息子さんの死亡事故。過失割合で勝利。総額8000万円を勝ち取った事例

飲酒運転のひき逃げにより、大切なご家族を亡くされた事例をご紹介します。
この事件では、刑事裁判で加害者の実刑判決を勝ち取り、民事裁判では、総額8000万円の賠償を実現しました。
そして、本来なら被害者側にも過失があるとされてもおかしくない事案で、被害者の過失0という、画期的な判断を得ることができました。
交通死亡事故のご遺族が、加害者の処罰と正当な賠償の両方を実現するために、弁護士が何をできるのか。
この記事では、実際の解決事例をもとに、くわしく解説します。
なお、この記事は、大切な方を交通事故で亡くされたご遺族が読まれることも考えて、書いています。
つらい記述もふくまれますが、同じ立場のご遺族の助けになることを願って、ご紹介するものです。
1.事故の発生状況
被害者は、ある大学に通っていた男子大学生でした。
夜、帰宅の途中で、交通事故に遭いました。
被害者が幹線道路を徒歩で横断していたところ、加害者の車にひかれてしまったのです。
被害者は、即死でした。
これからの人生が広がっていたはずの、若い命が、一瞬にして奪われました。
加害者の車両の運転手は、飲酒運転をしていました。
車には、運転手のほか、職場の同僚2人が乗車していました。
さらに、加害者の車は、事故を起こした後、その場から逃走しました。
けがをした人を助けることもせず、逃げたのです。
本件は、飲酒運転による過失と、救護義務違反が問われた事案でした。
交通事故を起こした運転者には、ただちに車を止めて、けがをした人を救護する義務があります。
これを怠って現場から立ち去ることを、救護義務違反といいます。
いわゆる、ひき逃げのことです。
救護義務違反は、それ自体が重い犯罪であり、厳しい刑罰の対象になります。
2.ご遺族からの依頼・相談の経緯
当事務所には、被害者のご家族から、ホームページをご覧いただいたことをきっかけに、ご依頼をいただきました。
ご相談の中で、被害者のお母様には、強いご希望がありました。
損害賠償の話よりも、まず、加害者を厳しく処罰してほしい。
そういうご意志でした。
交通死亡事故のご遺族のお気持ちとしては、当然のことだと思います。
お金の問題の前に、まず、罪をきちんと償わせたい。
そう考えるのは、ごく自然な感情です。
そこで、当事務所では、お母様の強いご希望を受けて、警察に対して、刑事告訴の手続きをおこないました。
犯罪の被害者やその遺族などが、捜査機関に対して、犯罪の事実を申告し、加害者の処罰を求める手続きのことです。
単なる被害の届出とは違い、処罰を求める意思を正式に表明するものです。
遺族の処罰感情を、捜査機関にはっきりと伝える意味があります。
ここで、交通事故の責任のしくみについて、簡単に説明しておきます。
交通事故の加害者は、大きく分けて、2つの責任を負います。
一つは、刑事責任です。
これは、犯罪として、懲役や罰金などの刑罰を受ける責任です。
もう一つは、民事責任です。
これは、被害者やご遺族に対して、損害賠償金を支払う責任です。
刑事と民事は、別々の手続きで進みます。
そのため、加害者の処罰と、損害賠償の請求は、それぞれ別の活動として、進めていくことになります。
本件では、弁護士が、この両方の活動をおこないました。
3.刑事事件の活動 実刑判決の獲得
刑事裁判では、裁判所での、ご遺族の意見陳述がおこなわれました。
犯罪の被害者やご遺族が、刑事裁判の法廷で、被害についての気持ちや事件についての意見を述べることができる制度です。
述べられた意見は、裁判官が刑罰を決めるときの資料にもなります。
被害者側の声を、直接、裁判に届けることができる、重要な制度です。
刑事裁判は、本来、検察官と被告人との間で進められる手続きです。
被害者やご遺族は、そのままでは、裁判の外に置かれてしまいがちです。
大切な家族を奪われたのに、何も言えないまま裁判が終わってしまう。
それでは、ご遺族の気持ちは、置き去りにされてしまいます。
だからこそ、意見陳述制度を利用して、ご遺族が法廷で直接、声を届けることには、大きな意味があるのです。
本件では、ご遺族が、非常に厳しい意見陳述をおこないました。
その結果、一審では、1年半程度の実刑判決が出ることになりました。
