神経に関する後遺障害

神経に関する後遺障害認定について 日常生活への影響 神経

1.神経に関する後遺障害とは

交通事故による後遺障害と聞くと、骨折や傷跡といった外傷性のものを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
しかし、実際に最も多いのは『痛みが続く』『しびれた感覚が取れない』といった、神経に関するものです。
外傷が完治していない場合に痛みがあるのは、見た目からも理解できます。
ところが、表面的には完治していたり、時として交通事故時から見た目には外傷を負っていないにもかかわらず、痛みを訴えるというのはよくある事です。
むしろ、目に見えない症状だからこそ、周囲の理解が得られにくく、被害者本人が孤独な闘いを強いられるのが神経障害の厄介なところと言えます。

【用語解説】後遺障害
交通事故による怪我の治療を続けても、これ以上良くならない状態(症状固定)になった時点で残っている症状のこと。
自賠責保険では第1級から第14級までの等級に分類され、等級に応じて慰謝料などの賠償額が決まる。

2.神経の「エラー」による痛みがある?

そもそも『痛み』というのは、『身体に不具合が起こっている』と脳に伝える信号であるため、ごく一部の臓器を除いて全身に痛みを感じる痛覚があります。
『怪我をして血が出ている』『骨が折れている』『打撲で腫れている』といった、目視できる異常が発生していなくても、身体は異常を感じれば『痛み』というサインを出します。
しかし、本当に痛みの原因があり『痛い』というサインを出しているのならばよいのですが、痛みを発する神経プログラム自身に異常があり、身体的には痛みの原因が全くないにもかかわらず、神経がエラーを起こして『痛み』を引き起こしているケースがあります。
例えるならば、火事が起きていないのに誤作動で鳴り続ける火災報知器のようなものです。
そのようなケースではいくらレントゲンやCT・MRIなど検査しても異常が見つからず、
『原因不明の痛み』、
悪い場合には
『患者自身による狂言』
と取られかねないこともあります。
また、神経というのは繊細であるため、1㎜以下の神経の圧迫でも痛みや麻痺を引き起こします。
そのため、画像診断では異常が認められないというよりも、医師であっても異常を引き起こしているかどうか判断が出来ないというケースも多々あります。
レントゲンやCT・MRIなどの画像診断がつかなかった場合には、感覚テスト・深部腱反射テスト・筋力テストなど神経学的テストが行われます。
しかし、不随筋の神経反射以外は患者自身が悪性の方に加減することができるものも多いため、医師による診断はもちろんの事、日頃の行動も重要になってきます。
ある裁判では、交通事故の被害者が首などの痛みを訴えて後遺障害慰謝料の請求をしました。
ところが、加害者側の保険会社が『被害者は痛みがあり日常生活に支障が出ていると言うが、自動車を運転して自ら洗車するなど、被害者が訴える後遺障害があるのならばあり得ない行動をしている。』と、自動車の運転や洗車をしている映像を裁判所に提出し、裁判所が加害者側の主張を認めたものもあります。
保険会社が調査会社を使って被害者の日常生活を調査するのは、決して珍しいことではありません。
症状を偽ることは論外ですが、逆に言えば、本当に症状がある場合には、日常生活での行動と訴えている症状に矛盾が生じることはないはずです。

【用語解説】神経学的テスト
画像に写らない神経の異常を調べるための検査の総称。
代表的なものに、腱をハンマーで叩いて反射を見る深部腱反射テスト、首を圧迫して腕への放散痛を確認するジャクソンテスト・スパーリングテスト、皮膚の感覚の左右差を調べる知覚検査などがある。
本人の意思でコントロールできない反射系の検査結果は、後遺障害認定において客観的な資料として重視される。

