交通事故による視覚障害

角膜に傷がつくケース 眼に関する日常生活への影響

交通事故後、物が見えにくい、ピントがすぐに合わない、といった視覚に関する障害が起きることがあります。
交通事故が原因の眼の障害は、失明といった重篤な症例よりも、視力低下・視野狭窄・調節機能障害(ピントが合わない)・乱視など、見え方として発症することが多いです。
眼の障害の原因は大きく2通りあります。
ひとつは、眼の角膜や水晶体などに傷を負ったり、熱で変質してしまったことによる物理的な受傷です。
もう一つは、視神経の異常や脳などに異常が起こり、それが目の異常として発症している、神経が原因のものがあります。
この記事では、交通事故で視覚障害が起こる仕組みと、日常生活への影響、そして後遺障害等級の認定や慰謝料の考え方まで、まとめて解説します。

1.角膜が傷ついているケース

目の角膜というと、角膜移植があるくらいだからデリケートで代替えが効かない器官なのでは、と思われることが多いのですが、実際には角膜は新陳代謝が旺盛な器官です。
目は常に剥き出しのため、ホコリなどのゴミが入ってきています。
大きなゴミであれば、目に違和感を覚えて痛くなりますが、実際には痛みなどの知覚をしないくらいの細かいゴミが常に入ってきています。
そのため、角膜を保護するために涙液が角膜を覆っており、涙液はゴミを洗い流す役割もはたしています。
また、角膜には血管がないため、角膜への栄養補給は涙液が担っています。

涙が出なくなるとドライアイになる

もし、事故で涙液が出ない、もしくは出にくくなってしまうと、いわゆる『ドライアイ』となってしまいます。
ドライアイになると、角膜に栄養が補給されないため、目が疲れやすく、目にゴミが入っても洗い流せないため違和感を覚えやすくなります。
重度のドライアイになると、角膜自体にダメージが蓄積して、失明や角膜移植が必要となるケースもあります。

傷が治る時に角膜がゆがむことがある

交通事故で角膜自体に傷を負った場合、大きな傷の場合には角膜移植がとられますが、角膜自体は新陳代謝が活発な器官であるため、自然治癒に任せることもあります。
その際に、以前の通りに治ればよいのですが、傷のために角膜が変形して治ってしまうケースがあります。
ゆがんだレンズが目にあるような状態であるため、軽度ならば乱視用の眼鏡で矯正ができますが、重度の場合には角膜移植の手術が必要となります。
角膜がレンズの役割をしているのですが、角膜から入ってきた視覚情報を受け取る網膜の方に異常がある場合には、視覚の一部が欠けたり、全体がぼやけたような状態になることがあります。

【用語解説】外傷性白内障(がいしょうせいはくないしょう)
目の中でレンズの役割をする水晶体が、外からの衝撃で濁ってしまう病気のこと。
交通事故で眼を強く打った場合に起こることがあり、視界が白くかすんで見えるようになる。
事故から数か月~数年たって発症することもあるため、注意が必要とされる。

2.脳に問題があって視覚障害が発生しているケース

また、眼球自体に問題が無くとも、視覚情報を受け取って情報処理をする脳に問題があるケースがあります。
目から脳につながる神経の圧迫により目が見えなくなるといったケースでは、神経を圧迫している原因を取り除くと回復するのですが、交通事故の場合には脳内出血が原因であることもあるため、交通事故後にめまいが起こったり、視野が狭くなったり、目がかすむ場合には、目だけではなく脳の検査も受ける必要があります。
脊髄や脳に異常があって視覚に異常が出ている場合には、さらに深刻です。
手術により改善するのであれば良いのですが、手術が困難なケースも少なくなく、失明や視界が狭くなる視野狭窄に陥ることがあります。

時間をかけて進行する視覚障害に注意

交通事故による視覚障害は、交通事故直後からすぐになるものもあれば、時間をかけて進行するものもあります。
交通事故直後から視覚異常を感じたのであれば、すぐにでも診察を受けるでしょうが、問題は時間をかけて進行した場合です。
ゆっくりと進行するために、本人は視覚の異常に気付きにくく、家族が、最近よく左の肩や足をぶつけているけれども大丈夫かしら、と心配になって検査を受けさせたところ、視野狭窄で左半分が全く見えていなかったという事例もあります。
数週間から数カ月かけて視覚異常が進行する事例もあるため、交通事故後に見え方に違和感を覚えた場合には、精密検査を受けた方が良いでしょう。

3.見落とされやすい「複視」という症状

交通事故の眼の後遺障害で見落とされやすいのが、物が二重に見える複視という症状です。
複視は、眼を動かす筋肉や神経が損傷したり、目のまわりの骨(眼窩)を骨折したりすることで、左右の眼の向きがわずかにずれて起こります。
特に、頬骨や眼の下の骨を骨折すると、眼を動かす筋肉が骨折した部分にはさまり、上や横を見たときに物が二重に見えることがあります。