実際に刑務所に入ることを命じる判決のことです。
これに対して、一定の期間、罪を犯さなければ刑務所に入らなくてよい、という判決を、執行猶予付き判決といいます。
交通事故の刑事裁判では、執行猶予が付くことも多く、実刑判決は重い処罰にあたります。
ご遺族が非常に厳しい意見陳述をおこなったということもあって、実刑に持ち込めたと考えています。
これに対して、加害者は、刑罰が重い、と主張して、控訴しました。
自分で飲酒運転をして、人の命を奪って逃げておきながら、刑が重いと主張したのです。
しかし、控訴審でも、結果は変わりませんでした。
交通死亡事故として、実刑が確定しました。
お母様のご希望であった、加害者への厳しい処罰は、こうして実現されたのです。
なお、刑事事件に力を入れることは、民事事件にとっても、意味があります。
刑事裁判では、実況見分調書など、事故の状況に関する記録が作成されます。
こうした刑事事件の記録は、あとの民事裁判で、事故状況や加害者の悪質性を立証するための、重要な証拠になるのです。
刑事と民事は別の手続きですが、たがいに、つながっているのです。
4.民事事件の活動 総額8000万円の獲得
刑事事件と並行して、民事事件、つまり損害賠償の請求も進めました。
民事事件では、まず、自賠責保険に請求をおこないました。
すべての自動車に加入が義務づけられている、強制保険のことです。
交通事故の被害者を最低限救済するための保険で、死亡事故の場合、支払われる上限額は3000万円です。
被害者側から直接、自賠責保険に支払いを請求することもでき、これを被害者請求といいます。
本件は交通死亡事故でしたので、自賠責保険から、3000万円が支払われました。
この3000万円が先に支払われたことには、大きな意味がありました。
裁判には、時間がかかります。
その間、ご遺族の生活は続いていきます。
まず自賠責保険から支払いを受けることで、ご家族が経済的に問題のない状態に復帰することができたのです。
生活の基盤を安定させたうえで、腰をすえて裁判にのぞむ。
これが、当事務所のとった進め方でした。
そして、そののち、加害者に対する損害賠償請求の裁判をおこないました。
裁判の結果、さらに5000万円を勝ち取ることができました。
すでに支払い済みの3000万円と合わせると、総額8000万円となります。
大学生の交通死亡事故の事件としては、非常に高額な案件のひとつといえるでしょう。
ここで、死亡事故の損害賠償のしくみについて、少し説明しておきます。
死亡事故の損害賠償は、主に、次のような項目で構成されます。
亡くなられたご本人とご遺族の精神的苦痛に対する死亡慰謝料。
将来得られるはずだった収入に対する死亡逸失利益。
そして、葬儀関係の費用などです。
亡くならなければ、将来、働いて得られたはずの収入に対する賠償金です。
学生など、まだ働いていない方の場合でも、将来働くはずだった、という前提で、統計上の平均賃金などをもとに計算されます。
若い方ほど、働けたはずの期間が長いため、金額は大きくなる傾向があります。
大学生には、まだ実際の収入はありません。
それでも、これから社会に出て、長い期間、働くはずだった、という前提で、逸失利益が認められます。
若くして亡くなられた方の事件で賠償額が大きくなるのは、奪われた将来が、それだけ長く、大きかったからなのです。
5.最大の争点 過失割合で完全勝利
民事の裁判では、過失割合について、特に争われました。
交通事故が起きたことについての責任の割合を、加害者と被害者の間で分けたものです。
被害者に過失があると、その割合の分だけ、受け取れる賠償金が減らされます。
これを過失相殺といいます。
たとえば、被害者の過失が30パーセントとされると、賠償金も30パーセント減額されてしまいます。
意外に思われるかもしれませんが、歩行者であっても、過失があるとされることはあります。
本件の被害者は、信号のない幹線道路を横断していました。
このような事情を考えると、被害者に30パーセント程度の過失が問われても、おかしくない事案でした。
もし30パーセントの過失が認められてしまえば、賠償金は、3割も減らされてしまいます。
金額にすれば、数千万円単位の減額になりかねません。
過失割合は、それほど大きな争点なのです。
