「視力低下」の障害

角膜に傷がつくケース 眼に関する日常生活への影響

1.交通事故による「視力低下」とは ― 原因は1つではない

交通事故に遭ってから、視力が低下する、物がゆがんで見える、ということがあります。
眼球への直接の外傷のほかに、脳の視覚野に障害が生じているケース、視神経に障害があるケース、心因的なことから発生しているケースなど、原因は様々にあります。
つまり、目そのものは無事でも、目から脳までの経路のどこかに異常があれば、視力低下は起こり得るのです。
原因がどこにあるかによって、受けるべき検査も治療法も変わってくるため、まずは代表的な4つの原因を見ていきましょう。

2.角膜が傷ついたことによる視力低下のケース

外傷性の視力低下の原因の多くは、角膜が傷ついたケースです。
角膜はレンズの役割をしており、例えるのならば、ガラスレンズに傷がついてしまったために物が見づらくなっている、といった状態です。
角膜自体の修復能力は高く、浅い傷であれば数時間~数日で自己再生します。
目に砂が入って痛く、見づらい感じがしたけれども数日で治った、というような経験はないでしょうか。
目は傷つきやすいのですが、物を見るためには角膜が露出している必要があるため、まつ毛とまぶたでほこりを防ぎ、涙で異物を洗い流す、という保護機能があります。
それでも傷がつく可能性があるため、角膜は修復能力が旺盛なのです。
しかし、角膜の修復能力が旺盛でも、深く傷ついてしまった場合には修復しきれないですし、修復をしたとしても変形してしまうことがあります。
その場合は、傷があるレンズやゆがんだレンズを通して見ている、という状況であるため、視力低下や乱視を引き起こします。
自己治癒が期待できないため、傷ついた角膜の表面をレーシックやPRK・ラセック等の手術で除去したり、角膜移植などの方法がとられたりします。
また、角膜だけでなく、眼球の奥にも注意が必要です。
交通事故の衝撃では、水晶体が濁る外傷性白内障や、網膜がはがれる網膜剥離が、事故から時間が経ってから発症することもあるため、事故後しばらくは定期的な眼科検査を受けることをお勧めします。

【用語解説】外傷性白内障・網膜剥離
外傷性白内障は、打撲などの衝撃で目のレンズである水晶体が濁り、視界がかすむもの。
網膜剥離は、フィルムの役割をする網膜が眼球の壁からはがれるもので、放置すると失明に至ることもある。
どちらも事故直後ではなく、数週間から数か月遅れて症状が出ることがあるため、交通事故後の定期検査が重要になる。

3.視神経の損傷が関係するケース

視力低下には、視神経が関係していることもあります。
視神経は目と脳をつなぐ神経で、目が受けた電気信号を、視覚として脳が処理をします。
角膜に入ってきた視覚情報に問題が無くとも、伝言役の視神経に問題がある場合には、脳にうまく信号が伝わらず、視力低下として症状が現れることがあります。
視神経に異常がある原因としては、閃光など激しい光で視神経が傷ついた、脳の浮腫などで視神経が圧迫されて神経伝達がうまくいっていない、といったことが考えられます。
視神経の障害は、目の表面の検査だけでは見つからないことがあります。
その場合、光の刺激に対する脳の反応を波形で記録する、視覚誘発電位(VEP)という検査が行われることがあり、本人の申告に頼らず異常を客観的に確認できるため、後遺障害の立証においても重要な検査になります。

【用語解説】視覚誘発電位(VEP)検査
光の刺激を目に与え、脳の視覚野に伝わる電気信号を頭皮から記録する検査。
視神経や脳の視覚経路に異常があると波形に乱れが出るため、本人の自覚症状に頼らずに、視覚の異常を他覚的に証明できる。
視力検査だけでは因果関係を疑われやすい視神経障害の立証に役立つ。