3.「心臓の筋肉が原因で肩が痛む」ということもある

他にも『放散痛』というものがあります。
例えば心筋梗塞ならば普通は胸やその付近が痛くなる『関連痛』が起こる事が多いのですが、神経の繋がりにより原因部位の心臓とはまったくかけ離れた肩や背中、歯などの部位に痛みが現れることがあります。
そのため、患者が肩の痛みを訴えるので、医師が肩付近を重点的にCTやMRIで検査しても異常が見つからず、『単なる老化による五十肩』や『原因不明の肩痛』として診断されることがあります。
これは交通事故の後遺障害でも同じで、痛む場所と本当の原因部位が離れているために、診断が遠回りになるケースがあるのです。
筋肉の断裂による痛みの場合、大きな裂傷ならばCTやMRIなどの画像診断でも現れますが、微細である場合には画像診断でもわからないことがあります。
それでも筋肉であれば、自己治癒による修復により痛みが治まってきます。
一方、神経の断裂やエラーによるものの場合、神経の修復により軽減することもありますが、脊髄など神経の修復がされないものや、神経の繋がりが間違ったまま修復した場合には、痛みやしびれが緩和されることが無く継続して症状が現れます。
では、神経的な痛みは肉体的な痛みと違い、そのままずっと続くのかというと少し違ってきます。
継続的に同じ刺激を受け続けた場合、『慣れる』ということがあります。
身近な例では、服を着た際に服を着ていることをずっと意識し続けている人が少ないように、痛みにも慣れてきて次第に痛みに対して鈍感になる『馴化(じゅんか)』が起こります。
ここに神経障害の後遺障害認定の難しさが潜んでいます。
本人が痛みに慣れてしまうと、診察時に症状を軽く伝えてしまい、実際よりも軽い等級で認定されてしまう恐れがあるからです。
そのため、神経的な障害に関しては、痛みを感じる個人差や診断をくだす医師の判断の仕方、後遺障害認定のための診断書の内容により、後遺障害等級及び認定に大きくかかわってきます。

4.日常生活への影響

交通事故による神経の障害で起こる日常生活の支障で、一番大きなものは痛みになります。
外傷に伴う痛みであったり、むち打ちなどの一過性の痛みだったりする場合には、患者自身も痛みの原因となるものを認識しているため、時間経過に伴う自己治癒による痛みの軽減や完治を自己認識しやすくなります。
しかし、神経の障害で知覚する痛みは、外傷などを起因とするものではなく神経自体に原因がある痛みのため、
『怪我は治っているのに痛みがある』、
『むち打ちだから2週間ほどで治ると思っていたのに、1か月たっても痛みが治まらない』
といったケースが起こりえます。
痛みそのものだけでなく、いつ治るのか分からないという不安が精神的な負担となり、不眠や集中力の低下を招いて仕事や家事に支障をきたすという二次的な影響も見過ごせません。

【用語解説】むち打ち(頸椎捻挫・外傷性頸部症候群)
追突事故などの衝撃で首がむちのようにしなり、頸椎周辺の筋肉・靭帯・神経が損傷するもの。
交通事故による受傷の中で最も多く、レントゲンには写らないことがほとんどのため、後遺障害認定では通院実績や症状の一貫性が重要になる。

5.医師にも痛みの原因が分からないことがある

神経障害の場合、患者が訴えることで医師が診断するため、医師によっては、怪我は治っているので痛みがあるはずがない、患者が大げさに言っているだけだ、と患者の訴えを無視したり、自分の診断の誤りを認めたがらなかったりすることがあります。
そのため、医師と患者の間で神経障害に対する認識に齟齬が生じ、医師と患者の信頼関係が崩れることもあります。
神経障害は、交通事故で目に見えて怪我を負った部分に現れるだけでなく、一見して受傷していない部分にも表れることがあります。
交通事故の代表的な受傷にむち打ちがありますが、実際交通事故直後に首の痛みを訴えても、怪我をしているわけでも大きく腫れ上がっているわけでもないことが多いです。
それでも『交通事故で衝突したのならば、むち打ち症状が現れるのは普通』と、医師側もよくある凡例からむち打ちと判断することが多いです。
そのため、2週間くらいならば『痛いと言っているがむち打ち、いわゆる首のねん挫だから、徐々におさまってくるだろう。』と見立てます。
しかし、それを過ぎても一向に良くならない場合、神経障害を疑って精密検査をする医師と、ねん挫が長引いているか患者が大げさに言っているだけと適当に診断を続ける医師とに二極分化していきます。
もし後者の医師に当たってしまった場合には、我慢して通い続けるのではなく、セカンドオピニオンとして別の医療機関を受診することも検討すべきです。
ただし、転院を繰り返したり通院の間隔が空いたりすると、後遺障害認定の際に症状の連続性を疑われる材料になりかねないため、転院は慎重に、通院は途切れさせないことが大切です。
また、初診時から症状を漏れなく伝えることも重要です。
事故から時間が経ってから訴え始めた症状は、交通事故との因果関係を否定されやすくなるからです。

