の問題として語られがちでありながら、実際にはある特定の「場所」に集中して発生しているという事実です。
事故は、関わった方の誰もが望んで起こしたものではありません。
ただ、その場所が持つ独特の構造が、人間の目や脳の働きに思わぬ落とし穴を仕掛けていることがあるのです。
今回取り上げるのは、香川県坂出市の川津交差点。
歩行者、自転車、バイクといった交通弱者の立場から、この場所の特異性を交通工学と認知科学の両面から丁寧にひもとき、自らの身を守るための具体的な行動についてお伝えしてまいります。
1. 川津交差点──県内ワースト上位という重い現実
坂出市花町三八七番地二に位置する川津交差点は、日本損害保険協会が公表した「事故多発交差点マップ(二〇〇九年版)」において、香川県内のワースト二位として記録された地点です。
単年で十九件もの人身事故が発生したという統計は、決して偶然の重なりや、たまたまその年の天候や運転者のマナーといった一過性の要因では説明がつきません。
これほど事故が集中するということは、交差点そのものに「事故を起こしやすくしてしまう何か」が構造として埋め込まれている、と考えるのが妥当です。
ここで発生している事故の大多数は、車両同士の衝突ではなく、右左折する車両と横断歩道を渡る自転車との接触です。
ぶつかっているのは「車」と「人」、より正確には「車」と「交通弱者」なのです。
この非対称な物理的衝突は、ひとたび起これば交通弱者側に大きな被害をもたらします。
だからこそ、この交差点の特性を一人でも多くの方に知っていただきたいと願っています。
2. 交差点に潜む三つの構造的な罠
川津交差点が危険なのは、運転者がうっかりしているからでも、自転車の乗り方が悪いからでもありません。
道路の形そのものと、上を覆う高架構造物が、人間の目では捉えきれない盲点を作り出しているのです。
(1) 道路が斜めに交わっているという幾何学的特異性
通常、交差点は道路が直角に交わっています。
ところが川津交差点では、国道438号線と県道19号線、そして国道11号の側道が、それぞれ斜めに交差しています。
車が右左折するとき、ハンドルを切る角度が、普通の交差点よりも鋭角または鈍角になります。
このわずかな角度の違いが、運転席から見える景色を大きく変えてしまうのです。
具体的には、フロントガラスの両脇にある支柱(Aピラーと呼ばれる部品)の裏側に、横断歩道を渡ろうとしている人や自転車が、ちょうど隠れてしまう位置関係になりやすいのです。
自動車のフロントガラスの両脇に立っている柱状の支柱のことです。
屋根を支えるために必要な構造ですが、運転席から見ると、ちょうど斜め前方の景色を遮ってしまう死角を作る原因にもなります。
(2) 高架を支える巨大な橋脚の存在
川津交差点の真上には、国道11号の高架橋が走っています。
そして、その高架を支えるコンクリート製の橋脚が、交差点の内部と周辺に複数そびえ立っています。
右折や左折をしようとする運転者から見ると、この橋脚が「分厚い壁」として立ちはだかり、その向こう側にいる歩行者や自転車を完全に隠してしまうのです。
さらに厄介なのは、車が動くにつれて、隠している死角の場所も移動するという点です。
自転車が一定の速度で横断歩道へ進んでいると、車の動きと自転車の動きと橋脚の位置関係が同期してしまい、衝突の直前まで自転車がずっと橋脚の陰に隠れ続けるという、非常に危険な状況が起こりえます。
車や自転車が動いているために、見えない範囲(死角)の位置も時々刻々と変化していく現象を指します。
止まっている状態で安全確認をしても、動き出した瞬間に死角の場所がずれてしまうため、一度の確認では発見できない危険があります。
(3) 強烈な明暗のコントラスト
高架の下は、晴れた日でも常に深い影に覆われている部分と、直射日光が差し込む部分が、まだら模様のように混在しています。
人間の目は、急な明るさの変化に対して、瞳孔の大きさを変えて適応しますが、この調節には少し時間がかかります。
年齢を重ねると、この調節速度はさらに緩やかになっていきます。
影の中にいる自転車や歩行者は、明るい背景に対して、まるで保護色のように溶け込んでしまい、運転者の目にはっきりと映らないことがあるのです。
3. 「見ていたのに見えない」という人間の特性
ここまでお読みになって、「結局は運転者がしっかり見ればいいだけでは」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、人間の視覚にはいくつもの仕組み上の限界があり、見ようとしても見えない場面が確かに存在します。
一つ目は、「見たのに見えていない」という現象です。
運転者の目は確かに自転車のいる方向を向いていて、網膜にはその姿が映っているのに、脳がそれを「注意すべき対象」として処理してくれない、という出来事が起こります。
複雑な交差点では、対向車、信号、前の車のブレーキランプなど、処理すべき情報があふれています。
脳は、自分にとってより大きな脅威となるもの、たとえば対向してくる大型車を優先的に処理し、それより小さな存在を、無意識のうちに背景の一部として扱ってしまうことがあるのです。