4.脳の異常による視力低下のケース

視神経の異常に関連して、受け取り手である脳の異常も考えられます。
角膜からの情報を正しく視神経が伝えても、脳に異常がある場合には、視力低下を引き起こすことがあります。
よく、頭を打った際に目がかすんだり吐き気がしたりすることがあるけれどそれは危険信号、と言われるのは、脳に異常があり目からの視覚情報を処理できておらず、目がかすんだり、視点が定まらず平衡感覚がくるって吐き気を催すことが原因です。
この場合、脳に深刻なダメージを負っている可能性が高いので、早急な治療が必要となってきます。
交通事故の後に、視界の異常と、頭痛・吐き気・めまいが同時に現れた場合には、眼科ではなく、まず救急外来や脳神経外科を受診してください。

5.心因性の視力低下のケース

もう1つの原因が、心因性のものです。
心因性というのは、身体上には異常がないものの、心の問題で目が見づらくなっているケースです。
人は大きなストレスがかかり過ぎると、自然とその情報をストップしようとします。
例えば、不快な音に対して、耳から入っているにもかかわらず、意識から外してしまうことがあると思います。
日常的には、工事の音とか、自動車が行きかう音、苦手な人の声など、知らず知らずに聞き流しているのも、こういった心理が働いているからです。
視覚でも、同じことが起こることがあります。
交通事故では、時として凄惨な事故現場となることがあります。
『自分が怪我をして大量の血が出た』、
『目の前で子供が交通事故で死亡した』、
『事故の相手が大怪我を負った』
というような、目を覆うような惨状に遭遇した場合、見たくない、といった強い心的ストレスがかかり、目や脳に異常がなくても、見るという行為にストップがかかるのです。
この場合は、検査では視覚関係の異常が見つからないため、医療的な治療の方法はなく、心理学的なアプローチでの治療が行われます。
なお、心因性の視力低下は、目や脳の異常という客観的な証拠を示せないため、後遺障害としての認定は非常に難しいのが実情です。
その場合でも、PTSDなど精神面の障害として評価される可能性はあるため、精神科・心療内科での治療記録をきちんと残しておくことが大切です。

6.日常生活への影響 ― 人は情報の8割を視覚から得ている

人には、五感と言われる、視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚の感覚機能があります。
五感はすべてが平均的に働いているのかというと、そうではなく、覚醒している間は、ほとんどが視覚による情報に頼っています。
物の形や色・光の明るさ暗さ・物との距離・物の動き・平衡感覚・人の表情など、脳が視覚から得る情報は五感のうちの80%で、残りの20%が視覚以外の感覚から得た情報になります。
そのため、交通事故の後遺症により視力が低下すると、視覚による情報が減ってしまうため、交通事故以前と比べて、大きな支障が現れることがあります。
目にゴミが入ったり、目の病気で一時的に視力が低下して、不便に感じたことはどなたでもあると思います。
その状態が恒常的に起こるため、
『小さな文字が見づらい』、
『遠くがかすんで見える』、
『距離感がつかめず、コップなどが一度でつかめない』、
『距離感を誤って、机やタンスにぶつかってしまう』、
『全体的に霧がかかっているように見えて、はっきりと物が見えない』
といったことが起こります。
また、見えづらさは仕事にも直結します。
特に注意したいのが、自動車の運転免許です。
普通免許の更新には両眼で0.7以上などの視力の条件があり、視力低下の程度によっては、免許の更新ができず、運転を仕事にしている方は職を失うことにもなりかねません。
このような場合、後遺障害の等級以上に収入への影響が大きいため、逸失利益の算定においても重要な事情になります。