6.検査では異常が無いのに、症状が重いこともある

神経障害でひどいケースでは、検査をしても体に異常は見られないのに、起き上がる事も出来ないほどの倦怠感や痛みを感じるといったことがあります。
神経障害は痛みだけではなく、触覚・温覚など肌で感じる感覚の異常のほか、めまいや頭痛・しびれ・倦怠感など、はっきりと障害があるほどの症状ではないがすっきりしない症状、いわゆる『愁訴』という形で現れることがあります。
これらの愁訴は、頭痛や肩こり、更年期を抱えている患者の場合、すでに患者が抱えている症状なのですが、交通事故によりさらに症状がひどくなることがあります。
交通事故のせいで愁訴がひどくなった、と目に見えて交通事故以前と後で大きな差があるのならば医師に訴えやすいのですが、『年齢も年齢だから、もともとの持病が加齢で進んだだけ。』と見過ごしてしまうケースもあります。
神経障害は痛覚を刺激されて痛みを感じるといった五感を刺激するもののほかに、自律神経の変調をきたすものがあります。
神経障害によるホルモンバランスの崩れや、リンパ腺の異常から生じる症状なので、めまいや顔のほてり、頭痛・動悸・多汗・焦燥感など、更年期障害に酷似した症状が出ます。
むち打ちの後にこうした自律神経症状が現れるものは、バレ・リュー症候群と呼ばれることもあります。
交通事故直後から更年期のような症状が出たけれど年齢的なものだ、とそのまま交通事故の示談をしたものの、治療をしても1年たっても5年たっても症状が治まらないことがあります。
交通事故から長年経ってから、こんなに何年も更年期の症状が続くのはおかしい、もしかしたら交通事故が原因だったのでは、と気づいても、示談を終えているため加害者を訴えることができないといったケースも多々あります。
一度成立した示談は、原則としてやり直すことができません。
だからこそ、交通事故から今まで無かった神経障害が出たり、今まであった愁訴がひどくなった場合には、医師にその旨をきちんと伝えて、示談の前に精密検査を受けることをお勧めします。
特に担当医が外科の場合には、神経内科や更年期外来といった神経障害の専門科で、再診察と精密検査を受けるとよいでしょう。

【用語解説】バレ・リュー症候群
むち打ち受傷後に、頭痛・めまい・耳鳴り・吐き気・倦怠感などの自律神経症状が現れるもの。
首への衝撃で自律神経のバランスが乱れることが原因と考えられているが、画像検査では異常が見つかりにくく、周囲の理解を得にくい症状の代表例。

7.神経に関する後遺障害認定について

交通事故での神経に関する後遺障害は、後遺障害の等級の第1級から第14級までありますが、介護を要するものの第1級・第2級の認定を受けるのにはかなりのハードルがあるため、現実としては第5級~第14級のいずれかの認定を受けることになります。
神経に対する後遺障害認定の要件は、等級ごとに細かく条件付けされています。

介護を要する第1級(自賠責保険金額4000万円)
・神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの

介護を要する第2級(自賠責保険金額3000万円)
・神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの

第5級(自賠責保険金額1574万円)
・神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの

第7級(自賠責保険金額1051万円)
・神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの

第9級(自賠責保険金額616万円)
・神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの

第12級(自賠責保険金額224万円)
・局部に頑固な神経症状を残すもの

第14級(自賠責保険金額75万円)
・局部に神経症状を残すもの

なお、後遺障害の認定申請は、症状固定と診断された後に行います。
症状固定の時期を保険会社に急かされるまま早めてしまうと、治療費の打ち切りだけでなく、後遺障害認定でも不利になることがあるため、症状固定の判断は必ず医師と相談して決めましょう。

【用語解説】症状固定
これ以上治療を続けても症状の改善が見込めない状態のこと。
症状固定までの損害は治療費や休業損害として、症状固定後に残った症状は後遺障害として賠償請求する、という区切りの時点になる。
むち打ちの場合、一般的に6か月程度の治療期間を経てから症状固定と判断されることが多い。