処理しなければならない情報や判断が多すぎて、人間の脳の処理能力の限界を超えてしまった状態のことです。
この状態に陥ると、本来は気づくべき対象を見落としてしまうことが起こります。
二つ目は、首を素早く左右に振っているそのわずかな瞬間、人間の目は実は「見えていない」という事実です。
眼球が高速で動いているあいだは、視界がぶれないように、脳が一時的に映像の入力を遮断しています。
ちょうどその「視覚が遮断されている瞬間」に橋脚の影から自転車が現れていたら、運転者の意識にその映像はまったく入ってきません。
三つ目は、「これまでこの時間にはいなかったから、今もいないだろう」という、根拠のない期待にもとづく判断です。
毎日この交差点を通る方ほど、過去の経験を頼りに、見えていない部分の状況を勝手に予測してしまいがちです。
これらはすべて、人間の脳がもともと持っている特性であり、誰にでも起こりうることです。
だからこそ、交通弱者の側にも、自分を守るためのちょっとした工夫が必要になります。
4. 交通弱者が自らを守るための五つの具体的行動
ここからは、川津交差点を通行される歩行者、自転車、バイクの方々に、実際に身につけていただきたい具体的な行動をご紹介します。
「気をつけましょう」という抽象的な呼びかけではなく、明日からすぐに実践できる物理的な動作として整理しました。
行動その一:橋脚の手前で必ず一度止まる
横断歩道に進入するときは、橋脚という壁の向こう側から自分の姿が見えていない、ということをまず自覚してください。
自転車であれば、両足を地面につけ、完全に停止します。
そして、橋脚の向こうから来る車のバンパーが見えるまで、決して進まないでください。
横断という動作を、一気にではなく、二段階・三段階に分けて行うイメージです。
これだけで、動的死角の罠は大きく弱まります。
行動その二:運転者の顔そのものを確認する
接近してくる車を見るとき、フロントガラスの中央ではなく、運転席側のサイドウィンドウ(横の窓)をのぞき込んでみてください。
斜めに交わる交差点では、運転者の顔がAピラーの裏側に位置していることが多いからです。
運転者の顔がこちらを向いているか、目線がこちらを捕らえているかを確認します。
顔が反対方向を向いたまま車が動いている場合は、自分はまだ認識されていないと判断し、車が通過しきるまで動かずに待ちましょう。
行動その三:縁石から二メートル下がって待つ
信号待ちをするとき、できるだけ縁石ぎりぎりではなく、そこから二メートルほど後ろに下がった位置に立ってください。
大型車が左折するとき、後ろのタイヤは前のタイヤよりも内側を通ります(これを内輪差と呼びます)。
斜めに交わる交差点では、この内輪差の軌道がさらに内側に深く食い込みます。
縁石ぎりぎりにいると、そのままタイヤや車体側面に巻き込まれる危険があるのです。
車がカーブを曲がるとき、後ろのタイヤが前のタイヤよりも内側を通る現象のことです。
車体が長い大型トラックやバスほど、この差が大きくなり、歩道側に深く食い込む軌道を描きます。
行動その四:昼間でも点滅ライトをつける
自転車に乗る方には、フロント部分に白色のLEDライトを装着し、点滅モードにして走行することを強くおすすめします。
反射材だけに頼るのではなく、自ら光を発することが大切です。
昼間であっても、高架下の影の中では十分に効果があります。
人間の目は、動く光や点滅する光に対して、無意識のうちに反応する性質を持っています。
情報処理に追われている運転者の注意を、こちら側に向けることができるのです。
行動その五:交差点の手前であえて速度を変える
自転車が一定の速度で走り続けていると、右左折する車のAピラーの陰にちょうど隠れ続けたまま、互いの距離だけが縮まっていくという、危険な幾何学的状態に陥ることがあります。
これを「定方位接近」と呼びます。
二つの動く物体が、互いから見える方角を変えずに、距離だけが縮まっていく状態を指します。
船舶や航空機の衝突回避の世界で古くから知られている現象で、両者の動きが同期している間は、見える位置が変わらないため衝突の危険に気づきにくいという特徴があります。
この罠から逃れるには、交差点に近づいたら、ペダルを漕ぐのを一度やめて惰性で進む、あるいは軽くブレーキをかけるなど、意図的に速度を変えてみてください。
それだけで、自分の位置が運転者の死角からずれ、見える領域に出ることができます。
5. おわりに──場所を知ることが、命を守る第一歩
川津交差点は、誰かが悪いから事故が起きているのではありません。
道路の形、高架の構造、人間の目と脳の特性──さまざまな要素が偶然に重なり合った結果として、事故が引き寄せられやすい場所になってしまっているのです。
この事実を知ることが、その場所を通行するすべての方の安全につながると信じています。
今日ご紹介した五つの行動は、いずれも難しいものではありません。
一度止まる、目を合わせる、少し下がる、光を灯す、速度を変える。
たったこれだけのことです。
しかし、この小さな積み重ねが、交通弱者の方の命を確かに守ります。
この記事が、坂出市の川津交差点を通行される一人でも多くの方の、安全な毎日に役立つことを、心から願っております。