7.視力低下による平衡感覚の失調

もう1つの大きな問題が、平衡感覚がくるってしまうことです。
平衡感覚は、自分の体がどのような体勢でいるかを把握したうえで、転倒しないように体のバランスを取っています。
そのバランスを取るうえで重要な役割を担っているのが、三半規管と視覚です。
三半規管は、実際の体のバランスを監視している器官です。
例えば、目をつぶったまま体を右に倒していった場合、体が右に倒れて行っている、と感じるのは、三半規管の働きによるものです。
しかしながら、三半規管の働きは完璧ではなく、個人差や老化により狂いが生じています。
三半規管では補いきれない平衡感覚を修正するのが、視覚情報になります。
身体の歪みをチェックする方法に、目をつむったまま、その場で30秒足踏み、というものがあります。
身体にゆがみがあればあるほど、その場で足踏みをしているつもりでも、だんだんとずれて行ってしまいます。
しかし、目を開けて行えばその場にとどまる事が出来るのは、視覚の情報から、ずれてきているので調整しろ、と脳が判断して、足を踏む位置を微調整しだすので、ずれることが無いのです。
車酔いや、最近では3D酔いと言われるものは、三半規管は体が動いていないと判断しているのに、視覚では高速に動いたり飛んだり跳ねたりしていて、脳がどちらの情報が正しいのか混乱してしまうから起こります。
結果的に平衡感覚がくるってしまい、頭痛や吐き気、身体の震えなど、乗り物酔いの症状が起こってきます。
視力低下の場合には、視覚情報が大幅に減ってしまうため、三半規管は体を動かしていると感じているのに、視覚はあまり変わらないので止まっていると判断して、その齟齬から吐き気等の不快感が起こるということがあります。
視力が回復するのが一番の解決方法ではあるのですが、薬物治療で完治をするようならばよいのですが、手術でなければ治らなかったり、根本的な治療法がなかったりする場合には、長期間または一生涯、視力低下をかかえて生活をしていかなければなりません。

8.「視力低下に気づかない」という恐怖

交通事故による視力低下で恐ろしい点は、視力低下に気付かないことがある、ということです。
視力低下には、交通事故で急激に視力が奪われるケースと、徐々に視力が落ちていくケースがあります。
急激に視力が落ちた場合には異常を感じることができますが、徐々に落ちて行った場合、特に患者が高齢者であった場合には、最近物が見づらくなってきたけど老眼かしら、と思い込んでしまいます。
眼科に行っても、医師があまり検査もせずに、患者の年齢からしたら老眼だな、と安易に診断を下してしまうケースもあります。
また、片方の目だけが視力低下した場合、もう片方の目が視覚を補ってしまうため、両目で生活している限り異常に気づきにくい、ということもあります。
時々片目ずつ隠して見え方を確かめてみると、左右の視力差に早く気づくことができます。
交通事故後、日常生活で見え方に違和感を感じた場合には、眼科だけでなく、脳神経外科なども併せて精密検査を受けた方が良いでしょう。
そして、その違和感は必ず医師に伝えて、カルテに記録を残してもらいましょう。
症状の訴えが事故から遅くなるほど、交通事故との因果関係を否定されやすくなるからです。

9.「視力低下」の後遺障害認定について

視力低下に関する後遺障害等級については、視力検査の数値によって決まる事が大半です。
視力低下と関連して、視野狭窄やまぶたの欠損がありますが、それらも等級分けがはっきりとしており、他の身体部位と比べて、比較的分かりやすい等級別と言えます。
なお、ここでいう視力とは、裸眼視力ではなく、メガネやコンタクトレンズで矯正した後の矯正視力を指します。
つまり、矯正してもなお視力が出ない場合に、後遺障害として評価されるのです。
視力低下とそれに関係する後遺障害認定の要件は、以下の通りになります。

第1級(自賠責保険金額3000万円)
・両目を失明したもの

第2級(自賠責保険金額2590万円)
・1眼が失明し、他眼の視力が0.02以下になったもの
・両眼の視力が0.02以下になったもの

第3級(自賠責保険金額2219万円)
・1眼が失明し、他眼の視力が0.06以下になったもの

第4級(自賠責保険金額1889万円)
・両目の視力が0.06以下になったもの

第5級(自賠責保険金額1574万円)
・1眼が失明し、他眼の視力が0.1以下になったもの

第6級(自賠責保険金額1296万円)
・両目の視力が0.1以下になったもの

第7級(自賠責保険金額1051万円)
・1眼が失明し、他眼の視力が0.6以下になったもの

第8級(自賠責保険金額819万円)
・1眼が失明し、または1眼の視力が0.02以下になったもの

第9級(自賠責保険金額616万円)
・両目の視力が0.6以下になったもの
・1眼の視力が0.06以下になったもの
・両眼に半盲、視野狭窄または視野変状を残すもの
・両眼のまぶたに著しい欠損を残すもの