複視は日常生活を大きく妨げる

複視があると、階段の段差が二重に見えて踏み外したり、車の運転で対向車との距離感がつかめなくなったりと、日常生活や仕事に深刻な支障が出ます。
複視は片方の眼を隠すと二重に見えなくなるという特徴があるため、これによって症状の有無を確認できます。
後遺障害としても認定の対象となり、正面を見たときに複視が生じる場合には、より重い等級が認定される可能性があります。

【用語解説】複視(ふくし)
一つの物が二つに重なって見える症状のこと。
眼を動かす筋肉や神経の損傷、眼窩骨折などが原因で起こる。
後遺障害の認定では、ヘスコルメーターという専用の検査でずれを客観的に測定することが重視される。

4.日常生活への影響

身体の感覚情報のうち、視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚を合わせて五感と呼びます。
どれも重要な感覚情報なのですが、医学的に見ると感覚情報の約80%は視覚によるものだと言われています。
単に視覚は色や形だけを見分けているのではなく、奥行きや距離感、明暗、人や物の動き、平行垂直などの平衡感覚、見たものを頭の中で処理をして、氷だから冷たい、といった情報を引き出したりと、多角的に情報を提供しています。

視覚障害は日常生活にあたえる影響が大きい

そのため、交通事故で視覚に障害が出ると視覚情報が減少するために、多くの支障が出ます。
両目の完全失明となった場合、今まであった視覚情報がなくなるため、以前の生活と同程度の日常生活を送るためには、大きく努力する必要があります。
また、文字を読むことによる情報の入手ができなくなるため、点字やパソコンの文字の読み上げ機能を用いる必要が出てくるため、その技術を習得する必要があります。
視力低下や視野狭窄の場合、見えているが十分とは言えないため、程度により違いますが、支障が出てきます。
視力低下の場合、メガネやコンタクトなどで矯正できる範囲であればまだよいのですが、視力矯正の効果がない場合には、光は感じるが目の前が霧のように真っ白、10cmまで近づけたらかろうじて新聞が見える、と症状が重い場合には全盲に近い支障が出てきます。
視野狭窄は視界が狭くなる症状ですが、視界の一部が欠けているが日常生活に支障がない、左半分が全く見えない、小さな穴を覗いているような視界しかない、と様々です。
視野狭窄の場合、視力は問題ない程度にあることもあり、軽度ならばあまり支障なく日常生活を送れますが、重度の場合には見えない範囲が大きいため、身体をぶつけてしまったり、つまずくなどの危険性が高まります。
特に高齢者の場合には、つまづいた時にとっさに受け身などの防御反応が行えないため、骨折などにつながる事故の危険性があります。

バランス感覚にも問題が発生する

視覚に障害が出た場合、見えないという障害に付随して出てくるのがバランス感覚の問題です。
人は視覚によって奥行や平行・垂直などを判断しています。
耳の中にある三半規管で平衡感覚を取ってはいるのですが、ずれが生じるために視覚情報でその補正をしています。
バランステストで目を閉じたまま50歩足踏みをして、どれだけずれたかを測定するものがあります。
目を開けたまま行えばその場からほぼずれることなく行えますが、目を閉じると多くの人は始発点から大きくずれてしまいます。
特に骨格にゆがみがあると、視覚情報がないとまっすぐに足踏みができないため、自分では静止しているつもりでも、5m以上離れているということがあります。
そのため平坦な地面でも転倒しやすく、小さな凹凸や傾きでも足を取られやすく、バランスを崩しがちになります。
左右で視力に違いがある場合には、視力の良い方の目を酷使してしまうため、眼精疲労を引き起こしやすくなります。
乱視などで左右の見え方が違う場合には、右目は地面が水平に見えるが左目は右に傾いて見える、というように違う視覚情報を脳に伝えてきます。
日常生活で慣れてくれば、右に2度ほど下がって見えている場合が本当は水平、などと分かりますが、交通事故で突然そのような状態になると、間違った視覚情報から本当の状況を把握できるまで、訓練を要することとなります。

ドライアイの症状は、意外と大変

涙液が減少する後遺症では、ドライアイの症状が深刻です。
ドライアイはその名の通り目が乾燥するため、目に異物感があったり、眼精疲労しやすかったり、角膜に傷を負った際に治りにくいという症状があります。
そのため、涙液と類似した目薬を点眼する必要があります。
深刻なドライアイの場合には2時間おきに点眼が必要なケースもあり、定期的な診察も必要となってきます。

5.視覚障害の後遺障害認定について

交通事故での視覚障害に関する後遺障害は、両目が失明する重篤なものから、軽度の視力低下といった比較的軽度のものまで幅広くあります。
交通事故の受傷により以前より大幅に視力が落ちた場合、一律に後遺障害認定の等級が決まるかというとそうではありません。
眼の視力に対する後遺障害認定の要件は、細かく条件付けされています。