これに対して、当方からは、加害者側の落ち度の大きさを、徹底的に指摘しました。
加害者が飲酒運転であったこと。
そして、救護義務を怠って逃走したこと。
これらの事情からすれば、責任はすべて加害者にある、という主張です。
ここで、過失割合の考え方について、補足しておきます。
過失割合は、事故の型ごとに、基本となる割合の目安が定められています。
しかし、それで終わりではありません。
飲酒運転のような、加害者側の著しく悪質な事情があれば、その分、加害者側の過失が重く修正されるのです。
つまり、基本の割合はあくまで出発点であり、個別の事情によって、結論は動くのです。
当方は、この修正の考え方をふまえて、加害者側の悪質性を主張しつくしました。
その結果、最終的に、被害者の過失は0で認められました。
つまり、加害者が100パーセント悪い、という判断です。
これは、画期的な判断でした。
当時、飲酒運転による交通事故の重罰化が、社会的に議論されていました。
この判決は、そうした流れにも寄与できたのではないかと考えています。
6.今回の解決のポイント
今回の解決のポイントは、2つあります。
一つ目は、刑事事件で、被害者サイドから積極的にはたらきかけたことです。
刑事告訴によって処罰を求める意思を明確に示し、意見陳述制度によって、ご遺族の声を法廷に直接届けました。
その結果、加害者の実刑判決を取得することができました。
交通死亡事故では、ご遺族の気持ちが置き去りにされがちです。
法的に意見を述べる場を確保し、ご遺族の気持ちをケアできたことは、金額には表れない、大きな成果だったと考えています。
二つ目は、民事事件で、過失割合について粘り強く主張したことです。
被害者の過失も、本来なら多少はあったといえる案件でした。
しかし、加害者側が悪すぎる、ということを熱心に主張した結果、被害者の過失0という、非常によい判決を受けることができました。
過失割合は、あきらめずに争うことで、結論が変わり得るものです。
保険会社や相手方が主張する過失割合を、そのまま受け入れる必要はありません。
そして、もう一つ、付け加えるとすれば、早い段階でご相談いただけたことも、よい結果につながった要因だと考えています。
刑事裁判に被害者側として関与するには、時機を逃さないことが大切です。
刑事裁判が終わってしまってからでは、意見陳述の機会は失われてしまいます。
交通死亡事故では、できるだけ早く、弁護士に相談することをおすすめします。
7.交通死亡事故のご遺族へ
最後に、この事例をふまえて、交通死亡事故のご遺族にお伝えしたいことを、まとめます。
一つ目は、加害者の処罰を求める道がある、ということです。
刑事告訴や意見陳述制度など、被害者側が刑事手続きに関わる方法は、用意されています。
処罰感情を抱くことは、決して恥ずかしいことではありません。
その気持ちを法的な形にする手伝いを、弁護士はすることができます。
二つ目は、当面の生活資金を確保する方法がある、ということです。
自賠責保険への被害者請求を活用すれば、示談や裁判の決着を待たずに、先に支払いを受けられる場合があります。
経済的な不安を減らしたうえで、じっくりと裁判にのぞむことができます。
なお、本件では加害者が特定されましたが、ひき逃げで加害者がわからないままの場合や、加害者が無保険の場合には、政府保障事業という国の制度によって、救済を受けられることがあります。
ひき逃げだからといって、補償をあきらめる必要はないのです。
三つ目は、過失割合を安易に受け入れない、ということです。
歩行者側に過失があるとされそうな事案でも、飲酒運転やひき逃げなど、加害者側の悪質な事情があれば、結論は変わり得ます。
提示された過失割合に疑問があれば、必ず、専門家に相談してください。
大切なご家族を亡くされた悲しみは、何をもってしても、癒えるものではないと思います。
それでも、加害者にきちんと責任を取らせること、そして、残されたご家族の生活を守ることは、前に進むための、大切な一歩になります。
多くの法律事務所では、交通事故の相談を無料で受け付けています。
おひとりで抱え込まず、どうか、専門家を頼ってください。

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