第10級(自賠責保険金額461万円)
・1眼の視力が0.1以下になったもの

第11級(自賠責保険金額331万円)
・両眼の眼球に著しい調節機能障害または運動障害を残すもの
・両眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの
・1眼のまぶたに著しい欠損を残すもの

第12級(自賠責保険金額224万円)
・1眼の眼球に著しい調節機能障害または運動障害を残すもの
・1眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの

第13級(自賠責保険金額139万円)
・1眼の視力が0.6以下になったもの
・1眼に半盲、視野狭窄または視野変状を残すもの
・両眼のまぶたの一部に欠損を残しまたは、まつげはげを残すもの

第14級(自賠責保険金額75万円)
・1眼のまぶたの一部に欠損を残しまたは、まつげはげを残すもの

補足すると、失明とは、眼球を失った場合のほか、光をまったく感じない場合や、目の前の手の動きや明暗がかろうじて分かる程度の状態も含まれます。
また、視野の障害については、ゴールドマン視野計などによる視野検査で、視野の欠けの範囲を測定して判定されます。

【用語解説】矯正視力
メガネやコンタクトレンズで矯正した状態で測定した視力のこと。
後遺障害の等級は、原則としてこの矯正視力で判定されるため、裸眼視力がどれだけ落ちても、矯正で視力が出る場合には等級の対象にならない。
逆に言えば、矯正しても視力が回復しないことが、認定の前提条件になる。

10.「視力低下」の後遺障害の注意点 ― 事故前の視力が考慮される

視力低下に関する後遺障害に関しての注意点は、交通事故以前の視力が鑑みられる点です。
例えば、両目の視力が0.02以下となった場合は、後遺障害等級第2級となりますが、実際に第2級の保険金額の2590万円が支払われるかというと、人により違ってきます。
もし、交通事故以前の視力が1.0ならば、自賠責保険より最高2590万円が支払われます。
しかし、もともと両目が0.1ならば、最高1294万円となります。
両目が0.1というのは後遺障害等級第6級相当で、第6級の自賠責保険の最高額は1296万円です。
そのため、もともと第6級相当の障害があり交通事故で第2級となった、ということになるので、2590万円-1296万円=1294万円が、自賠責における最高金額となります。
つまり、交通事故以前のもともとの視力が悪ければ悪いほど、健常者の人と比べて、悪化したとされる後遺障害等級の差が小さくなるため、自賠責保険の支払い上限額は少なくなるということになります。
このような算定方法を、加重(かじゅう)といいます。
ここで重要になるのが、事故前の視力の証明です。
運転免許の更新時の視力検査の記録や、健康診断・人間ドックの結果、メガネを作った際の処方記録などが、事故前の視力を示す資料になります。
事故前の視力が良かったことを証明できれば、その分正当な補償につながるため、心当たりのある記録は捨てずに集めておきましょう。

【用語解説】加重(かじゅう)
交通事故の前からすでに障害があった場合に、事故後の障害の等級に応じた金額から、既存の障害の等級に応じた金額を差し引いて支払う仕組みのこと。
もともとの視力が悪い人ほど差し引かれる額が大きくなるため、事故前の視力をどう証明するかが争点になりやすい。

11.弁護士に依頼するメリット

後遺障害認定されるか否かで、後遺障害慰謝料が支払われるかどうかが変わってくるのですが、弁護士を通じて請求する場合には判例基準で請求するため、自賠責基準に比べると大幅に増額します。
自賠責基準だと、慰謝料部分は、第5級で599万円、第7級で409万円、第9級で245万円、第12級で93万円、第14級で32万円です。
この一方で、判例基準ですと、第5級で1400万円、第7級で1000万円、第9級で690万円、第12級で290万円、第14級で110万円なので、差は3倍近くなります。
また、視力の後遺障害では、慰謝料のほかにも、事故前の視力の証明、運転免許を失うことによる転職・減収の逸失利益への反映、加重の計算の妥当性など、専門的な判断が必要な争点が多くあります。
自動車保険に弁護士費用特約が付いていれば、多くの場合自己負担なしで弁護士に依頼できます。
見える、という当たり前が損なわれた損害は、決して小さなものではありません。
早めの検査と記録、そして専門家への相談で、適正な補償をきちんと受け取りましょう。