第1級(自賠責保険金額3000万円)
・両目を失明したもの

第2級(自賠責保険金額2590万円)
・1眼が失明し、他眼の視力が0.02以下になったもの
・両眼の視力が0.02以下になったもの

第3級(自賠責保険金額2219万円)
・1眼が失明し、他眼の視力が0.06以下になったもの

第4級(自賠責保険金額1889万円)
・両目の視力が0.06以下になったもの

第5級(自賠責保険金額1574万円)
・1眼が失明し、他眼の視力が0.1以下になったもの

第6級(自賠責保険金額1296万円)
・両目の視力が0.1以下になったもの

第7級(自賠責保険金額1051万円)
・1眼が失明し、他眼の視力が0.6以下になったもの

第8級(自賠責保険金額819万円)
・1眼が失明し、または1眼の視力が0.02以下になったもの

第9級(自賠責保険金額616万円)
・両目の視力が0.6以下になったもの
・1眼の視力が0.06以下になったもの
・両眼に半盲、視野狭窄または視野変状を残すもの

第10級(自賠責保険金額461万円)
・1眼の視力が0.1以下になったもの
・正面を見た場合に複視の症状を残すもの

第11級(自賠責保険金額331万円)
・両眼の眼球に著しい調節機能障害または運動障害を残すもの

第12級(自賠責保険金額224万円)
・1眼の眼球に著しい調節機能障害または運動障害を残すもの

第13級(自賠責保険金額139万円)
・1眼の視力が0.6以下になったもの
・1眼に半盲、視野狭窄または視野変状を残すもの
・正面以外を見た場合に複視の症状を残すもの

視力は「矯正視力」で判定される

後遺障害の等級を判断する視力は、眼鏡やコンタクトレンズで矯正した後の矯正視力が基準となります。
そのため、裸眼では視力が低くても、矯正して基準を上回る視力が得られる場合には、後遺障害としては認められないことになります。

視力が0.6以下となった場合に認められる

視覚障害の一番軽度なものは、1眼の視力が0.6以下になったもの、で、パソコンやスマホを多用する現代社会では、健常者で矯正視力が0.6以下という人も少なくありません。
そのため、メガネやコンタクトで0.6を超える視力が得られるのであれば、交通事故の後遺障害として認められないケースもあります。

6.視覚障害の賠償金が減額されるケース

交通事故以前から視力が悪い場合には、それを鑑みて後遺障害等級が決められるため、後遺障害慰謝料は減額されることもあります。
例えば、交通事故以前の視力が眼鏡で矯正していても、右が0.8・左が0.6であったとします。
交通事故で両目の視力が0.2になった場合、第9級の、両目の視力が0.6以下になったもの、に該当するので、通常ならば自賠責保険金額616万円になります。
しかし、交通事故以前から第13級の、1眼の視力が0.6以下になったもの、に該当するため、616万円-139万円=477万円が自賠責保険金額となります。

【用語解説】素因減額(そいんげんがく)
被害者がもともと持っていた病気や体質、事故前からの症状が、損害の拡大に影響したとみなされる場合に、賠償額が減らされること。
交通事故前からの視力低下がある場合には、その分が差し引かれることがある。

高齢者の場合には減額されるケースもある

加害者側との紛争は、視力障害に関しては検査技術の向上により詐病がしにくいこともあり、症状よりも交通事故以前の視力がどうであったかが争点となることが多いです。
先述したように、昨今では視力が低下した若年層も多く、高齢者においては加齢により老眼やピント調整不全が起こるため、その分の減額が主張されることが多いです。
特に高齢者の場合は、健康診断を受けておらず眼科に通院していない場合、交通事故以前の視力の証明がしづらく、年齢相応の視力ならば現在の視力でもおかしくないので交通事故の後遺症とは認められない、と後遺障害認定が受けられないケースも多くあります。
こうした事態を避けるためにも、日頃から眼科の受診記録や健康診断のデータを残しておくことが、いざという時の証拠として役立ちます。

7.後遺障害慰謝料と弁護士に相談するメリット

後遺障害認定されるか否かで、後遺障害慰謝料が支払われるかどうかが変わってくるのですが、弁護士を通じて請求する場合には判例基準で請求するため、自賠責基準に比べると大幅に増額します。
自賠責基準だと慰謝料部分は第1級で1100万円、第2級で958万円、第4級で712万円、第9級で245万円、第11級で135万円です。
しかし判例基準ですと第1級で2800万円、第2級で2370万円、第4級で1670万円、第9級で690万円、第11級で420万円なので、差は3倍近くなります。

【用語解説】自賠責基準と弁護士基準(判例基準)
自賠責基準は、自賠責保険から支払われる最低限の補償額を算定する基準。
弁護士基準(判例基準)は、過去の裁判例をもとにした基準で、3つある算定基準の中で最も高額になる。
同じ後遺障害でも、どの基準で計算するかによって慰謝料が大きく変わる。

視覚障害の後遺障害では、慰謝料だけでなく、視力低下によって仕事に支障が出た分の逸失利益も請求できます。
特に細かい作業や運転を伴う職業の方は、収入への影響が大きくなりやすいため、逸失利益を適切に主張することが重要です。
ご自身やご家族の自動車保険に弁護士費用特約が付いていれば、多くの場合300万円まで弁護士費用が保険で賄われ、特約を使っても保険等級は下がらないのが一般的です。
視覚障害は、事故前の視力の立証や複視の検査など、専門的な対応が求められる分野です。
適正な等級と賠償を受けるためにも、交通事故に詳しい弁護士へ早めに相談することをご検討ください。