8.「12級か?」「14級か?」の違いは大きい

神経障害の後遺障害認定は、同じような文言で一部違うというものが多いです。
例えば、第5級は、神経系統の機能又は精神に『著しい』障害を残し、『特に』軽易な労務以外の労務に服することができないもの、とされています。
一方、第7級は、神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの、とされています。
つまり第5級と第7級の差は、『著しい』『特に』といった数値化されていない、あいまいな表現により区分されているのです。
そのため、神経障害の後遺障害認定では、後遺障害認定が認められるか否かのほかに、
『第5級か、第7級か、第9級のいずれで認められるのか?』、
『第12級か第14級のどちらになるのか?』
というのが大きな焦点になってきます。
特に多くのむち打ち被害者に関係するのが、第12級と第14級の分かれ目です。
実務上、第12級は『他覚的所見により症状を医学的に証明できるもの』、第14級は『医学的に証明まではできないが、症状の存在が医学的に説明可能なもの』と区別されています。
つまり、MRI画像で神経の圧迫が確認でき、神経学的テストの結果とも一致していれば第12級、画像所見はないものの通院実績や症状の一貫性から症状の存在が推認できれば第14級、というイメージです。
自賠責保険金額だけでも第12級は224万円、第14級は75万円と約3倍の差があるため、事故後早い段階でMRIを撮影しておくことが極めて重要になります。
神経障害の後遺障害認定の判断材料としては医師の診断書が大きなウエイトを占めており、同じ年齢性別で、同じような神経の後遺障害がでているにもかかわらず、診断書の書き方ひとつで、『Aさんは第5級、Bさんは第9級』といったことがあり得ます。
交通事故に精通しており、患者に寄り添った診断書を発行してくれる医師ならばよいのですが、交通事故の後遺障害の診断書の書き方に不慣れであったり、医師が患者の事をあまり快く思っていなかったり、診断書を書きこむのが面倒と簡素な内容しか書かれていなかったりすると、後遺障害等級が下がる、もしくは認められない可能性が高くなります。
診断書を書くのは医師にしか認められていないため、弁護士が書くことは出来ませんが、弁護士のアドバイスの元で医師に『後遺障害等級を認められやすい文面の診断書』を書いてもらうことは可能です。
一度認定された後遺障害等級を不服として、異議申立てをすることは出来ますが、再審査をしてもらい上位の後遺障害等級に変更されるのは5%ほどとかなりハードルが高いものになります。
1度の後遺障害等級認定で希望の等級を受けるためにも、事前に弁護士・医師双方への相談は不可欠になります。

9.後遺障害認定を有利に進めるためのポイント

最後に、神経に関する後遺障害の認定を有利に進めるためのポイントを整理します。
第一に、事故当日または翌日には必ず医療機関を受診することです。
受診が遅れるほど、症状と事故との因果関係を疑われやすくなります。
第二に、通院を自己判断で中断せず、医師の指示に従って定期的に通院を続けることです。
むち打ちで第14級の認定を目指す場合、通院実績は症状の一貫性を示す最も重要な証拠のひとつになります。
第三に、痛みやしびれの部位・程度を、初診時から一貫して具体的に医師へ伝えることです。
カルテや診断書に記載されていない症状は、存在しないものとして扱われてしまいます。
第四に、画像所見が得られる可能性がある場合には、早期にMRI検査を受けることです。
第五に、後遺障害の申請方法として、保険会社任せの事前認定ではなく、自分で資料を揃えて申請する被害者請求を検討することです。
被害者請求ならば、提出する資料を自分側でコントロールでき、有利な医証を追加することができます。
そして、後遺障害認定されるか否かで、後遺障害慰謝料が支払われるかどうかが変わってくるのですが、弁護士を通じて請求する場合には判例基準で請求するため、自賠責基準に比べると大幅に増額します。
自賠責基準だと慰謝料部分は第1級で1600万円、第2級で1163万円、第5級で599万円、第7級で409万円、第9級で245万円、第12級で93万円、第14級で32万円です。
これに対し判例基準ですと、第1級で2800万円、第2級で2370万円、第5級で1400万円、第7級で1000万円、第9級で690万円、第12級で290万円、第14級で110万円なので、差は3倍近くなります。
弁護士費用が心配な方も、自動車保険に弁護士費用特約が付いていれば、多くの場合自己負担なしで弁護士に依頼できます。
目に見えない神経の障害だからこそ、医学と法律の両面から味方をつけて、正当な補償を受け取りましょう。

【用語解説】被害者請求と事前認定
後遺障害の等級認定を申請する二つの方法。
事前認定は加害者側の任意保険会社が手続きを代行するもので手間はかからないが、どんな資料が提出されたか被害者側で把握できない。
被害者請求は被害者自身が自賠責保険に直接請求するもので、手間はかかるが、有利な検査結果や意見書を自ら追加提出できるというメリットがある。